膝蓋前滑液包炎(しつがいぜんかつえきほうえん)

上の赤は膝蓋前皮下滑液包、下の赤が脛骨粗面皮下滑液包

 
(1)病態

 膝蓋前滑液包は、皮膚と膝蓋骨、膝のお皿の間に位置しており、膝に対する摩擦を和らげ、膝関節の可動域を最大にする役目を果たしています。

 交通事故では、多くが自転車で転倒、膝を強く打ったときに発症しています。頻繁な膝の曲げ伸ばしで発症することもあって、Housemaid’s Knee(女中膝)とも呼ばれています。
 
(2)症状

 膝蓋骨の上辺り、部分的に、直径2~3cmの腫れが出現、触れるとブヨブヨ感があります。次第に痛みが出現、腫れもやや大きくなり、膝をスムースに動かせなくなります。このとき、膝蓋前滑液包は炎症を起こしており、ドロドロの滑液包に水がたまっている状態です。
 
(3)治療
 
初期であれば、膝をつかない、正座をしないようにすると、腫れは引き、痛みもなくなります。慢性期であっても、手術は、ほとんどありません。

 膝蓋前滑液包にたまった水を抜き、非ステロイド性抗炎症薬の注射、膝つきと正座の禁止、リハビリによる膝関節可動域訓練で改善が得られ、後遺障害を残すこともありません。
 
(4)後遺障害のポイント

 この傷病名だけであれば、基本、後遺障害を残すことはありません。

 ただし、事故受傷から半年、症状が一貫している場合は、痛み=神経症状の14級9号の余地を残します。以下、交通事故110番による認定実例です。
 
◆ 交通事故110番の経験則

 大阪の無料相談会に50代、ぽっちゃり型の大阪のおばちゃんが参加されました。横断歩道を自転車で走行中に、左折の自動車に衝突され、転倒した際に左膝を強打、6カ月が経ったが、腫れと膝小僧の痛みを引かなくて、自転車に乗れなくて困っている?そうです。

 治療先の診断書には、頚部捻挫、腰部挫傷、左膝打撲の傷病名が記載されていました。XP撮影では、膝関節に骨折などの異常はないから、ちょっと強い打撲でしょう?膝上の腫れを訴えても、診ることも、触ることもなく、年のせいと言われ、なんの処置もされない状態でした。

 仕方がないので、近所の整骨院に通っているが、腫れも痛みも改善しない?相手損保からは、今月一杯で治療を打ち切ると宣告された?これから、どうしたらいいのか?

 別室でタイツを脱いでもらって、左膝を拝見しました。確かに、膝蓋骨上部は腫れており、軽く触れたのですが、熱感もあります。腫れが膝全体におよんでいる印象ではなく、膝蓋骨上部に限定されています。

 左膝蓋前滑液包炎が予想されるところから、チーム110のスタッフが懇意にしている整形外科を紹介、同行して診察を受けることにしました。

 MRI撮影の結果、左膝蓋前滑液包炎の診断が確定、滑液包にたまった水を抜き、非ステロイド性抗炎症薬の注射、膝つきと正座の禁止、2カ月のリハビリによる膝関節可動域訓練が指示されました。1カ月のリハビリで、腫れは小さくなり、痛みも改善、2カ月で左膝蓋前滑液包炎は治癒しました。その間、受傷から8カ月目で症状固定、頚椎捻挫で14級9号が認定されました。
 
 この女性は、夫の自動車の任意保険に弁護士費用特約の加入があり、適用することになりました。弁護士が本件の解決を受任、弁護士はチーム110に、後遺障害の立証を指示したのです。チーム110のスタッフは、治療先を紹介、同行して左膝蓋前滑液包炎の治癒をサポートしました。

 残る傷病名、頚部捻挫と腰部挫傷は、画像診断クリニックでMRIの撮影を受け、医師には、頚部のMRI所見の丁寧な記載を依頼して14級9号を実現したのです。宮尾氏はこの女性に対し、「もう少しダイエットに励むよう」、遠慮がちに、お願いしたそうです。
 
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