通勤災害の「寄り道」についてケーススタディを続けましょう。
 
(Q)帰宅途中、美容院に寄った後の交通事故受傷は通勤災害となるでしょうか?

 当社に勤務するOLの堀越さんは、今月末で退職します。その2日前に社内で送別会をやってくれました。軽く飲食があり、流れ解散で午後5時頃に会社を出ました。そして、堀越さんは途中の乗換駅近くの美容院に立ち寄り、美容院を出て帰宅の途中に交通事故で受傷しました。

 美容院は大変込み合っており、2時間も待たされたとのことですが、本件は通勤災害となるでしょうか?
 
(A)S58-8-2基発第420号で「出退勤の途中、理・美容のため理髪店もしくは美容院に立ち寄る行為は、特段の事情が認められる場合を除き、労災保険法第7条3項但書に規定する、日用品の購入その他これに準ずる日常生活上、 必要な行為に該当するものとする。」との行政解釈が示されました。

 信じられないことに、少し前までは、男子の理髪店での散髪は「日常生活上、必要な行為」として認められていながら、女子の美容院は認められていなかったのです。労働局のお役人は、そのことを、「美容院は女子が美しくなるところ?」と理解していたようです。エステ、ネイルであればそうなりますが・・。

 (ちなみに、飲食も社内、かつ、短時間であり、送別会自体は会社の行事、つまり”業務”に入りますので、退社後の「通勤中の事故」であることに問題はありません。)
 
 問題は「特段の事情」になるか?です。

 理髪店や美容院で1~2時間の待ち時間は日常茶飯事ですから、これは問題になりません。

 論点は美容院に行く目的と頻度となります。基本的に、お役人は、床屋さんは月に1回程度行く日常の身だしなみと考えているようなのです。頻度は髪型などから個人差がありますが、ここでも生真面目に検証されます。
 
・お見合いの前日に特別な髪型にしてもらい、ついでに美顔術まで受けた?

・お正月を前に日本髪を結いに行った?

・・・これらは、非日常・イベント的な行為ですので、通勤災害から外れます。

・キャバ嬢さんが出勤前に美容院に寄った? しかも、週2回!

・・・これは仕事の内容と密接に関係する行為ですし、その頻度も仕事上過度とは言えません。日常生活上、必要な行為と認められるでしょう。(問題はキャバクラが労災に入っているか?でしょう。)
 
※ キャバ嬢さんじめ、水商売の皆さんはその業務形態から、何かと労災の適用が議論になります。一例として、”お客さんと同伴”による出勤では、その間の飲食中の事故について、業務災害では「業務上の行為か、私的な行為か」、あるいは、その前後の交通事故では、「通勤の中断か否か」等、判別が難しいことが多いのです。

 サラリーマンの労災適用ですら厳しい審議がありますので、総じて自由業の皆さんは、審議どころか真偽を検証される傾向です。(今回も上手いことを言う)