シリーズ再開します。

 新システムの検討委員会においても念入りにMTBIを定義し、結論しています。しかし昨年9月のMTBI裁判について触れないわけにはいかなかったのでしょう。以下抜粋、解説を加えます。  

【D委員、E委員による意見発表】

 明確な意識障害や画像所見のない場合に後遺障害9級(ただし30%の素因減額を適用)を認定した裁判例(東京高裁平成22年9月9日判決。平成22年(ネ)第1818号事件、同第2408号事件)にづいて、報告がなされた。

① 本件 事案について、一審の東京地裁は事故で脳外傷が生じたことを否定して後遺障害14級を認定したが、東京高裁はこれを認め後遺障害9級を認定したうえで、損害賠償額の算定において「心的要因の寄与」を理由として30%の素因減額を行っている。

(解説)  つまり、画像上明らかではないが、なんらかの脳外傷があったのだろう、と推論をもって障害の存在を認めています。しかしこの認め方も灰色で、心因性の影響も捨てきれず、損害額の70%だけを認めました。  これを「MTBIの障害認定に風穴が空いた!」と歓喜するか、「原因不明ではあるが現状の障害の重篤度を考慮した結果であって、MTBI自体の障害認定はしていない」と受け止めるかは各々の判断です。

  ② 東京 高裁は因果関係の判断にあたり、最高裁昭和50年10月24日判決(ルンバール事件判決)を引用している。同最高裁判決は、因果関係を判断するうえで”自然科学的な証明まで求めなくて良い”ことを述べたものである。東京高裁が因果関係の判断に関する最高裁判決を引用した上で判断した点と、損害額の算定において「心的要因の寄与」を理由とする素因減額(最高裁昭和63年4月21日判決参照)を行っている点とを考え合わせれば、東京高裁は、脳に器質的損傷が発生したか否かという点、被害者の訴える症状の全てが脳の器質的損傷によるものか否かという点の双方について、悩みながら判断したという印象を受ける。   (解説)  自然科学的な証明=画像所見と置き換えるなら、これは画期的な判断です。しかし引用した最高裁判例は35年前のルンバール事件で、これは医療過誤、医療事故における医師の治療行為の正当性が争われたものです。ここからの引用は苦し紛れ、強引さを否めないと思います。    「医学的な判断をする=裁判官の苦悩」は毎度のことなのです。

お医者さんがわからないものを判断しなければならないのですから。

 明日につづく  

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続いてMTBIについて、今委員会における専門医の意見を見てみましょう。

【片山医師の意見陳述】

 片山医師は脳神経外科学が専門である。当委員会の検討対象となっている、1回限りの軽症頭部外傷により遷延する重篤な症状あるいは障害が発生することがあるかという点について説明を行った。

課題1:一度だけのMTBIにより、遷延(3か月以上)する重篤(社会生活が困難)な症状あるいは障害が発生することがあるか?

a.受傷直後から数日ないし数週間までは、頭痛やめまいなどの愁訴や、記憶障害および注意障害、不安および抑うつなどの症状が持続することがある。

b.これらの症状は、受傷後しばらく脳の機能的障害および器質的障害の影響を受けるために起きると考えられる。

c.

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 「 MTBIについて掘り下げたい」・・・

MTBIって言葉をご存知でしょうか?これは Mild traumatic brain injury=軽傷頭部外傷 の略語です。

 外傷性のない、もしくは希薄な頭部の受傷により、脳障害を残すものとしておおむね認識されています。高次脳機能障害は「脳の器質的損傷」が前提である以上、高次脳機能障害とは認めれていません。したがって高次脳機能障害が疑われる障害を残しながら脳外傷がない為、MTBIと位置づけられる患者が少なからず存在します。

 当然自賠責や労災の基準に満たないこれらMTBI患者は障害認定されません。昨年9月訴訟で障害を認めた?との判決がでましたが、判旨を読むとそうも言えないようです。高次脳機能障害に携わる者にとって、まさに奥歯に刺さったとげです。

 今回の委員会でもMTBIの定義と扱いについて相当のボリュームを割いています。この新システム検討の過程をなぞりながらMTBIについて正面切って意見展開したいと思います。    まずはWHOにおけるMTBIの定義についておさらいしましょう。  

