先月の弁護士研修会の最後のコマで「高次脳機能障害とMTBIと区別」について30分ほど講義しました。

 脳の器質的損傷によって認知、記憶障害となった、遂行能力の低下や注意障害となった、性格変化がおきたものを高次脳機能障害と呼びます。しかし中には脳に損傷がないか、わずかの損傷で同じような症状を示す患者さんがいます。これを現状MTBIというカテゴリーで分類しています。

 平成23年4月の新認定システムでもMTBIは「永続的ではない症状」「治るもの」「長引くのは精神的なものが考えられる」とし、高次脳機能障害とは距離を置いています。22年9月のEさん裁判での9級認定もMTBIの診断名において認めれれたとは捉えていません。

  しかし現実にはにいらっしゃるのです・・・

① 脳にはっきりとした外傷がない 

② 画像上「異常なし」とされている

③ 受傷直後に意識障害がない

  なのに、短期記憶障害(ひどい度忘れ)、ワーキングメモリーの障害(直前にした事、発した言葉をまったく記憶していない)、性格変化(キレやすい)に悩まされている被害者さんです。

 なかには「こりゃ高次脳だ、MTBIだ」と簡単に判断できない患者もいます。この判別は非常に難しく、講義でも「(経験を積んだ上での)勘ですと言ってしまいました。

 何を無責任な!と怒られそうですが。 判別の方法としてあと一つだけ挙げるとしたら・・・

 「高次脳機能障害の患者は病識がない」  

 病識とは「自分はケガや病気で〇〇という障害を負っている、」と自覚できることです。

 これがMTBI患者となると「私は高次脳機能障害なんです」もしくは「私はMTBIです」とはっきり自己主張します。この自信満々度が高ければ高いほど高次脳機能障害とは思えなくなります。脳に障害を負うということは大変重篤な障害なのです。そんなにはっきり自己分析はできないはずです。

 それでも、これは精神疾患の影響か薬の影響か?もしかしたら画像や意識障害が見落とされているのでは・・・迷ってしまうこともしばしばあります。

 今日も難しい被害者との面談でした。しかし診断名、画像所見、意識障害の高次脳機能障害認定の3要件がすべて揃わないので自賠責の審査上では可能性は0です。しかし見落としがないか、もう一度主治医面談、医証の確認をする必要があります。その被害者や家族の人生がかかっています。安易な判断はできないのです。