側頭骨骨折後の顔面神経麻痺を解説します。

側頭骨骨折ですから、耳の障害と言うより頭部外傷のカテゴリー、頭蓋骨骨折の一つとしてすでに解説済みです。
 
 👉 頭部外傷 ⑥ 側頭骨骨折 Ⅰ
  
 今回はその復習も兼ねます。秋葉事務所では、顔が歪む程の顔面神経麻痺の認定はありませんが、痛み・しびれ・無感覚・異常感覚での12級13号、14級9号の認定はいくつかあります。いずれも側頭骨骨折起因ではなく、頬骨(きょうこつ=ほほの骨)、眼窩底骨折によるものです。側頭骨骨折に限定すると、側頭葉の硬膜下血腫で高次脳機能障害はありました。
 
 側頭骨骨折は、ターゲットCTで立証が完了している前提で話を進めます。

(1)病態

 顔面神経は、脳の顔面神経核から神経の枝を伸ばし、小脳橋角部を通って、側頭骨の細い骨のトンネル、顔面神経管の中を通り、耳たぶの奥の方の茎乳突孔から側頭骨を出て、さらに耳の前の耳下腺の間を貫いて顔面を動かす表情筋に分布しています。

 顔面神経核から表情筋の経路のどこかが障害されると、表情筋を動かす信号が入ってこなくなり、表情筋が動かなくなり、結果、顔面が動かなくなります。この状態を、顔面神経麻痺といいます。
 
(2)症状

 顔の表情筋は20以上もあり、顔面神経麻痺の程度と範囲とで、様々な症状があります。

 1. 顔が曲がっている、 2. 眼が閉じにくい、 3. 口角が上がらない、

 4. 水や食事が口から漏れる、 5. 笑うと顔がゆがむなど、
 
 顔面神経麻痺では、顔面のどこに麻痺を発症しているかにより、どこを走る神経が切断されているか、あるいは圧迫されているかを察知することができます。

 顔面神経が通る側頭骨内の顔面神経管には、顔面神経の束の他に、味覚を伝える鼓索神経、涙や唾液の分泌を調節する神経、大きな音から耳を守るアブミ骨筋神経などが含まれており、顔面神経麻痺では、表情筋の麻痺に加えて、味覚の障害、涙や唾液の分泌低下、音が響く聴覚の障害などの症状を伴うことが多いのも特徴です。
 
(3)検査・診断

 顔面神経麻痺は、麻痺が発症してから1週間ほど経過した段階で、誘発筋電図検査で測定します。

 先に説明のように、顔面神経は顔面の動き以外に、味覚や聴覚、涙や唾液の量などを調整しており、その症状が認められるときは、味覚検査、耳小骨筋反射検査、涙液・唾液量測定等を行います。誘発筋電図検査により、表情筋の筋電図を測定することで、重症度と麻痺の予後診断ができます。

筋電図検査

 筋電図検査とは、筋線維の電気活動を記録して、末梢神経や筋肉の疾患の有無を調べる検査です。筋電図検査には、筋肉の活動状態を調べる針筋電図と、筋肉・末梢神経の機能や神経筋接合部を調べることができる誘発筋電図検査の2つがあります。

 余談ですが、針筋電図検査は、脊髄にある前角細胞と呼ばれる運動神経以下の運動神経と筋肉の異常を検出するために行われており、頚腰部捻挫でも、神経原性麻痺が確認できれば、有効な他覚的所見であり、12級13号が認定されています。
 
 その実例 👉 14級9号⇒12級13号:外傷性頚部症候群 異議申立(40代男性・千葉県)
 
 ただし、この検査では、あちこちに針を突き刺して電気を通しますから、激痛を伴うのです。出血もありますし、医師も手術前検査や余程の症状が無い限り検査をしません。そもそも、賠償請求の為に検査は行われないものです。
 それでも、「14級は納得できない!」こんな被害者さんには、針筋電図検査を勧めていますが、同時に、拷問に近い痛さですが、耐えられますか? 必ず念をついています。そうすると、ほとんどの被害者が、この検査を諦めて、示談のテーブルにつくから不思議です。誘発筋電図検査は、顔面に不随意に起こる運動がみられるときに有用です。この検査の利点は、針電極や電気刺激を用いないので、痛みがないことです。
  
(5)後遺障害のポイント

 多くの場合、顔面の麻痺ですから神経症状での認定が検討されます。一方、顔面の変状から、醜状痕として等級認定もあります。顔面神経麻痺は、本来は、神経系統の機能の障害ですが、その結果として現れる口の歪みなどは、外貌に醜状を残すものとして審査されています。
 
○ 神経症状での認定は、秋葉事務所でも数多くあります。側頭骨骨折によるものより、圧倒的に頬骨骨折(ほお骨の骨折)か眼窩底骨折でした。

 頬骨骨折による神経症状 ⇒ 12級13号:頬骨骨折(30代男性・東京都)
 
○ 顔面神経麻痺からの醜状痕認定は珍しいもので、交通事故110番の経験則では、47歳:右側頭骨骨折の主婦の12級14号がレア認定です。事故直後は、笑うと顔がゆがみ、水や食事が口からこぼれ、よだれが止まらないなど、お気の毒な状態でしたが、内服とマッサージで、ある程度の改善が認められました。すべてを立証し、弁護士が同行して自賠責・調査事務所の面接に出向いたのが功を奏したのか、やや甘めに等級が認定されました。
  
○ 応用編
 ただし、後の賠償交渉に備え、醜状痕認定に際して一つ配慮が必要です。多くの場合、弁護士の狙いは逸失利益の増額ですので、神経症状の12級13号の方が好材料となることがあります。なぜなら、醜状痕の12級14号の逸失利益の請求に対し、相手保険会社は、「47歳主婦? 芸能人や顔を生業としている者ではなのですから、収入が減ったわけではないでしょ」と、0円回答をしてくる傾向です。したがって、醜状痕の認定理由に「痛み、しびれ」など神経麻痺の症状が内包されるよう、後遺障害診断書覚症状の記載に明記させる配慮が必要です。それでも、相手損保はしらっと0円回答してくるものです。同じ12級でも13号の方が増額交渉し易い?・・おかしな話です。
 
 上記を踏まえて、神経症状と醜状痕のダブル認定例 (これも頬骨ですが)⇒ 12級14号・14級9号:頬骨骨折 外貌醜状痕・神経症状(40代女性・神奈川県)
 
 次回 ⇒ メニエール病