およそ、もめ事の解決は感情に走るより、冷静に損得勘定をするべきです。
 
 まずは、保険でどうにかなるか、それを考える必要があります。それは以前の記事でも取り上げました。
 
👉 法律問題ではなく、保険の有無!
 
 今日は、物損事故でケーススタディしたいと思います。
 

車両保険先行 ~ 金持ちケンカせずを実現

 ある日、有村さん(仮名)は信号待ち停車中に追突事故に遭いました。今年で10年目の愛車は無残にお尻が潰れてしまいました。加害者の岡田さんは平謝り、「すみません、保険で弁償します」とのことです。警察の現場検証を終えて、その日はレッカー移動しました。

 翌日、相手の保険会社:甲斐損保のアジャスター(査定員):田辺さんが工場にやってきて、「え~と、修理費は60万ですね。ただし、車の価値は20万円でしょうか。経済的全損ですね。あとは、担当者から連絡します。」と帰りました。


 
 次の日、損保の担当者:阿部さんから「修理する場合、対物全損差額費用がありますので、全額お支払いできます。買替の場合は、平成25年車ですから、査定額は20万円です」と。 

 愛車ですが、さすがに10年落ちの車を60万円もかけて修理するのは・・現実的ではありません。しかし、車検をとったばかり、買替は2年先と思っていたところ、たった20万円では軽の中古車すら買えません。明日からの通勤の足もありません。「20万円なんてふざけた額ではどうにもなりませんよ!(怒)」と食って掛かっても、担当者はカエルの面にション便、「じゃあ、修理しますか?」との対応です。

 頭にきて、法律相談へ。なんでも、自動車保険に「弁護士費用特約」があるので、弁護士を雇うお金がでるそうです。そこで、弁護士に対物交渉をお願いしようと思いました。
 
弁護士 松本先生:「買替の場合、全損額を引き上げる交渉です。それと、買替費用を加算します。レッドブックの金額が基本ですが、中古車価格を調べます。なるべく高い販売価格の広告を根拠にします。」
 
有村さん:「先生にお願いしたいと思いますが、どの位、増額が見込めますか?」と質問。
 
弁護士 松本先生:「そうですね、ネットをみると最大で28万円の販売価格があります。買替費用の全額は無理でも、実際に買替の書類を揃えれば+4万円ほどはいけそうです。」
 
有村さん:「それでも合計32万円ですか・・。もう少し増額は無理でしょうか? せめて50万円は・・」
 
弁護士 松本先生:「50万円は厳しいです。民法の損害賠償とは、原状復帰が原則です。古い車ですから、その価値までしか取れません。”新車に買替”まで認めたら、利得になってしまうのです。裁判してもそう変わらないものです。」
 
有村さん:「そうですか(しょんぼり)。少し考えます。」と弁護士事務所を後にしました。
  
 有村さんは困り果てて、知人の紹介で秋葉に相談しました。
  
有村さん:「弁護士さんに頼んでも10万円位しか上がらないのですが、どうしたら良いのでしょうか?」
 
秋葉:「行政書士に頼んでも上がりませんし、そもそも、行政書士は賠償交渉ができません。それより、車両保険に入っていませんか?」
 
有村さん:「確か入っています。これが証券です。」
 
秋葉:「見せて下さい。ふむふむ、車両価額80万じゃないですか、しかも自己負担は免0です。修理費の60万円をもらって、さっさと解決しましょう。」
 
有村さん:「えっ、60万円も? でも、相手が悪いのに自分の保険を使うんですか? 来年の掛金も上がるし嫌です・・。」
 
秋葉:「お気持ちはわかります。でも、これで面倒な交渉をしなくても、買替に充てる費用として60万円まで確保できます。それと、”車両無過失事故特約”が自動付帯されています。この特約は、相手が100%悪く、その保険会社から回収の見込みが立てば(最近の約款では、立たなくても)、車両保険を使っても等級ダウンしません。ノーカウント事故になるのですよ。」
 
 👉 等級プロテクトの代わりになる車両保険無過失事故特約
  
有村さん:「えっ、そうなんですか。今までの悩みは何だったのですか!」
 
秋葉:「自分の車両保険を使って物損解決する方法を、私達は”車両先行”なんて呼んでいます。これで、何の交渉もせず、弁護士に依頼する必要もありません。保険金を貰った後、自分の保険会社が相手保険会社に求償(払った分の請求)をするだけです。つまり、車両保険に加入していた方は、”金持ちケンカせず”を実現できます。後は、有村さんのお気持ちの整理だけです。早く新車を見に行きましょう!」
 
有村さん:「そうですね、悔しさは残りますが・・その方が楽です。それにしても、どうして誰も教えてくれなかったのでしょうか?」
 
秋葉:「本来、有村さんの味方であるはずの代理店さんが、これに気付いて提案すべきですね。それから、弁護士先生と言えど、すべての先生が自動車保険に精通しているわけではありません。法律の専門家であるが故に、どうしても法律や理屈で考えてしまうのでしょうね。」
 
 こうして、面倒な交渉から抜け出して、車両保険金を受け取り、あっけなく物損事故は解決しました。有村さんは、買替のタイミングが2年早まりましたが、新車の納車を待つだけとなりました。
 
 本件も、法律より保険の駆使により、解決に導いた典型例と思います。車両先行は、有能な代理店さんなら良く使う手法です。私達も、多くのケースで楽な物損解決に誘導しています。
 
 交通事故はじめ、もめ事の解決には、まず保険を探す、保険を駆使する、これが第一歩です。難しい交渉に取り組む、あるいは弁護士に任せたとしても、数か月~数年も争う時間や労力、精神的負担が生じます。保険請求と比べて損得を判断して下さい。