今年、この症例にあたりました。
 
 2輪車と自動車の交通事故で、2輪車搭乗の被害者さんが足部を受傷しました。青黒く腫れが生じ、痛みが続きました。レントゲンでは骨に異常はなく、しばらく消炎鎮痛処置を続けました。

 しかし、痛みが引かず、今までにない状態でした。私は最初、三角靭帯の損傷を疑い、MRIを指示ました。治療先の主治医からも大学病院を紹介されたそうで、まずそのD大学病院を受診しました。ところが、その先生は足に触りもせず、「問題ない、どうしてもMRIとりたければ・・予約するけど」と素っ気ない。

 そこで、以前お世話になった足の専門医にお連れしました。その先生はこの診断名に造詣深く、レントゲンだけで、診断名を明らかにしました。年明けには手術に進みます。

 以下、その病院のHPを参照させて頂きました。おそらく、本件専門医の先生の筆によるものです。交通事故外傷を複雑にするものは、元々の変形や既存症状などです。その知識は私たちの仕事には欠かせないのです。
 

外脛骨障害

(1)症状と病態

・足の内側に骨の出っ張りがあり、靴に当たって痛い。

・足の内側に骨の出っ張りがあり、足をひねって以来痛みが取れない。

・足の内側に骨の出っ張りがあり、スポーツをすると痛くなる。
 
 2~14%の人に、足の内側に「外脛骨」と呼ばれる骨があることがあります。多くは無症状ですが、ちょっとした捻挫などをきっかけに症状を出し始めることがあります。発生学的には、足の骨はすべて腓骨由来なのに対し、外脛骨だけはその名の通り脛骨由来と、他の骨とは違う起源を持っています。また、機能的には、外脛骨は後脛骨筋腱の「種子骨」(腱の中に埋まっていて、腱の動きの助けをする骨)です。

 外脛骨が種子骨として後脛骨筋の動きを助けるという本来の働きをしている場合は、症状はありません。ところが、人によっては外脛骨が舟状骨とくっついていることがあり、その場合、いろいろな症状を出すことがあります。これが「外脛骨障害」です。外脛骨と舟状骨のくっつきかたには2種類あり、それぞれで症状の出方が異なります。外脛骨と舟状骨が完全にくっついてひとつの骨になっている場合は、出っ張っているということだけが問題となります。一方、外脛骨と舟状骨が線維性組織や軟骨などで中途半端につながっていることがあり、この場合は、捻挫やスポーツなどがきっかけで、結合部分が損傷し、痛みが続くことがあります。
 
(2)治療と手術

① 保存療法

 まずは保存的処置(安静やシーネ固定、注射、靴の中敷きなど)をしますが、治療成績は2~3割程度と報告されており、あまりよくありません。保存的治療に抵抗性の場合、手術適応となります。
 
② 骨切除術

 骨切除術には、「外脛骨が痛みの原因だから取ってしまいましょう」というだけではない、深い意味があります。外脛骨障害の方は扁平足が合併していることが多いことが以前より指摘されており、この原因について、Kidnerは1929年の論文の中で、外脛骨と舟状骨が結合しているため、後脛骨筋のもつ足の縦アーチを保持する機能が損なわれているからだと述べています。

 後脛骨筋は内くるぶしの下を通って足の内側を走り、舟状骨の手前で3本の腱に分かれ、1本は舟状骨に終わり、1本は足裏の真ん中から外側にかけての骨にくっついて終わります(もう1本はここでの趣旨からはずれるので省略します)。後脛骨筋が収縮すると、足裏の真ん中から外側の骨を内上方に引き上げる力が加わって、土踏まずのアーチ構造を動的に保持します。外脛骨は後脛骨筋腱がスプリットする場所にあります。

 ところが、外脛骨が舟状骨にくっついていると、外脛骨が動けないため、スプリットした後脛骨筋腱の3本のうち、足裏の真ん中から外側にかけての骨にくっついて終わる1本は、付着する骨に力を加えることができません(後脛骨筋の力はすべて舟状骨に伝わってしまいます)。その結果、後脛骨筋のもつ動的なアーチ保持機能が働かないため、外脛骨障害では扁平足を合併する割合が高いのではないかとKidnerは考えるわけです。

 この観点からすると、痛みの原因となっている線維もしくは軟骨結合を含めた外脛骨を後脛骨筋腱の中からくり抜き出す「骨切除術」には、単に痛みの原因を取り除くというだけでなく、外脛骨-舟状骨の結合によってトラップされていた後脛骨筋腱を解放することで、後脛骨筋腱の本来もつアーチ保持機能を取り戻し、扁平足が改善することを期待する、という意味も込められています。

 「期待する」というのには訳があります。外脛骨障害に対して骨切除術をした結果、扁平足が改善した、と報告している文献もあれば、扁平足は変わらなかった、と報告している文献もあり、Kidnerの仮説以来90年近く経った今も、見解は一致していません。さらには、後脛骨筋がどの程度、足のアーチを保持するのに寄与しているかも(骨自体もしっかりとアーチを保持しているわけですから)分かっていません。

 しかし、本来、腱の動きを助ける「種子骨」であるべき骨がほかの骨とくっついていたら何らかの腱の機能不全が起きてもおかしくはないと考えれば、外脛骨による痛みが出現した際、これを機に、腱本来の機能を取り戻すという意味で、積極的に手術を検討してよいと考えています(とくに骨に可塑性のある小児においては、より扁平足の改善が期待できるため、よい適応と考えています)。

 「骨切除術」の方法ですが、大きく2種類の方法があります。1つ目は、1925年にGeistが発表した後脛骨筋腱から外脛骨をくり抜きだす方法で、もう一方は、1929年にKidnerが発表した外脛骨と舟状骨の出っ張った部分を切除したのち、後脛骨筋腱を舟状骨に再接着する方法です。いずれの方法も治療成績は良好と報告されており、多くの施設ではいずれかの骨切除術が行われています。

 いずれの方法も良好な治療成績なのでよいのですが、改善点がないわけではありません。Geistの方法では、外脛骨を切除したのちの舟状骨の出っ張りによって、かえって突出が目立ってしまったり、そこが靴にあたって痛いなどの愁訴をうむことがあります(ネットでもこのことを訴えている書き込みがありました)。また、Kidnerの方法では、後脛骨筋腱をいったん骨から切り離し、それを骨に再接着する点に改善の余地があると考えています。

 そこでオペでは、外脛骨を後脛骨筋腱からくり抜きだしたのち、出っ張った舟状骨に対して特殊な骨切りを行うことで出っ張りをなくす、後脛骨筋腱を骨から切り離さない方法で手術を行っています。
 
③ 経皮的ドリリング、骨接合術

 外脛骨と舟状骨を骨性にくっつけることで、損傷の加わった線維性もしくは軟骨結合からくる痛みをなくす手術法です。骨切除法と違って扁平足の改善を期待できる手術法ではありませんが、腱自体に手術操作を加えないというメリットがあります。早期復帰を目指すスポーツ選手などに適応があります。