(4)後遺障害のポイント

Ⅰ. 頭蓋底骨折と同じく、交通事故における側頭骨骨折、迷路骨折では、高次脳機能障害のような重篤な認知障害を残すことは、ほとんどありません。

 しかし、難聴、耳鳴り、めまい、ふらつき、顔面神経麻痺など、日常生活上、見過ごせない後遺障害を残すことになり、シッカリと立証して等級を獲得しなければなりません。
 
Ⅱ. 本件の後遺障害では、症状を訴えるだけでは、等級の認定に至りません。症状の一貫性があれば、14級9号認定の余地を残すのみです。

 画像などにより、器質的損傷を突き止め、自覚症状との整合性を立証しなければなりません。治療先の多くは、耳のXP、頭部のXP、CT撮影のみですが、側頭骨のターゲットCTの撮影は、後遺障害の立証では必須となります。
  
◆ 側頭骨のターゲットCT

 耳を中心に、耳小骨の細かい変化を撮影する方法です。耳の構造は、骨によって作られているので、骨の変化を見ることにより、種々の外傷性変化を確認することができ、撮影時間が短く、小さな子どもでも耐えられる検査です。

<側頭骨ターゲットCTの利点>

➀ ターゲットCTは、他の検査に比べて、解像度が良く、骨の描出に優れている、

➁ 1mm以下のスライス厚で再構成が可能で、より細かいものまで見ることができる、

➂ 撮影時間が5分と短く、患者さんの負担が軽い、

➃ 横断像だけなく、CTの3次元データから冠状断を作成することが可能である、
 
 外耳や中耳では、その中に空気が、内耳にはリンパ液、内耳道には髄液、液体が入っています。

 このように、骨以外の軟部組織や液体の観察では、MRI検査が行われています。
 
◆ 高分解能CT=HRCT(ヘリカルCT)

 1回転0.5秒の短時間高速スキャン、1回の息止めで全身の撮影が可能であり、1mm幅のスキャンによる高空間分解の画像が得られる最新鋭のCTです。HRCTによる側頭骨のターゲット撮影であれば、完璧です。
 
Ⅲ. めまい・平衡機能障害の原因である側頭骨骨折については、先に解説の、ターゲットCTの撮影で、三半規管や耳石の前庭系が損傷されたことを明らかにしており、後遺障害の立証としては、ほぼ50%を完了しています。
 
Ⅳ. あとは、耳鼻咽喉科におけるロンベルグなどの検査結果を添付し、障害のレベルを明らかにすれば完成です。
 
◆ めまい・失調・平衡機能障害の臨床検査
 
① ロンベルグテスト
 
 両足をそろえて開眼でまず立たせ、ついで閉眼させ身体の動揺を調べる。


 
② マンテスト

 両足を一直線上で前後にそろえて立たせ、開眼と閉眼で検査する。


 
③ 片足立ち検査
 
④ 斜面台検査斜面台上に立たせ、前後および左右方向に斜面台を傾け、転倒傾斜角度を測定する。15°未満での動揺は異常とされています。


  
⑤ 重心動揺検査

 前後左右への重心の動揺をXY軸レコーダーで記録します。


 
 眼に現れる平衡機能障害は、自覚的にはめまいとなりますが、めまいの検査=偏倚検査には、
 
① 足踏み試験

 両腕を前方に伸ばし、閉眼で足踏みを100回行わせる。回転角度が91度以上は異常とされます。
 
② 遮眼書字試験

 マーキングペンなどを持ち、手や腕が机に触れないようにして、まず開眼で、ついで遮眼の状態で氏名などを縦書きさせる。


 
③ 閉眼歩行検査

 閉眼の状態で、8~10歩前進と後退を繰り返させると、一側の前庭障害の被害者では、その歩行の軌跡が星状となります。
 
④ 眼球運動検査、自発眼振検査、頭位眼振検査などがあります。

 さらに、温度、回転、電気刺激による眼振検査など、迷路刺激眼振検査も行われています。

  
 
 つづく ⇒ めまいの最新検査