(4)後遺障害のポイント

 被害者側が注意すべきは、発作の回数に注目するのではなく、性格変化・人格低下の高次脳機能障害を、日常生活でつかみ取ることです。性格変化や人格低下は、被害者本人には自覚がなく、よほど注意していないと見落としてしまうことになるからです。
 
 交通事故110番の宮尾氏によると、宮尾氏は保険調査員時代に「外傷性てんかん2級1号」を経験しています。以下、その経験則から、4段階の症状に分けて対策を提案しています。
 
【事案】歩行中、自動車に跳ねられ、頭蓋骨陥没骨折となった39歳会社員男性の件。神経心理学的テストの結果は、IQレベルで小学2年生程度の知能・情緒でした。治療先には、10回以上同行しており、季節・出来事・子どもの話も、普通にやりとりがあり、どこから見ても一般人でしたから、神経心理学検査の結果には、その低得点から非常に驚きました。専門医より、「今後、重大な判断や決断で、大きく(数値が)落ち込むことが予想される。」と説明を受けました。
 
① 脳波上に、てんかん波を示す棘波=スパイク波が認められないとき

 脳波上、大きな異常が認められなくても、予防的に抗痙攣剤の内服が指示されることが大半です。脳波上の異常が確認されないときは、てんかん発作を発症する可能性は、基本的にはありません。予防的に6カ月程度の抗痙攣剤を内服し、3カ月ごとに脳波検査を受けます。脳波上、異常がなければ、内服を停止、さらに3カ月ごとに2回の脳波検査を行って、治療終了です。後遺障害等級が認定されることはなく、将来、てんかん発作を発症することもありません。
 
② 脳波検査で、境界波ですねと言われたとき

 脳波検査で、α波や徐波が認められるときは、主治医より、上記の説明がなされます。やはり、抗痙攣剤を内服し、3カ月ごとに脳波検査を受けます。脳波検査で、異常波が消失した時点で、内服を停止し、さらに、3カ月ごとに2回の脳波検査を行って、変化がなければ、治療は終了します。後遺障害等級が認定されることはありません。
 
③ てんかん発作はないが、脳波検査で、てんかん波=スパイク波が認められるとき

 ここから、後遺障害等級の対象となるので、治療先を選択してフォローしなければなりません。抗痙攣剤を内服し、3カ月ごとに脳波検査を受けます。内服をキチンと守って、過激な運動を控えていれば、まず、てんかん発作の心配はありません。

 てんかん波の終息時点で、抗痙攣剤の投与量を少なくしながら、さらに、3カ月ごとに脳波検査を続け、2回の脳波検査でてんかん波が認められないときは、内服を停止、さらに、3カ月ごとの脳波検査でチェック、私の経験則では、治療を完了するのに、約3年、最大で5年があります。

 長期間に定説はありませんが、一般的に閉鎖的外傷で5年以内、開放性外傷では10年以内とされています。長期であっても、必ず、脳波は正常に復帰するので、過剰な心配は必要ありません。
 

 てんかん性脳波には、棘波・鋭波・棘徐波複合体等の突発性異常波があります。 異常波の間欠期には、不規則な徐波が存在し、背景脳波が乱れています。てんかん性脳波には、棘波・鋭波・棘徐波複合体等の突発性異常波があります。 異常波の間欠期には、不規則な徐波が存在し、背景脳波が乱れています。
 
 受傷後6カ月を経過して、てんかん波が認められるときは、後遺障害等級は12級13号となります。

 
 多くの被害者・その家族は、脳波が安定するまで示談を延期する選択ですが、私は、受傷から6カ月を経過した時点で症状固定とし、後遺障害等級の申請をしています。

 将来の治療費については、示談書で、その負担を相手損保に求めることができます。毎日の内服と3カ月ごとの脳波検査を繰り返すだけの治療であっても、学校で体育に参加できないこともあって、お子さんのストレスは増加し、てんかん発作に悪影響を与えることも予想されます。であれば、早期に示談解決とし、そこで手に入れた賠償金をストレスの発散に消費することが、前向きな解決と考えているからです。
 
④ 内服を継続しているが、意識障害を伴うてんかん発作を繰り返しているとき

 てんかん発作の頻度と、脳神経細胞の破壊の程度で、1~7級の後遺障害等級が認定されます。発作の繰り返しは、周辺の正常細胞を破壊するので、どうあっても、食い止めなければなりません。治療先は、医大系の脳神経内科もしくは神経内科を選択することになり、代表的な抗痙攣剤は、デパケンRですが、発作を抑える必要からカルバマゼピンやフェニトインなどの複数の抗痙攣剤の組み合わせが必要となるのです。そして、抗痙攣剤の長期的な内服は、肝機能に悪影響を与えますから、血中濃度を確認しながら、総合的な内科フォローが必要となるのです。これらの総合的な治療が展開できるのは、やはり医大系総合病院の神経内科となります。

 このような深刻な状況であっても、私は受傷後1年を経過した時点で症状固定とし、後遺障害の申請を優先しています。てんかん発作を繰り返している状況では、被害者の行動に大きな制限が生じます。家から外に出るにも、いつ発作が起きるか分からず、常に、家族の見守り介助が必要となります。
 
※ 車の運転は医師から禁止されます。もちろん、1人では、バスや電車にも乗れず、就労も不可能な状態です。実際、今年(令和4年)免許センターに診断書を提出、免許の一時失効手続きをとった被害者さんもおりました。
 
 示談を先延ばしにして、治療に専念しようと考えても、休業損害を払い続ける損保は皆無です。家族や職業介護人の将来の介護料は、示談締結を前提に提示されているのです。示談を先延ばしにしても、被害者や家族が、静かで落ち着いた療養環境で、てんかん発作と向き合うことなど不可能なのです。この状況では、てんかん発作に伴って、知能低下、性格変化、人格障害が予想されるので、後遺障害の申請では、高次脳機能障害の一環として、立証をすることになります。いずれも、症状固定時期の選択が決め手となることを理解してください。
  
 被害者さんとそのご家族のおかれた状況によりますが、宮尾氏の結論に賛成です。

 まず、被害者ご本人及びご家族、そして主治医との綿密な打ち合わせをします。そして、意見の一致をみれば、受傷から少なくとも1年を経過した時点で、症状固定を選択することを推奨しています。
 

  
 つづく 宮尾氏の実例と教訓 ⇒ 頭部外傷 ② 外傷性てんかんⅢ