(1)病態

 大腿骨の中央部で関節を有していない部位を大腿骨々幹部といいます。交通事故では、この部位の骨折が多発しています。バイクを運転中、大腿部に車の衝突を受けたときは、意外と簡単にポッキリと骨折します。衝突の衝撃で空中に投げ出され、膝を地面に打ちつけて転倒したときは、捻れるように骨折します。衝突の衝撃が相当に大きいときは、粉々に骨折します。しかしながら、大腿骨々幹部は、比較的血行が保たれており、骨折後の骨癒合は良好です。
 
(2)症状

 症状は、骨折した部位の腫れ、疼痛と変形により患肢が短縮し、歩行はまったくできません。
 
(3)治療

 単純XP撮影で骨折の確認ができます。大腿骨々幹部骨折ですが、2000年頃までは直達牽引(下図)+ギプス固定の保存療法が主体でした。昔のドラマでおなじみですが、石膏のギブスで固定します。お見舞いに来た悪友が卑猥な落書きをするものでした。
 

 
 現在、ほとんどの整形外科医は、直達牽引後のギプス固定は、入院期間が長くなること、長期の固定による精神的・肉体的ストレス、筋萎縮、関節拘縮などの合併症を無視できないことから、入院期間を短縮し、合併症を最小限にする固定術を積極的に採用しています。小児の骨折であっても、同様にオペが選択されており、歓迎できる傾向です。
 

 
(4)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 亀裂骨折(ひびが入った程度)で保存療法とした場合、転位の少ない横骨折や斜骨折後で、正常に癒合を果たせば、深刻な後遺障害は残りません。
 
Ⅱ. 問題となるのは、開放性粉砕骨折を代表とする高エネルギー外傷です。

 開放性粉砕骨折では、神経や血管障害、脂肪塞栓の合併損傷を伴うことが多く、受傷直後や急性期には、全身状態の管理が絶対に必要となります。交通事故110番の記録では、肺脂肪梗塞で3級3号の高次脳機能障害の認定が1例ありました。

 大腿骨々幹部骨折後の肺脂肪塞栓による被害者の死亡例は、交通事故110番への相談で2例、記録されています。開放性粉砕骨折では、骨片が多数、骨欠損があるもの、整復した骨片の位置が正常な位置関係にないものがほとんどであり、偽関節、骨変形、不整癒合、MRSAの院内感染などが後遺障害の対象として予想されます。
 
Ⅲ. 骨癒合は、比較的良好な骨折ですが、稀に骨癒合を果たせなかった=「偽関節」を起こすこともあります。整復術の向上から、最近はめっきり少なくなったと思います。
 

 
 「骨がくっつかなかった」等級は下図の通りです。

Ⅳ. 大腿骨が変形して癒合した場合

① まっすぐにくっつかなかった(屈曲変形)。この変形が、15°以上の不正彎曲であれば、12級8号が認められます。


 
② 骨折部が外反や内反で、つまり外向きや内向きで不正癒合した(回旋変形)。骨は屈曲変形しておらず、足の向きが曲がっているのですが、その角度が外旋で45°以上、内旋で30°以上であれば、12級8号が認められます。
 
※ 現代の医療技術からすれば、通常、屈曲変形や回旋変形を残さないよう、手術で整復するはずです。整復術後、変形癒合が残ってしまった場合、再手術も検討します。高齢や既往症など、手術できない理由から手術を回避すべき場合は別ですが、歩行に支障をきたすようなら手術の決断となります。骨を切断、あるいは削り、人工骨を埋め込み、プレートや髄内釘で再度固定し・・整復し治すことになります。
 

回旋変形からガニ股になったのに・・ ↑ と言った医師がおりました。残念ながら実例です。

 
③ その他変形

 上記の①「曲がってくっついた、弯曲・屈曲変形)」や、②「ねじれてくっついた(回旋変形)」など、極端な変形は珍しいものです。秋葉事務所の認定例を紐解きますと、基準に満たない変形であっても、XPやCTで明らかに視認できれば認定されています。
 
 ただし、労災の認定基準では「(癒合部に)肥厚が生じていても長管骨の変形としては取り扱わない」とあります。自賠責も同じ判定基準とすれば、単なる仮骨形成による「骨折の接合部が太くなった」程度は認めないことになります。
 
 変形と可動域制限のダブル認定の例 👉 併合11級:大腿骨骨幹部骨折(40代男性・静岡県)
  
④ 脚が短くなった、短縮障害

 大腿骨の骨折後、癒合はしたが、折れていない脚と比べ、短くなったケースです。逆に折れた方の脚が、仮骨形成で余分に骨が成長し、長くなる可能性もあります。秋葉事務所では、現状、1㎝の差=13級8号のみの認定例しかありません。3cmも差が生じたら、通常、手術で治すからです。
 
 認定例 👉 13級8号:大腿骨骨幹部骨折(児童女子・神奈川県)
  
Ⅴ. 股関節や膝関節の機能障害、主に可動域制限

 骨幹部とは、骨の幹の部分です。したがって、骨の両端となる股関節や膝関節が無事であれば、それらの可動域には影響は少ないはずです。ただし、双方の関節近い部分に相当の破壊があった場合、または、予後の癒合不良、治療経緯など別の理由から、関節の可動域が制限される可能性はあります。左右差で4分の3以下であれば、12級7号が、2分の1以下であれば、10級11号が認定されます。
 
 再手術にて骨癒合を優先させた結果、股関節に機能障害を残した例 👉 12級7号:大腿骨骨幹部解放骨折(50代男性・茨城県)
  
 短縮と変形と可動域制限、トリプル認定の例 👉 併合11級:大腿骨骨折(40代女性・神奈川県)
 
 ※ 現在では、非常に稀ですが、旧来の保存療法、長期間のギプス固定で、大腿の筋肉が萎縮し、膝関節が拘縮することがあります。医原性の後遺障害ですが、左右差で4分の3以下であれば、12級7号が、2分の1以下であれば、10級11号が該当します。ひと昔前の話ではありますが・・治療先の見極めも大切です。
 
Ⅵ. 痛みの残存≒神経症状

 骨癒合に問題なく、外見上の障害が残らなかかったことは何よりです。しかしながら、痛みはもちろん、手術創から皮膚の一部の感覚が低下、あるいはしびれが残存するなど、何かと不具合が残ることは珍しくありません。その場合も、しっかり、14級9号は確保したいところです。
 
 治療に問題なしも、14級を確保した例 👉 14級9号:大腿骨骨幹部骨折(50代男性・神奈川県)
 

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