今年も多くのセミナーを開催しました。中でも損保代理店さま向けのセミナーでは、交通事故最前線の皆様であるゆえ、たくさんのご参加、そして、ご質問を頂きました。久々のシリーズで、質疑応答例を紹介します。(個人情報に配慮し、内容を改変しています)
 
(質問:相手が保険を使わないと言って・・)

交差点で自動車同士の接触事故となりました。幸い、ケガもなく、自動車の修理費は30万円程でしょうか。当然、お互いの任意保険会社で交渉・示談しましょうと持ちかけました。ところが、相手は「俺は悪くない」の一点張りで埒が明かず、分かれて保険会社に事故報告しました。しかし、相手の保険会社は対応してくれません。相手の担当者が言うには、「契約者さんが保険を使わないと言っていますので、弊社としても対応できかねます」・・だそうです。こんなことが許されるのでしょうか(怒)!

(回答)

 契約者が保険を使わないのだから、対応できない・・・頭にきますが、一見、納得させられそうな理屈です。しかし、ほとんどすべての自動車保険約款には”直接請求権”という条項があります。これは、一定の条件のもとに被害者側が賠償請求してきた場合、保険会社は契約者の意向に関わらず、対応しなければならないルールです。

 例えば、被害者が裁判で訴えてきた場合、判決・和解がでたら、加害者の保険会社はその額を請求されたら応じなければなりません。また、加害者・被害者間でお互いに賠償金のやり取りをしないと書面で合意したケース(もっとも、この場合、最初から保険会社同士の交渉・示談になりますね)、加害者側が死亡や破産したケースです。

 つまり、先の相手損保担当者の(対応できないと言う)言い訳は約款違反です。「直接請求権の条件を満たせば対応できます」と回答すべきです。もっとも、保険会社のSC職員であっても、この条項を良く知らないようです。信じられないですが、すっとぼけているのではなく、本当に「初めて聞いた」との担当者さんに何人も出くわしました。
  
 以下、約款(損保ジャパン)を転載します。対人、対物の第8条です。

 より詳しく知りたい方は ⇒  事故の相手が保険を使ってくれない を熟読して下さい。

 

 第8条(損害賠償請求権者の直接請求権)
(1)対物事故によって被保険者の負担する法律上の損害賠償責任が発生した場合は、損害賠償請求権者は、当会社が被保険者に対して支払責任を負う限度において、当会社に対して(3)に定める損害賠償額の支払を請求することができます。
(2)当会社は、次の①から④までのいずれかに該当する場合に、損害賠償請求権者に対して(3)に定める損害賠償額を支払います。ただし、1回の対物事故につき当会社がこの対物賠償責任条項および基本条項に従い被保険者に対して支払うベき保険金の額(同一事故につき既に支払った保険金または損害賠償額がある場合は、その全額を差し引いた額)を限度とします。
① 保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、判決が確定した場合または裁判上の和解もしくは調停が成立した場合
② 被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、書面による合意が成立した場合
③ 損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合
④ 法律上の損害賠償責任を負担すべきすべての被保険者について、次のア.またはイ.のいずれかに該当する事由があった場合
ア.被保険者またはその法定相続人の破産または生死不明
イ.被保険者が死亡し、かつ、その法定相続人がいないこと。
(3)前条およびこの条の損害賠償額とは、次の算式により算出された額をいいます。
「被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額」-「被保険者が損害賠償請求権者に対して既に支払った損害賠償金の額」