【WHOにおけるMTBIの診断基準】  (WHO 共同特別専門委員会のMTBIの診断基準)                   

MTBIは、物理的外力による力学的エネルギーが頭部に作用した結果起こる急性脳外傷である。

  臨床診断のための運用上の基準は以下を含む:

(i)以下の一つか、それ以上:混乱や失見当識、30分あるいはそれ以下の意識喪失、24時間以下の外傷後健忘期間、そして、あるいは一過性の神経学的異常、たとえば局所神経徴候、けいれん、手術を要しない頭蓋内病変

(ii)外傷後30分の時点あるいはそれ以上経過している場合は急患室到着の時点で、グラスゴー昏睡尺度得点は13-15上記のMTBI所見は、薬物・酒・内服薬、他の外傷とか他の外傷治療(たとえば全身の系統的外傷、顔面外傷、挿管など)、他の問題(たとえば心理的外傷、言語の障壁、併存する医学的問題)あるいは穿通性脳外傷などによって起きたものであってはならない。  

(解説)  この定義が出発点です。WHOではこの臨床診断において高次脳機能障害とは区別しています。  いわゆる脳震盪 < MTBI < 高次脳機能障害 のような位置づけでしょうか。  ではこの定義、区別をもってして完全に臨床判断できるのか?委員会では慎重に意見を重ねています。

 明日に続きます。 

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委員会における確認事項から。 「脳機能の客観的把握」・・・つまり神経心理学検査について。

 高次脳機能障害の提出書類の中で、

日常生活報告書・・・・ご家族の観察を報告します。つまり患者側の申告と評価です。

神経心理学検査・・・・医師による客観的な判断のもとになる数値。

 この位置づけを理解して下さい。患者側の訴える日常生活での変化、困窮点が客観的な検査と一致してはじめてその障害が顕在化されたといえます。

 私が把握しいている検査を一覧表にしました。今委員会のレポートで触れられた検査名を赤字にしています。

検査名

結果

①スケール(HDS-R)

  長谷川式簡易知能評価       

各30点

HDS-R 20以下  

MMSE 23以下 

それぞれ認知症の疑い

② ミニ・メンタルステーツ

(MMSE)

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<井田医師の意見陳述>を続けます。

④ 拡散テンソル画像は脳内の神経線維に沿った水分子の拡散の動きを見ることによって神経線維の状態を推定しようとするものであり、病変の位置が特定できている場合には脳機能と病変の関係を見ることについて有益である。ただし、形態学的に異常がない微細な脳損傷の有無を拡散テンソルだけで判断することはできない。

      

(解説) ビジュアル的に裁判受けします。それがためにテンソール検査を求めて病院回りしたこともあります。しかし本意見でも断定されている通り、以前からも調査事務所では重視していない画像です。

⑦ fMRIは指を動かすなどの課題に対して脳の中枢が賦活化されて、相対的にデオキシヘモグロビン量が変動することにより、賦活化された脳をMRIで画像化するというものである。脳機能を科学的に見るという面では良い方法であるが、現時点では微細な脳機能の低下に対してはまだ使える段階にはない。

⑧ ...

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 前回、「高次脳機能障害認定システム」の改正前後を比べました。先に結論をもってきた形です。この「高次脳機能障害認定システムの充実」は現行システムの問題点について、専門家の委員会による合計9回の論議がもとになっています。そこから改正の骨子となった、医師の意見を具体的に取り上げていきます。    それでは前回の予告通り、「画像」について。最も重要な立証資料であることはかわりませんが、ではどの画像検査が必須なのか?臨床の医師も損害立証による画像はどれを要求しているか知りあぐねています。また立証する立場において、全国の弁護士も取りあえず撮ってあるものだけ提出し、あまたの行政書士も交通事故110番のマニュアル本を参考に進めるしか手段がありません。  必要な画像検査とは何か?読み取ってみましょう。

