人身事故の示談の場面で、相手損保の賠償金提示額はまず、保険会社の基準で計算されたものです。弁護士が裁判で請求する額より少ないものです。その差は歴然としています。中には2倍どころか20倍も違うこともあります。

 もっとも、人身事故の多くは3か月以内の軽傷です。3か月の慰謝料ですと、任意保険はほとんど自賠責保険の基準(実治療日数×2×4300円か、総治療期間×4300円の少ない方)のままで計算してきます。2日に1回ペースで通うと、合計387000円です。対して、弁護士が請求すると、打撲・捻挫で3か月の治療期間は赤い本で53万円です。

 15万程度の増額が見込めますから、頼みたいところですが、弁護士に払う報酬が20万円なら、費用倒れとなります。ただし、弁護士費用特約が付いていれば、この20万の出費は自らの保険で賄うことができます。再び、依頼するメリットが復活するわけです。弁護士介入の是非について、ご相談の多くはこのような損得勘定を説明した上で、ご判断頂くことになります。

 しかし、被害者さん側に過失が20%あった場合、話は元に戻ります。もし、弁護士が53万円の請求をした場合、(明らかな事故状況から20:80は動かないとします)20%差っ引かれることになれば、53万×0.8=424000円になります。一方、先に提示した自賠責保険基準の計算額387000円からは、過失分は引かれません。自賠責保険は、被害者に8割以上も過失が無い限り、減額なく100%支払います。被害者に厳密な過失減額がない、これが自賠責の有利な点です。

 すると、相手損保提示の387000円から424000円の差額、37000円の増額の為に弁護士を雇うことになります。弁護士費用特約があれば、確かに費用倒れはしません。しかし、弁護士は特約から最低でも10万円の報酬をもらうことになります。被害者さんに37000円の増額を果たした弁護士が10万円の報酬を得る・・・これって、おかしな現象に思えませんか?。被害者さんが高齢者で保険会社と交渉できない等、特別な事情で受任せざるを得ないケースは別として、弁護士さんは倫理上、”依頼者(の経済的利益)よりも弁護士が儲かる”、このような仕事は避けるはずです。

 このように、3か月程度の軽傷ですと、弁護士に委任して解決するに馴染まない事件が多くなります。このような事件では、弁護士に依頼せずとも、相手損保担当者に「切りよく40万円なら、すぐ印鑑押すよ」と、被害者さん自ら交渉すれば、まぁ多くは通ります。保険会社にとって、たった13000円の出費増より、案件の早期解決が優先されますから。

 この示談交渉を「よっこいしょの示談」、「浪花節の交渉」などと、私達は言っています。もし、数万円であっても、弁護士に増額交渉を依頼すれば、弁護士は法的根拠に基づいて13000円増額の裏付けをしなければなりません。決して「切りよく」などと、ざっくり交渉はできません。交渉が煮詰まった時、最後に言うことはあるそうですが。

 やはり、軽傷事案の多くは、相手損保との相対交渉で解決させる方が、手間や時間の節約、不毛な保険使用の抑制となります。「弁護士費用特があるから」だけの理由で、少額請求でも弁護士を使うなど如何なものでしょうか?・・・保険制度の根幹に関わることと思います。保険制度は、支払った保険金から掛金が計算されています。少額での弁護士費用の請求が続けば、掛金が上がるどころか、特約の制限や廃止につながります。保険請求の濫用は制度を壊すことになるのです。
 
 最後に注意として、行政書士がこのようなアドバイスで相談料であっても報酬を頂くと、弁護士法違72条「非弁行為」となります。賠償に関する業は、相談も含め弁護士しかできません。賠償に関する相談案件は、以上のような計算をご理解頂くか、弁護士を紹介する・・ただ働きが多くなるのです。