例の山口県阿武町の誤入金問題で大きな進展がありました。ニュースの通り、電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕されたT容疑者さんの出金先、決済代行業者3社が町に約4300万円をあっさり返還しました。  

 阿武町側が田口容疑者が税金を滞納していたことから、税金滞納者に対する徴収法に基づき、同容疑者の口座があるA銀行に情報提供を求め、口座からの金の動きを把握、決済代行業者を揺さぶった結果です。回収を果たした阿武町の代理人弁護士である中山先生は、テレビでしらっと「どういうわけか全額振り込んできました」のような事を言っていましたね(正確には9割回収)。法律関係者は気付いています。「たかが地方税数万円の差し押さえ手続きのついでに、少し脅しをかけただけで・・4000万円が」と言う「してやったり」、あるいは皮肉が込められているのです。

 多くの識者、周囲の弁護士さん達が感心していることは、中山先生がT容疑者の地方税滞納(わずかな金額でしょうが)に着目し、その取り立て・差し押さえを可能とする国税徴収法に基づいて、決済代行会社に圧力をかけた点です。法知識は元より、法律を応用して回収を果たした力業は称賛です。

 国税徴収法に基づく財産調査であれば、迅速にお金の流れを調査でき、滞納処分は強い処分なので、滞納処分の税金が少額であっても、口座全体を押さえることができるようです。今後、様々な事案に応用できる手段だと思います。以下、この機に少し勉強しました。

 
○ 国税徴収法

 国税(関税等を除く)の滞納処分、その他の徴収に関する手続の執行について必要な事項を定め、私法秩序との調整を図りつつ、国民の納税義務の適正な実現を通じて国税収入を確保することを目的とする法律です。

 国税徴収法は、制定された当初、より広く国税の賦課、徴収や争訟などに関する通則的な規定を含んでいました。1962年(昭和37年)の国税通則法の制定後は、国税の一般的・通則的規定は国税通則法に移され、国税徴収法は国税の徴収に関する専門分野を規律する法律として整理されました。その後、細かな改正が続いています。
 
 国税徴収法の内容は、主に以下の2つになります。

(1)国税の徴収確保などの観点から定められた実体的規定。すなわち国税は、原則としてほかのすべての公課や債権に先だって徴収される(8条、国税の一般的優先権)、とする。しかし、私法秩序との調整の観点から、法定納期限を基準として、それ以前に設定された質権、抵当権などの被担保債権は、租税に優先します。

 つまり、原則、他の公的な債権より優先的に取り立てできますが、取り立ての順序を重んじて、個人の権利を優先することがある点がポイントです。

 また、国税の徴収確保を目的として、第二次納税義務に関する規定があります。第二次納税義務の制度は、本来の納税義務者から国税を徴収することが困難な場合において、当該納税者と一定の関係にある者(たとえば合名・合資会社の場合、その社員など)を第二次納税義務者とし、本来の納税義務者にかえて、これに税負担を求めます。

 単なる関係者を連帯保証人扱いにできません。やはり、利益を共有する法人内の人に限るようです。 

(2)滞納処分に関する手続的規定。税額が確定されたにもかかわらずその納付がない場合は、督促、財産の差押え、差押え財産の換価、換価代金の充当という一連の強制徴収手続がとられます。国税徴収法には、このような一連の手続を能率的に執行し、かつ、関係者の権利の保護を図りつつ国税の徴収を確保するための詳細な手続規定が置かれています。

 国税徴収法は国税にとどまらず、地方自治体での地方税や各種の公租公課の徴収の基本法にもなっています。多くの公租公課について、国税徴収法が準用されています。行政法の中にもしばしば登場しています。