 井田医師の意見に対して解説を加えていきます。  

【井田医師の意見陳述】 

井田医師は画像診断学が専門である。当委員会の検討対象となっている、軽症頭部外傷後の後遺障害が器質性のものであるか否かについて、最新の画像診断技術によりどこまで判断が可能なのかについて、実際の画像を参考に説明を行った。   ① 現在の画像診断の主役はCT、MRIであるが、画像診断において重要なことは、適切な時期にきちんとした検査が行われるということである。    (解説)  どんな脳神経外科でも受傷直後にCTもしくはMRIで脳損傷を観察するはずです。そこで医師に「脳は異常ありません」と言われると家族は一安心です。しかしその後も意識障害や記憶障害が続くようなら、続けてこれらの検査を依頼すべきです。  高次脳機能障害をよく知らない医師に出くわしたばかりにそのまま画像所見なしとなってしまったケースを経験しています。  この時期の画像所見が症状固定、後遺障害認定までこの先ずっと付きまといます。

  硬膜下血腫、受傷1週間後。血腫に押された脳の様子がわかります。  

② 今後、微細な外傷の診断にあたっては、MRIの撮像法である拡散強調画像(diffusion-weighted imaging : DWI)および磁化率強調画像(Susceptibility- weighted imaging : SWI)が有用となると考えられる。   ③ ...

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 本改定について、まず高次脳機能障害の入り口=認定基準から入ります。もっとも注目すべきところだからです。

旧基準をおさらいします。  ・・・青字に注目

【高次脳機能障害が問題となる事案】 (旧基準)   ① 診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘症あるいは軽度意識障害(JCS2桁~1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いた症例   ② 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例   ③ 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する具体的な症状     (注)あるいは失調性歩行、痙性片麻庫など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認め      られる症例、さらには知能検査など各種神経心理学的検査が施行されている症例     (注)具体的症状として、以下のようなものが挙げられる。      記憶・記銘力障害、失見当識、知能低下、判断力低下、注意力低下、性格変化、易怒性、      感情易変、多弁、攻撃性、暴言・暴力、幼稚性、病的嫉妬、被害妄想、意欲低下   ④ 頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3か月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認される症例   ⑤ その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例

<解説>

この既存の5項目は以下、簡便に3要件とまとめています。

① 脳の外傷となる診断名

② 意識不明が6時間継続、もしくは軽度の意識不明、健忘症が1週間継続

③ 画像(CT、MRI)で脳の損傷が認められる

詳しくは「高次脳機能障害の認定で3つの関門」を参照して下さい。

     → 高次脳機能障害の立証 11 ~入口に3つの関門

 この要件にあたらなければ、審査せず門前払いです。特に意識障害と画像について、高次脳機能障害をよく知らない医師が診てしまった故にアウトとなったケースを経験しています。

<この要件ではねられた実例>

① Aさん  受傷時に脳挫傷が明らかではなく、脳震盪とされた。    最初に書かれた診断名が1年~後の後遺障害の申請時までずっと付きまといます。   ② Bさん  受傷時の意識の記録がいい加減。    受傷時意識不明であったのに、そのように書かれていない。健忘状態が数日続いたのに、意識清明になったのは1日と記載されている。   ③ Cさん  受傷時に頭蓋骨の骨折や脳内出血がなく安心されてしまった。    MRIで少なくとも3か月後まで適時検査を続け、丁寧に画像を診ていくべきでした。脳外傷を示す脳室拡大、脳萎縮、点状出血などの病変部が遅れて出現するケースもあります。

  では新システムではどう修正されたのでしょうか? ・・・赤字に注目

【高次脳機能障害審査の対象とする事案】 (改定案)   A.後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められるが高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っている)場合    全件高次脳機能障害に関する調査を実施の上で、自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。   B. 後進障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められない(診療医が高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っていない)場合    以下の①~⑤の条件のいずれかに該当する事案(上記A.に該当する事案は除く)は、高次脳機能障害(または脳の器質的損傷)の診断が行われていないとしても、見落とされいる可能性が高いため、慎重に調査を行う。   具体的には、続きを読む »

 平成23年3月に国土交通省が「高次脳機能障害認定システムの充実について」を発表しています。  この報告書により、認定基準の修正、新基準、医学的見地の整理が公表されました。以前から主張していますが、平成13年(15、19年修正)に認定基準がやっと形作られた分野なだけに、まだ確立しているとは言い難いのです。

 現実、明らかな症状を示しても、頭部外傷の画像所見が乏しいため入り口で非該当の患者が後を絶ちません。またMTBI(軽度外傷性脳損傷)との区別も医学的見地のばらつきから曖昧なままでした。                    続きを読む »

