3メガ損保で唯一、交通乗用具フルセットの損保ジャパンさんですが、かつての補償内容が全部元通り!とまでは言えません。補償の削減条項があります。自動車が絡まない(自動車に跳ねられたわけでもなく、自動車に乗っていた時の事故でもない)、例えば、歩行中に自転車に当て逃げされた場合は、支払い保険金に制限があります。

 察するところ、かつてのモラルリスク(保険金の不正請求)の回避が目的と思います。

 例えば、家の階段でコケて骨折したが、「自転車でコケて足を折りました」と言って請求してくる詐欺者や、テニス中にアキレス腱を切っても、「テニスの帰りに自転車のひき逃げに遭ってケガをしました」と言って請求してくる詐欺者がそこそこ居るので困ります。

 自転車でコケたとする単独事故では、加害者がいないので警察に事故届することはありません。ひき逃げも捕まらなければ、事故の証明者がいません(目撃者がいて、その情報から加害者が特定できれば別ですが)。つまり、第3者の証明がない、自己申告のみの事故となるのです。これが、人身傷害が”ざる保険”と言われた所以です。

 保険会社にとって、「なんでもかんでも人身傷害保険に請求してくる」心配が尽きないのです。その為、治療費実費はみても、慰謝料(精神的損害)や休業損害など、詐欺者が求めるであろう部分はカットしたいのです。後遺障害や死亡部分に制限はありません。やはり、ちょっとしたケガでの支払い増を懸念した結果と思います。この特則は、あいおいさんが先行して採用後、損保ジャパンさんは、令和3年1月1日の約款改定「交通乗用具復活」より盛り込みました。
  
(1)損保ジャパンさんの約款  人身傷害交通乗用具事故特約「損害額に関する特則」

第5条(損害額に関する特則)

 普通保険約款人身傷害条項第6条(損害額の決定)⑴の規定にかかわらず、第1条(保険金を支払う場合)⑴①に規定する事故のうち、自動車の運行に起因する事故および自動車の運行中の事故のいずれにも該当しない事故(つまり、自動車が絡まない交通事故)の場合で、賠償義務者が存在しない(つまり、自爆事故)または賠償義務者の住所および氏名もしくは名称が確認できないとき(つまり、ひき逃げで相手不明)は、普通保険約款別表3に定める損害額算定基準における次の損害に対する額を差し引いた額を損害額とします。
 
① 第1 傷害による損害 2.休業損害
 
② 第1 傷害による損害 3.精神的損害
 
 つまり、自動車が絡まない事故での、単独事故、ひき逃げ(相手不明)の場合は、「治療費はだすけど、休業損害と慰謝料は勘弁して」 となります。

 なお、「後遺障害による損害」や、「死亡による損害」では、このような制限はなく、従来通りに慰謝料等を含めて払うようです。
 
(2)東京海上日動さんの場合    
 
第6条 「お支払いする保険金に関する特則」

 当会社は、普通保険約款人身傷害条項第4条(お支払いする保険金)(2)の規定にかかわらず、人身傷害事故のうち、自動車または原動機付自転車の運行に起因する事故および自動車または原動機付自転車の運行中の事故のいずれにも該当しない場合、同条項の別紙に規定する傷害のうち、下表に該当する損害を差し引いた額を損害の額とします。
 
① 第1 傷害による損害 2.休業損害
  
② 第1 傷害による損害 3.精神的損害
  
 2024.1.1改定から、損Jさんと同じように支払い制限を盛り込んでいます。ほとんど、損保ジャパンさんと同じように規定してますが、適用範囲にやや違いがあります。自動車や原付バイクが絡まない事故で、人身乗用具(に規定する乗り物)での事故受傷の場合、傷害部分の慰謝料・休業損害を払わないことになります。自爆事故、ひき逃げに限っていないので、損Jより適用範囲が厳しくなっています。後遺障害と死亡については、損Jに同じくこのような制限はありませせん。
 
(3)あいおいさんの場合 「交通事故特約」条項

第5条(交通乗用具に関する交通事故等における保険金の支払いについて特則)

 東海日動型に同じく、交通乗用具(に規定する乗り物 ※1 )なら、自爆事故、ひき逃げに限らず、傷害部分の慰謝料・休業損害を払わないことになります。損Jさん東海日動さんに同じく、後遺障害と死亡は制限なしです。
 

 
(4)他社は? 交通乗用具を残している、日新さん、全労済さん、AIGさん

 三井住友さんは、令和3年から「自転車・車いす・ベビーカー・シニアカー事故傷害定額払特約」として、交通乗用具の乗り物を4つに限定し、支払い内容も「通院○日以上で○円」と定額払いにしています。ですので、この削減条項とは無縁です。すると、交通乗用具をフルで残している掲題の3社が気になります。最新約款を確認しましたが、そのような条項は見当たりませんでした。このまま、良い条件(約款)が続くのでしょうか。それとも、数年遅れて、東海日動さん、損Jさんに続くのか・・。
  
 また、来年の約款改定を待ちましょう。それまで、ごきげんよう。