シリーズ再開します。

 新システムの検討委員会においても念入りにMTBIを定義し、結論しています。しかし昨年9月のMTBI裁判について触れないわけにはいかなかったのでしょう。以下抜粋、解説を加えます。
 

【D委員、E委員による意見発表】

 明確な意識障害や画像所見のない場合に後遺障害9級(ただし30%の素因減額を適用)を認定した裁判例(東京高裁平成22年9月9日判決。平成22年(ネ)第1818号事件、同第2408号事件)にづいて、報告がなされた。

① 本件 事案について、一審の東京地裁は事故で脳外傷が生じたことを否定して後遺障害14級を認定したが、東京高裁はこれを認め後遺障害9級を認定したうえで、損害賠償額の算定において「心的要因の寄与」を理由として30%の素因減額を行っている。

(解説)
 つまり、画像上明らかではないが、なんらかの脳外傷があったのだろう、と推論をもって障害の存在を認めています。しかしこの認め方も灰色で、心因性の影響も捨てきれず、損害額の70%だけを認めました。
 これを「MTBIの障害認定に風穴が空いた!」と歓喜するか、「原因不明ではあるが現状の障害の重篤度を考慮した結果であって、MTBI自体の障害認定はしていない」と受け止めるかは各々の判断です。

 
② 東京 高裁は因果関係の判断にあたり、最高裁昭和50年10月24日判決(ルンバール事件判決)を引用している。同最高裁判決は、因果関係を判断するうえで”自然科学的な証明まで求めなくて良い”ことを述べたものである。東京高裁が因果関係の判断に関する最高裁判決を引用した上で判断した点と、損害額の算定において「心的要因の寄与」を理由とする素因減額(最高裁昭和63年4月21日判決参照)を行っている点とを考え合わせれば、東京高裁は、脳に器質的損傷が発生したか否かという点、被害者の訴える症状の全てが脳の器質的損傷によるものか否かという点の双方について、悩みながら判断したという印象を受ける。
 
(解説)
 自然科学的な証明=画像所見と置き換えるなら、これは画期的な判断です。しかし引用した最高裁判例は35年前のルンバール事件で、これは医療過誤、医療事故における医師の治療行為の正当性が争われたものです。ここからの引用は苦し紛れ、強引さを否めないと思います。
 
 「医学的な判断をする=裁判官の苦悩」は毎度のことなのです。

お医者さんがわからないものを判断しなければならないのですから。

 明日につづく