(1)病態

 耳の後遺障害では、耳鳴りの訴えがダントツです。秋葉事務所でも脳損傷や顔面の骨折など、明らかに耳・聴覚にダメージが予想されるケースはもちろん、むち打ちなどでも耳鳴りを立証してきました。実績ページをご覧いただくと後者の苦労がお分かりかと思います。
 
 まずは、どうして耳鳴りが起こるのか?について・・
 
1、ヒトが音を聞くとき、まず音が外耳から鼓膜に伝わります。
 
2、鼓膜は、音によって振動し、その振動は、つち骨・きぬた骨・あぶみ骨の耳小骨によって増幅され、
 
3、音は、内耳の蝸牛(かぎゅう)に届きます。
 
4、 蝸牛は音を電気信号に変換し、聴神経を通じて脳に伝えることで、脳は音として認識するのです。
 

 
 そして、耳鳴りとは、実際に、ジンジン、キィーンの音が鳴っているのではなく、脳が音を感知できないことにイライラし、電気信号を増幅しているのです。つまり、ヒトは、脳が反応して送り出している電気信号を耳鳴りと感じているのです。したがって、耳鳴りの基礎には、「聞こえないこと=難聴」が存在しているのです。

 自賠責保険は難聴のない耳鳴りに原則、等級はつきません。
  
(2)症状

 被害者の多くは、昼間はなにも感じないが、夜、布団に入るとジンジン、ザワザワとして眠りにつけないと訴えています。
 
 秋葉事務所では、最初に耳鳴りの具合を以下のように質問します。

 「耳鳴りは、”ざわざわ”ですか? それとも”キーン”でしょうか?」
 
 ⇒ ざわざわの場合、事務所では「セミ系」と呼び、低周波域の耳鳴りと想定します。

 ⇒ キーンの場合、事務所では「金属系」と呼び、高周波域の耳鳴りと想定します。

 稀に双方、併存(時によって変わる)被害者さんもおりましたが、おおよそ、二つに大別しています。
 
(3)治療

 精神安定剤、ビタミン剤、血管拡張剤などの内服、内耳の神経細胞の異常興奮を静める目的で局所麻酔剤を静脈注射すること、95%の酸素に5%の炭酸ガスを混合したものを30分間吸入し、内耳の血流を改善する混合ガス治療、自律神経のバランスを取り戻し、血流を増加させる星状神経節ブロックなどが行われていますが、いずれも、対症療法であり、著効は期待できません。

 最近では、治すよりも馴れる方向で様々な療法が研究されており、TRT療法は、その最たるものです。
 
※ TRT、耳鳴り順応療法
 耳鳴りの音に順応、馴化させるように脳を訓練する療法で、TCI、耳鳴り制御機器を使用します。
 
(4)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 耳鳴りを感じるときは、事故後1カ月以内に、耳鳴り外来のある耳鼻科を受診し、治療を開始しなければなりません。耳鼻科では、難聴を確認する目的で、オージオグラム検査が行われます。検査結果表の下部には、標準純音聴力検査における平均聴力レベルが記載されています。3分法、4分法、6分法で左右の聴力が記載されているのですが、注目すべきは、6分法です。

6分法における平均聴力レベルが、30デシベル以上
であれば、後遺障害の対象となります。

 
Ⅱ. 耳鳴りを立証する検査

 耳鼻科で治療を開始、受傷から6カ月を経過しても、耳鳴りの症状が改善しないときは、耳鳴りの後遺障害を立証する検査を受けなければなりません。

① オージオグラム検査:聴覚レベルの検査です。

② ピッチマッチテスト:耳鳴りの音質を計測するテストです。

③ ラウドネスバランステスト:耳鳴りの音量を計測するテストです。

④ マスキングレベル:雑音を大きくして、耳鳴りの消える音の強さを計測するテストです。

(3)後遺障害等級

Ⅰ. 30デシベル以上の難聴を伴い、著しい耳鳴りを常時残すことが、ピッチマッチやラウドネスバランス、マスキングレベル検査で立証できるものは、12級相当が認定されています。
 
その実例 👉 12級相当:耳鳴り(50代男性・東京都)
 
再申請での実例 👉 12級相当:耳鳴り 異議申立(40代女性・兵庫県)
 
Ⅱ. 6分法では30デシベル以下であっても、4000、8000Hzの高音域で30デシベル以上の難聴が認められ、ピッチマッチ、ラウドネスバランス、マスキングレベル検査で耳鳴りの存在が確認できたときは、14級相当が認められています。
 
その実例 👉 14級相当:耳鳴り(50代男性・群馬県)
 
高音域での立証例 👉 14級相当:耳鳴り(30代女性・東京都)
 

 自賠責保険 調査事務所は、これらの認定基準を明らかにしておらず、本件の解説は推定です。ちなみに、労災保険では、ピッチ・マッチ検査などで裏付けることはできないものの、症状に一貫性があるなど、耳鳴りがあることが窺われるものは14級を認定すると、障害認定必携に表記しています。

 頚椎捻挫の逸失利益は、裁判であっても14級9号で5年、12級13号で10年程度が最大ですが、耳鳴りで12級相当が認定されたときは、他覚的所見が立証されており、67歳までの請求となります。したがって、耳鳴りは、見逃せない後遺障害です。

 最悪のパターンは、耳鼻咽喉科の受診が遅れたケースです。受傷から3カ月以上を経過した時点で、耳鼻科を受診、耳鳴りが立証されたとしても、本件事故との因果関係を立証することができません。外傷医学の常識では、すべての症状は、受傷から3カ月以内に出現するとされているからです。このケースでは、後遺障害は非該当とされます。耳鳴りが気になりだしたときは、ためらわずに耳鼻科を受診する! このことを忘れないでください。
 
なんとかリカバリーした実例 👉 12級相当:耳鳴り(60代男性・埼玉県)
  
※ dB、デシベルとは?

 現実の競争社会では、得点の高い方が優れている、順位が上であることが圧倒的です。野球、サッカー、フィギュアスケートでは、得点の高い方が勝者となります。短距離やマラソンは時間との戦いであり、速い方が勝ちですが、我々は順位で見ており、違和感はありません。ところが、その錯覚で混乱するのが、聴力です。

 聴力は音の大きさであるデシベルdBと、音の高低を表す周波数ヘルツ、HZを交差させて求められています。したがって、dBの数値は小さいほど、よく聞こえる、優れていることになります。

 健康診断では、オージオメーターを使用して1000HZと4000HZで検査を行っています。1000HZでは、日常会話に必要な聴力のレベルを調べ、4000HZは、高音域で発生する難聴を早期に発見する必要から調べているのです。つまり、オージオメーターから発生する大小の音を聴き取れるかで難聴を判定しているのです。
 
1000HZにおける正常値は、0~30dB
 
4000HZにおける正常値は、0~40dB
 
 いずれも、0に近いほど、よく聴き取れることになります。19歳では、正常値は0dBですが、年齢により聴力も衰えることから、範囲設定がなされています。

 難聴で身体障害者手帳の交付がなされるのは、聴力レベルが70dB以上からです。伝音性難聴は補聴器で矯正できますが、感音性難聴は矯正ができません。
 
Ⅴ.  30デシベル以上の難聴を立証できないときは、耳鳴りで後遺障害の認定はありません。

 その耳鳴りは、頚部交感神経の損傷を原因とするバレ・リュー症候群と予想されるところから、整形外科に並行してペインクリニックを受診、星状神経節ブロックを受けて改善を果たすことになります。平均的には、2週間に1回のペインクリニックの通院で、2カ月もすれば、改善が得られます。
 
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