 現在、高次脳機能障害案件を4件担当しています。    これから立証作業に入るもの、非該当から異議申立を行うもの、それぞれ受任の出発点は違いますが、この障害の立証に共通する出発点について解説します。   ※ 今年4月からの新基準となり、いくつか変更がありますが、この旧基準を基本条件と見てください。後日、新基準の解説を行います。     

■ 高次脳機能障害認定の3要件

 

① 傷病名が以下のように確定診断されていること   ・脳挫傷

・びまん性軸策損傷

・びまん性脳損傷

・急性硬膜外血腫

・急性硬膜下血腫

・外傷性くも膜下出血

・脳室出血

・骨折後の脂肪塞栓で呼吸障害を発症し脳に供給される酸素が激減した低酸素脳症  

② 画像所見(①の傷病名がわかる)    ・XP ・・・頭蓋骨骨折とそれに伴う脳損傷を確認できます。

 

・CT ・・・冠状断といって、輪切りにスライスした画像を確認します。連続した画像は脳委縮の確認が容易です。

 

・MRI ・・・T2スターで点状出血、フレアーで脳委縮、病変部を確認します。 

 

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 交通事故外傷で最大の勢力は「ムチウチ」の俗称でおなじみの「外傷性頚部症候群」です。

 外傷性について因果関係の争いが絶えない症状です。被害者は追突されても側突されても、それが軽い接触でもとりあえず「くび(頚部)を痛めた」と訴えます。詐病?心身症?の疑いのある相談者も存在しますが、事故を契機に神経症状に悩まされる患者が後を絶ちません。

 私達は被害者の利益追求のみで働く商売人ではありません。法律家を名乗る以上、倫理感を持って業務にあたっています。具体的には面談時、被害者の病態の見極めを最重要と考えています。それは被害者の訴えている症状を客観的に観察することです。「本当に訴える症状と診断名が一致しているのか?画像や検査の所見で説明できるのか?」・・・医師ではない私達にとって限界がありますが、細心の注意をはらっています。

 話が長くなりました・・・保険会社は頚椎捻挫・頚部症について、事故の外傷であることに否定的な論文を根拠とし、保険支払いに消極的です。しかし事故外傷を立証する立場の私達も、それら否定的な論文のチェックを怠りません。全否定vs全肯定の単純な図式とは思っていないからです。  否定的論文で比較的新しいものがありますので、掲載します。         【頚椎捻挫 最新の医学的知見】   整形外科医 北村 大也 先生

■ 病態

 頚椎捻挫の主な病態は筋や筋膜、靭帯、椎間板、関節包などの頚椎支持軟部組織の損傷で骨折は伴いません。症状としては頚部痛と可動域制限以外にも頭痛、めまい、視力低下、しびれ、上肢痛など多彩な症状を示すこともあります。しかし、その多くは原因としての器質的異常を見つけることが出来ません。

■ 検査

 器質的な異常が存在しないかどうかを調べることは大事です。主に用いられる検査はレントゲンとMRIです。

〇 レントゲン

 レントゲンでは骨傷がなければ頚椎捻挫の診断になります。しかしそれ以外にも、加齢による骨棘の形成や靭帯の骨化、側面像での湾曲の異常がみられることが多くあります。一般的には前弯消失(ストレートネック)や局所的な後弯変形は軟部組織損傷による一過性のものと考えられていますが、事実は違うようです。慶応大学の松本先生らは、健常者と頚椎捻挫患者のレントゲンを比較して、両者とも湾曲異常は同程度にみられたと報告しています。

〇 MRI

 MRI検査は骨以外の軟部組織の描出に非常に有用な検査です。麻痺や知覚鈍麻などがあり、神経症状を疑う場合には必須の検査になります。しかし頚椎捻挫の主病変と思われる軟部組織損傷を描出することはほとんど出来ません。また、レントゲンと同様に加齢による変化も多くみられます。椎間板変性や後方への突出、それらに伴う脊髄の圧迫などです。慶応大学の松本先生らは健常者と急性期頚椎捻挫患者(それぞれ約500名)のMRIを撮影し比較した結果を報告しています。それによると、MRIで前出の異常を認める頻度は両群とも変わりなく、患者の自覚症状とMRIの異常所見に関連性はありませんでした。また10年後の所見も両群で変わりはありませんでした。

