(4)めまいの類型
 
① 平衡感覚を感知する器官の障害

 耳には、音を聞く働きの他に、身体のバランスをとる、平衡感覚の役割があります。耳の平衡感覚を感知する器官としては、耳石器と半規管があります。耳石器は2つあり、卵形嚢は水平に、球形嚢は垂直に位置していて、この2つの袋の中には、リンパ液と炭酸カルシウムでできている耳石という小さい石が入っています。

 耳石器の内部は、薄い膜で覆われており、その奥には有毛細胞という細かい毛の生えた感覚細胞があって、耳石がリンパ液のなかを動くと、この有毛細胞の毛が刺激されて、位置を感知することができるのです。卵形嚢は水平方向の動きを、球形嚢は垂直方向の動きを感知しています。

 半規管は、前半規管・後半規管・外側半規管の3つがあり、まとめて三半規管と呼ばれています。半規管は3つの中空のリングから構成されており、内部は内リンパ液で満たされています。前庭の近くに膨大部と呼ばれるふくらみがあり、そこには感覚毛をもった有毛細胞があります。感覚毛の上にはクプラと呼ばれるゼラチン状のものが載っています。内リンパ液が動くことによって、クプラが押され、感覚毛が曲がり、有毛細胞が興奮します。頭部が回転すると、内リンパ液はしばらく静止したままなので、感覚毛が逆に曲がります。この情報と視覚の情報から体が回転したと認識します。

 三半規管は、それぞれ別の面にあるので、あらゆる回転方向を認識することができます。これらの半規管はそれぞれ直角に交わっていてX・Y・Z軸のように3次元空間の回転運動の位置感覚を感知しています。G難度、E難度をいとも簡単に達成する体操の内村航平さんは、研ぎ澄まされた3次元空間の回転運動の位置感覚を有しているものと思われます。
 
 三半規管を原因とするめまいを立証 👉 12級13号:目眩症(70代男性・静岡県)
 
② 末梢性めまい

 中枢性めまいの外にも、末梢性めまいと頚性のめまいがあります。末梢性めまいは、大多数は内耳の異常によるもので、交通事故では、内耳の外傷となります。その他の疾患としては、事故との因果関係はありませんが、メニエール病、前庭神経炎、突発性難聴に伴うめまい、中耳炎や中耳真珠腫に伴うめまいなどがあります。良性発作性頭位めまい症も病的疾患の可能性が指摘されます。
 
※ メニエール病
 耳の奥=内耳器官にリンパ液がたまることによって生じる慢性疾患(病気)のことです。中高年の発症が多く、めまい、耳鳴り、難聴が引き起こされます。経過と共に症状が治まっても、再発を繰り返すことが特徴です。 
 
 詳しく解説 ⇒ 耳の障害 ⑫ メニエール病
 
※ 良性発作性頭位めまい症
 頭を動かすと起こる回転性のめまいとして「良性発作性頭位めまい」も多く経験しています。やはり、中高年に多く、様々な要因が考えられますが、耳鼻科医によると、閉経後の女性に多く見られることから、カルシウム不足による耳石の不安定から生じると推測されているそうです。もちろん、頭部への衝撃でも耳石に影響がありますので、外傷の可能性を残します。
 
 詳しく解説 ⇒ 耳の障害 ⑬ 良性発作性頭位めまい BPPV
  
 末梢性めまいは、強い回転性のめまいを起こすことが多く、また、メニエール病のように不定期に反復するときには、日常生活に重大な影響をおよぼし、患者さんの苦痛は決して軽いものではありません。しかし、命に関わる病気ではなく、手術治療なども含めると、最終的には原則として何らかの方法でとめることができます。
 
③ 頚性めまい

 これも末梢性めまいのカテゴリーですが、交通事故では、むち打ちで多発しており、1つの項目として取り上げました。頚性めまいは、交感神経性のめまいと捉えられており、自律神経失調症の症状を総称してバレ・リュー症候群と呼ばれています。バレ・リュー症候群に伴うめまいは、眼前暗黒感、動揺感の訴えが多く、検査を行っても、他覚的所見が得られることは、ほとんどありません。

 治療先は、麻酔科医が運営しているペインクリニックで、交感神経ブロック療法を受けます。2週間に1回の交感神経ブロック療法を真面目に2カ月間続けることで、ある程度の改善が得られています。改善するところから、後遺障害の対象ではありません。

 頚性めまいでは、うつ病、不安神経症、パニック障害など心理的要因が混在しています。また折悪く、更年期障害と重なってしまった被害者さんも多数見てきました。やはり、単なるムチウチでめまいを訴えても、後遺障害の認定は厳しいものです。症状の一貫性から14級の認定がありますが、あくまで小数例です。
 
 その小数例 👉 14級9号:めまい(50代男性・群馬県) 
 
 
 「めまいの類型」につづく ⇒ 頭部外傷 ⑦ めまい(めまい・失調・平衡機能障害)Ⅲ