本改定について、まず高次脳機能障害の入り口=認定基準から入ります。もっとも注目すべきところだからです。

旧基準をおさらいします。  ・・・青字に注目

【高次脳機能障害が問題となる事案】 (旧基準)
 
① 診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘症あるいは軽度意識障害(JCS2桁~1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いた症例
 
② 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
 
③ 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する具体的な症状
 
  (注)あるいは失調性歩行、痙性片麻庫など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認め
     られる症例、さらには知能検査など各種神経心理学的検査が施行されている症例
 
  (注)具体的症状として、以下のようなものが挙げられる。
     記憶・記銘力障害、失見当識、知能低下、判断力低下、注意力低下、性格変化、易怒性、
     感情易変、多弁、攻撃性、暴言・暴力、幼稚性、病的嫉妬、被害妄想、意欲低下
 
④ 頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3か月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認される症例
 
⑤ その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例

<解説>

この既存の5項目は以下、簡便に3要件とまとめています。

① 脳の外傷となる診断名

② 意識不明が6時間継続、もしくは軽度の意識不明、健忘症が1週間継続

③ 画像(CT、MRI)で脳の損傷が認められる

詳しくは「高次脳機能障害の認定で3つの関門」を参照して下さい。

     → 高次脳機能障害の立証 11 ~入口に3つの関門

 この要件にあたらなければ、審査せず門前払いです。特に意識障害と画像について、高次脳機能障害をよく知らない医師が診てしまった故にアウトとなったケースを経験しています。

<この要件ではねられた実例>

① Aさん  受傷時に脳挫傷が明らかではなく、脳震盪とされた。
 
 最初に書かれた診断名が1年~後の後遺障害の申請時までずっと付きまといます。
 
② Bさん  受傷時の意識の記録がいい加減。
 
 受傷時意識不明であったのに、そのように書かれていない。健忘状態が数日続いたのに、意識清明になったのは1日と記載されている。
 
③ Cさん  受傷時に頭蓋骨の骨折や脳内出血がなく安心されてしまった。
 
 MRIで少なくとも3か月後まで適時検査を続け、丁寧に画像を診ていくべきでした。脳外傷を示す脳室拡大、脳萎縮、点状出血などの病変部が遅れて出現するケースもあります。

 
では新システムではどう修正されたのでしょうか? ・・・赤字に注目

【高次脳機能障害審査の対象とする事案】 (改定案)
 
A.後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められるが高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っている)場合
 
 全件高次脳機能障害に関する調査を実施の上で、自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。
 
B. 後進障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められない(診療医が高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っていない)場合
 
 以下の①~⑤の条件のいずれかに該当する事案(上記A.に該当する事案は除く)は、高次脳機能障害(または脳の器質的損傷)の診断が行われていないとしても、見落とされいる可能性が高いため、慎重に調査を行う。 
 具体的には、原則として被害者本人および家族に対して、脳外傷による高次脳機能障害の症状が残存しているか否かの確認を行い、その結果、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる場合には、高次脳機能障害に関する調査を実施の上で、自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。
 
① 初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
 
② 初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、認知・行動・情緒障害を示唆する具体的な症状、あるいは失調性歩行、痙性片麻庫など高次脳機能障害に伴いやすい神経系統の障害が認められる症例
 
 (例)具体的症状として、以下のようなものが挙げられる。
 知能低下、思考・判断能力低下、記憶障害、記銘障害、見当識障害、注意力低下、発動性低下、抑制低下、自発性低下、気力低下、衝動性、易怒性、自己中心性
 
③ 経過の診断書において、初診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が記述されている症例
 
④ 初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の経過の診断書において、当初の意識障害(反昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁GCSが 12点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘あるいは軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例
 
⑤ その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例
 
 (注)上記要件は自賠責保険における高次脳機能障害の判定基準ではなく、あくまでも高次脳機能障害め残存の有無を審査する必要がある事案を選別するための基準である。

<解説>

1、 Aの判断は当然としてBに注目すべき項目が盛り込まれています。

2、 Bでは、つまり「高次脳機能障害をよくわかっていない医師にあたってしまった場合でも、一応、高次脳機能障害を疑って調査をする」、ということです。

 今までの冷たい門前払いからの進歩ですが、①~⑤のすべてにおいて提出書類がものをいいます。つまり後遺障害の申請が書類審査である以上、書類の完備という基本は変わっていません。今までは門前払い案件に対し、異議申立てをする際にこれらの書類を追加提出していました。たとえばカルテや看護記録の開示を行い、家族の申述書(受傷時~現在の症状)を作成、添付する等です。ですので最初から調査事務所が疑わしき案件に対し、家族と医師に「症状の照会」をかけてくれるのなら一定の救済が果たせます。本来、全件そうすべきと常々思っていました。

3、④の意識障害を判定する数値が緩和されました。

 しかし劇的な緩和とは言い難いと思います。軽度の意識障害(1週間以上)については変わらないと言えます。実際この緩和により救われるケースは些少と思います。

 そもそもこのJCS、GCSの計測自体がいい加減なものをよく見るのです。 JCS 0点、GCS 15点 = 意識清明 とされていても、意識もうろうな状態が数週間続いていた患者も存在します。

 また「頭部外傷後の意識障害についての所見」の記載は通常受傷1年後~の症状固定時期なので、当時の記録した医師が転勤で不在の場合、引き継いだ医師が多忙の中当時のカルテを開いてささっと書いたりするので冷や冷やものです。尚も油断できない項目には違いありません。
 

 明日は画像所見の解説に進みます。