 ・・・明日に続きます。

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 今朝は早くから病院同行でした。そこで「脳血流SPECT検査」を行いました。   ■ 脳血流SPECT検査 (脳血流シンチグラフィー)   1、検査の目的

 脳の各部における血流状態や、脳の働きをみるための検査です。脳の形態を見るX線CTやMRIではとらえられない、早期の脳血流障害の検出、神経症状の責任病巣の検出、脳の機能の評価などに有効です。

 例えば、脳挫傷が経度で、CTやMRIでの病変部が微妙でも、SPECTではっきり描出できる場合があります。病変部の脳血流が弱まると図のように色がはっきりつきます。

 本日の被害者さんは受傷から5年経った事故でしたが、左前頭葉、左側頭葉脳に血流の低下があり、受傷部と一致していました。   2、検査の方法

 造影剤を静脈注射後、ガンマカメラで脳を撮影し、脳血流分布を示す脳の輪切り画像(断層像)を作ります。検出はベットの上に仰向けに寝ているだけで、1回の撮影は30分程度で終わります。検査の目的によっては、脳の血管を拡張させる薬を投与する場合があります。   3、この検査でわかる疾病

 脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血など、脳血管障害が一般的です。    他に脳神経細胞の機能低下や脱落を原因とする精神疾患、てんかん、認知症(痴呆)があります。高次脳機能障害はこのカテゴリーに入ります。これらの障害では、脳の形態に変化がない部分で脳血流が低下することが多く、脳の病気の診断、病状の評価や治療判定に役立ちます。      <まとめ>

 平成23年4月の審査基準の新様式でも、未だ主流はCT、MRIです。脳血流の低下は病気でも起きます。CT、MRIに外傷性所見がなく、スペクトに異常が現れたとしても、事故受傷による障害の証拠にはなりません。スペクトはCT、MRIによる画像所見の裏付け、あるいは、障害程度を説明する為の補強と考えています。  

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■ 腰部神経ブロック

 腰部への神経ブロックは、トリガーポイントブロック、硬膜外ブロック、神経根ブロック、椎間関節ブロックなどがあり、腰痛の種類によって使い分けています。硬膜外ブロックも腰椎の棘突起の間から注射する「腰部硬膜外ブロック」と、お尻の仙骨裂孔から注射する「仙骨硬膜外ブロック」がありあます。

 「腰部硬膜外ブロック」は、腰椎(せぼね)の中の硬膜外腔という所に局所麻酔薬を注入し、痛みを一時的に和らげ、腰部と下肢の血行を改善し自己治癒力を高める療法です。エピやエピドラと略することもあります。神経を包んでいる一番外側の膜(硬膜)より外側のスペースに注射をする神経ブロックで、神経に直接針を刺したりしませんから、痛みもほとんどなく、腰痛治療の代表的神経ブロックです。

 腰椎椎間関節症(ギックリ腰)は効き目が顕著にでます。交通事故外傷でおなじみの腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症は「硬膜外ブロック」より「神経根ブロック」の方がより直接的な効果が期待できます。しかし脊髄周辺の極めてデリケートな部分に針を刺すので、医師の技術がものをいいます。不慣れな医師はビビってしまい、ピンポイントで神経に注入できないと聞きました。

                                   ■ 最後に

 痛みやしびれの緩和に絶大な効果をもたらす、これらの神経ブロック療法。これはつまり根本的な治療というより、自然治癒能力を高める処置と言えます。大事なことは整形外科医の外科的治療と両輪で進めるべき処方で、整形とペイン、両医師の連携と治療情報の交換が必須です。

 もしこの記事をご覧のペインクリニックの先生がいらしましたら、今後バレリュー症候群や腰椎間板症等の交通事故の患者さんをお願いしたいと思いますので、ご一報下さり、適時ご指導を頂ければと思います。   <参考文献:「星状神経節ブロック療法」 若杉 文吉 先生 著>   

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 レーザーを星状神経節近傍に照射することで、局所麻酔薬を用いての星状神経節ブロックに類似の効果をもたらすレーザーSGBについて。

※ SGB…stellate ganglion block  訳すると「星状神経節ブロック」です。現場の麻酔医は星状神経節ブロックと言わず、SGBと言っています。

