腸腰筋の出血、腸腰筋挫傷(ちょうようきんざしょう)


 
(1)病態

 腸腰筋は、腰椎と大腿骨を結ぶ筋肉群、大腰筋と腸骨筋の2つの大きな筋肉で構成されています。内臓と脊椎の間に存在し、主として、股関節を屈曲させる働きをしていますが、同時に、腰椎のS字型を維持する機能も併せ持っています。交通事故では、自転車、バイクからの転倒による打撲を原因としています。
 
(2)症状

 腸腰筋挫傷による出血は、股関節〜下腹部の痛み、足を伸ばせないなどの症状が出現します。右の腸腰筋出血では、右下腹部痛により、急性虫垂炎と間違えられることがあります。出血付近の神経を圧迫し、下肢に神経障害、知覚麻痺や痺れの症状をきたすこともあります。大きな筋肉であることから、大量出血が認められることもあります。
 
(3)治療

 出血性ショックに陥れば、血圧低下、貧血が発生します。XP、CT検査により、腸腰筋内の高濃度吸収域=出血、低濃度吸収域=血腫を確認することができるので、比較的には、容易に診断されます。治療は、保存的に、再出血防止の為にベッド上安静が指示されています。
 
(4)後遺障害のポイント

Ⅰ. 肉離れ、筋違いで後遺障害を残すことは、通常は考えられません。ところが、腰腸筋挫傷では、交通事故110番の相談例において、過去に12級13号12級7号を複数例、経験しています。

Ⅱ. 自転車対自動車の出合い頭衝突で、左股関節〜下腹部の痛み、足を伸ばせないなどの症状を訴える、被害者が救急搬送されてきました。医師は、XP、CT検査を行って、骨折を検証するのですが、骨折がないと分かると、途端に、興味を失い、引き続き、エコーやMRI検査を行って筋挫傷をチェックすることはありません。

 CTであっても、出血や血腫は確認できるのですが、興味を失っており、そこで止まっているのです。「打撲で内出血していますが、日にち薬で治ります。」 決めつけてしまうのです。

Ⅲ. 被害者も、打撲による肉離れ、骨折がなければ、一安心で、落ち着きます。ところが、筋肉に対する打撲の程度が大きいと、深く広範囲に内出血が発生します。内出血が発生した筋肉内では、組織の修復活動、つまり細胞の増殖が行なわれるのですが、この修復活動が過剰に進むと、筋肉が固くなり、筋肉同士が癒着することがあります。その結果、筋肉が伸びにくくなったり、収縮機能が落ちたり、関節の動きに制限が生じるのです。

 筋肉の出血は、筋肉を覆っている筋膜と筋肉の間、あるいは筋肉の中で発生しています。出血後の血腫は、筋肉を圧迫し、運動痛や、出血量が多ければ腫れてきます。筋肉内出血では、筋肉自体はもちろんのこと、筋肉の周囲の神経や血管を圧迫することが予想され、筋肉自体の圧迫では、筋肉に引きつりが生じ、筋肉の長さが変わることにより、関節自体に外傷がなくても関節の可動域に制限が生じます。

 神経圧迫では、その神経に麻痺が生じ、血管圧迫では、手足の先の血行障害を起こします。これらが、長時間継続することで、後遺障害を残すのです。臀部、大腿部、肩の筋肉は、大きな筋肉であり、出血の量も問題となります。出血性ショックに陥れば、血圧低下、貧血が発生します。
 
Ⅳ. どうして、左股関節部に強い痛みを訴えているのか? XP、CT検査により、腸腰筋内の出血、血腫を発見していれば、入院下でアイシング、伸縮包帯による打撲部の圧迫、その後のリハビリ治療で完治したのです。放置されたために、後遺症を残したのですが、12級7号で、1300万円をゲットした被害者もいます。

 しかし、この後遺障害は、それなりの専門家が、研ぎ澄まされたセンスで対応しないと、医師の非協力もあって、なかなか追い込めないのです。筋挫傷による炎症や鬱血が長期におよぶと、筋肉細胞が増殖し、硬化します。これを医学では、硬結と呼ぶのですが、立派な他覚所見です。上記の画像所見などの記載がないと、自覚症状だけでは、気のせい、大袈裟で非該当です。秋葉事務所も、それなりの専門家と呼ばれるよう、医師面談に鋭意取り組んでいます。


 
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