常日頃から訴えていますが、治療と後遺障害の立証は別ものです。医師は治すために努力します。しかし、治りきらなかった症状は、後遺障害の認定を受けて、金銭による償いを受けなければなりません。

 私達の仕事は治らなかった症状をすべて掘り起こし、クローズアップさせることです。これはある意味、医師の治療努力を否定することにも繋がります。その点、医師とは逆の立場になるかもしれません。それでも一切の逡巡を排除しなければなりません。半身麻痺を一生負うことになる被害者には、正当な後遺症評価と金銭賠償しか残っていないからです。

 後遺症を否定する・・それは医学の進歩に委ねるしかありません。いつの日か、脊髄損傷の根治方が確立するまで。 c_g_a_9

5級2号:脊髄損傷(40代男性・東京都)

【事案】

自動車運転中、交差点で信号無視の対抗右折車の衝突を受けて受傷、顔面裂傷、第5頚椎骨折、脳梗塞、脊髄損傷となった。半身麻痺でブラウンセカール症状となった。その他の症状として、視野狭窄、排尿・排便障害が加わった。
c_byo_k_40←参考画像 MRI(T1、T2)
【問題点】

ブラウンセカール症状とは・・大雑把な説明をします。半身は手足が動かない「運動麻痺」で、その反対側は感触や温度を感じない「感覚麻痺」となります。本件被害者の場合、左側の上肢・下肢の運動麻痺に対して、右側は感覚麻痺であるところ、痛感、温感などの感覚麻痺は両側にきたしていた。

その他、多くの症状すべてを審査に提示しなければならない。神経系統の障害は複数の症状を合わせて、総合的に検討するからである。

しかし、主治医は「ブラウンセカール症状なので、診断名以上の記載は必要ない」との判断から、両側の感覚麻痺とは書かず、手指・足指の可動域の記載も拒んだ。これでは障害の実像に踏み込まない診断書となってしまう。医師面談を重ねて追加記載、別紙記載を要請するも、最小限の協力しか得られなかった。

【立証ポイント】

仕方ないのでリハビリ先の別院に戻って、ここでも医師の反論を押し返して、各関節の可動域の計測を実施して頂いた。なぜなら、「手関節+手指、足関節+足指」の可動域制限、これらの機能障害だけで7級相当になる。これに、感覚障害や直腸・膀胱障害や加わる以上、総合的に5級とならなければ納得できないからである。

さらに泌尿器科でも後遺障害診断書を追加記載頂き、一連の診断書に留まらず、医師の意見書、各部の写真、すべての障害を精密に説明した申述書を作成して、万全の状態で申請を行った。

顔面線状痕は9級に留まったが、視野狭窄で9級、そして脊髄損傷による神経系統の障害は狙い通り5級を確保した。結果、併合4級に。

左手は握れず、歩行では左足を引きずり、復職もままならない深刻な障害である。医師と対立しようと、等級の取りこぼしや妥協は一切許されない。