腓骨神経麻痺(ひこつしんけいまひ)

印は、腓骨神経断裂の好発部位です。
 
(1)病態

 長時間の正座で、足が痺れて立つことも歩くこともできなくなることがありますが、これは、一過性の腓骨神経麻痺です。腓骨神経は、坐骨神経から腓骨神経と脛骨神経に分岐しています。腓骨神経は、膝の外側を通り、腓骨の側面を下降して、足関節を通り、足指に達します。

 腓骨神経は、最も外傷を受けやすい神経で、膝窩部周辺や足関節の外傷で断裂することがあり、大腿骨顆部や脛骨顆部、足関節果部の粉砕骨折では、要注意です。
 
(2)症状

 腓骨神経麻痺では、足関節の背屈や足関節は自動運動が不能で、下垂足(かすいそく)となり、あひる歩行(※)=鶏歩、また、外反運動が不能になり内反尖足(ないはんせんそく※)を示し、足背の痛みを訴えます。腓骨神経の完全断裂では、足趾の自動運動も不能となります。

※ あひる歩行
 鶏歩とは、下垂足なので、足を高く持ち上げ、つま先から投げ出すように歩くことです。

※ 内反尖足
 具体的には、足指と足首が下に垂れた状態ですので、靴下がうまく履けません。同じことは靴を履くときにも見られます。その都度座って、片手で足を支えてやらないと、靴下も靴もうまく履くことができないのです。車の運転も、右足でアクセルやブレーキを踏むことはできません。スリッパやサンダルは歩いているうちに脱げてしまいます。
 走行・正座・和式トイレの使用は当然に不可、右下腿をしっかり保持できませんので、常時、杖や片松葉の使用が必要となります。
  
(3)診断と治療

 腓骨神経麻痺は、MRI、針筋電図検査神経伝達速度検査などで確定診断がなされています。これらの検査は、自賠責保険の認定上、必須となります。

 麻痺が、神経の圧迫、絞扼性神経障害であるときは、圧迫の回避で局所の安静をはかり、メチコバール(ビタミン12)の内服、運動療法などの保存療法が行われます。

 断裂の治療として、日本整形外科学会のホームページでは、神経損傷のあるものは、神経縫合術、神経移植術が行われ、神経の手術で回復の望みの少ないものは腱移行術が実施されるとありますが、坐骨神経、脛骨神経、腓骨神経となると、医学論文では、ラットで実験されている段階であり、現状で、完全断裂は、治療の施しようがない状況です。

 下垂足のままだと、歩くことも困難で日常生活を送るのにも非常に不便ですから、ADLを改善する目的で、足関節を固定する、距踵関節固定術が行われています。 秋葉事務所でも、完治例はみたことがありません。
  
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