毎度お馴染み、人身傷害ウォッチャーの秋葉です。 久々にこのシリーズを続けます。
 
 以前まで・・・人身傷害の約款改悪シリーズ 夢の全額補償が破壊された ①
 
 今回の問題ですが、以前から損保ジャパン日本興亜のグループは賠償先行でも人傷先行でも、裁判となれば、その基準を総損害額とみなす規定であることを評価して、「24年2月最高裁判例に応じた約款改定をして、潔い」としました。しかし、ある約款条文を見落としていました。これは既に、あいおいニッセイ同和さんが採用していた、上限規定です。これについては過去記事をご覧下さい。
 
 人身傷害の約款改悪シリーズ 夢の全額補償が破壊された ③
 
 この③で指摘していることは・・・「人身傷害の損害額について、裁判で決まった額を総損害額と認めますが、支払う人身傷害保険金は限度があり、その限度額は人身傷害基準で計算された額です」との条項によって、以下の不都合が起きることです。

 自身に過失が大きい場合、例えば80:20ですと、裁判で相手から20%を回収し、次いで自契約の人身傷害に80%を請求しても、人身傷害の限度額規定によって、この裁判基準の80%は確保できない、つまり、総損害額の全額確保はできない問題です。

 これが、損保ジャパン日本興亜の約款にも含まれていたのです。書き方が巧妙で、気付くのが遅れました。この条項は、日本興亜と合併を機とした約款改定(平成26年7月1日~27年9月30日)から確認できます。この約款によって、裁判基準額で人身傷害(無保険車傷害)を回収する方法が潰されています。具体的に説明します。

 加害者が無保険で過失割合は0:100、相手が一方的に悪い事故です。この場合、相手からの回収は諦め、自契約の人身傷害に請求することが、残念ながら普通のことでした。多くの交通事故相談でも、そのように回答しているようです。しかし、私達が以前から推奨してきた策は、「まず、相手と裁判して、(すんなり回収できれば解決ですが)、相手の支払可能の有無に関わらず、判決額を確保します。

 そして、その額を人身傷害、あるいは無保険車傷害に請求するものです。

 この、いわゆる宮尾メソッドを全国の弁護士に流布してきました。

 人身傷害の約款では裁判基準で支払うか否か、長い間、不明瞭な記載が続きました。これが平成24年2月の最高裁判例で定まったのですが、定まったのはあくまで、人身傷害の先行請求後の求償額についてです。これを受けて、各社、約款改定しましたが、どうもスッキリしません。東海のグループは求償規定のみで、賠償先行については記述無し(つまり、無視?)、三井住友のグループは「協議」で逃げて(?)います。

 また、無保険車傷害保険が人身傷害に併存しており、その支払基準は、そもそも「まず、保険会社基準で計算しますが、裁判となればその額を支払う」としていましたので、支払基準のダブルスタンダード状態だったのです。

 これについて、各社は近年の改定で無保険車傷害は人身傷害に組み込む、あるいは、支払基準を同じに改定(改悪ですが)しています。今回、新たに連携弁護士から報告された事案は、まさにこの約款改悪によって不利益を被っています。

 相手が無保険、0:100事故ですが、あえて相手と裁判し、その判決額を人傷社に請求しましたが、「確かに裁判で決まった額を総損害額と認めますが(第6条(損害額の決定)(3))、第8条(支払保険金の計算)(3)の②に記載があるように、支払額の限度額は人身傷害の基準で計算しますので、結局、人身傷害基準の100%が支払限度です」との結論になりました。
 
 まさに約款のトラップを感じます。最初に「裁判で決まった額なら、裁判基準を認めます」としながら、「でも、支払限度額は人身傷害基準でね」・・最後にイスを引かれたようです。確かに30:70などの場合、自身の過失分である30%を回収する場合、人身傷害基準であっても、その上限額に届かず、全額確保は可能でしょう。しかし、今まで賠償保険のカウンターとして機能していた無保険車障害は人身傷害の約款に準じられ、その精神が骨抜きになった感があります。

書き方が実に巧妙、最後まで読まないと気付かないルールです。 つづく