■ レーザーSGB

 星状神経節ブロックと同じ要領で、第6または7の頚椎(C6またはC7)横突起のやや内側に(胸椎T1付近が正しい)、半導体レーザーのプローブを圧迫気味に当てます。照射時間は、60mWでは5分間、150mWで3分間、1000mWで1分間が目安です。レーザー照射により、頭頚部および上肢の局所温度上昇に伴い、疼痛の軽減、しびれ感の改善および患部の温感を自覚します。つまり、星状神経節ブロックに近似の効果をもたらします。

 神経ブロックとは異なり、ホルネルの徴候(縮瞳、眼球陥没、眼瞼下垂)の発現をみることはほとんどありません。また、ブロックではブロック側だけの局所温度上昇を認めますが、レーザー照射では両側の温度上昇がみられます。

 ブロックと比較して、レーザー照射の場合には、手技が容易で、合併症がなく、局所麻酔薬を用いないので薬物アレルギーの心配もありません。注射針を使用しないので痛みや恐怖感もありません。浦和のペインの先生から聞きましたが、女性は「早くブロック注射を!」と言いますが男性は「まずはレーザーで・・」との傾向だそうです。男性は度胸がないようです。

 レーザー照射の効果はブロックに比較すれば穏やかですが、効果の持続時間は、ほぼ同程度です。レーザー照射は、星状神経節ブロックの適応となる非定型顔面痛、緊張性頭痛、偏頭痛、群発頭痛、レーノー現象などの有痛性疾患、無痛性疾患である顔面神経麻痺、突発性難聴、鼻アレルギー、網膜血管閉塞症などに応用できます。高齢者や年少者に対する適応は大きく、頻回の治療が必要となる場合には、とくに有用な手段となります。

 開心術後患者などの抗凝固治療中の患者や糖尿病患者などでは、ブロックに伴う出血や感染が危惧されますので、レーザー照射が有用となります。     バレリュー症状がひどい場合、やはりブロック注射が望ましいと思います。しかしペインクリニックの現場では、まずレーザー+投薬で様子を見て、次に注射とする傾向です。    次回 ⇒ 腰部への神経ブロック    

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■ 自律神経について

 バレ・リューの代表的な症状、めまい、ふらつき、不眠、吐き気、耳鳴り、倦怠感はどのようにしておこるのでしょうか?これは自律神経の異常からおこる症状です。

 自律神経系には、交感神経系と副交感神経系とがあり、その中枢は間脳の視床下部にあります。呼吸、脈拍、血圧、体温、発汗、排尿、排便など、みんな自律神経によってコントロールされています。早い話、眠っているときでもちゃんと呼吸をして、心臓も止まらず、生命が維持できるのは、自律神経が働いているからです。

 交感神経と副交感神経は、拮抗的に働き、心拍数は交換神経が興奮すると早くなり、副交感神経が働くと遅くなります。運動している時=交感神経、休んでいる時=副交感神経、両者の関係はアクセルとブレーキに例えられます。 バレリュー症候群のしくみは自律神経の失調でも、とりわけ交感神経、副交感神経両者の異常亢進があげられます。つまり、アクセルとブレーキを逆に踏む、両方踏む状態です。日中は副交感神経が働き、だるくなり、眠りに入る時は交感神経が興奮して眠れない・・・。

 これらの悪循環を断ち切らない限り、患者の体力は奪われ、回復どころではなくなるのです。星状神経節ブロックは交感神経の異常亢進を抑え込むことを目的とします。星状神経節は胸から上の皮膚、内蔵の交換神経が集まっている、交感神経のバスターミナルのようなところです。ここの交通整理をすることで、自律神経の失調を回復させます。    つづく ⇒  レーザーSGB?  

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■ 痛みのしくみ

 痛みには「有用な痛み」と「無用な痛み」の2種類があります。

 体に傷を受け、痛みが起こると、反射的に自律神経系の交感神経が緊張し、副腎(腎臓の上部にあるホルモン分泌器官)からアドレナリン(血管や内臓を支配し、全身の活動力を高める働きをする交感神経を刺激して、心臓や血管の収縮力を高めるホルモン。一般に興奮状態を促すものと解釈されています。)が分泌され、心臓の働きが早くなり、血圧が上がり、呼吸も大きくなります。血管が収縮し、障害された局所への血流が少なくなり、血管が固まり易くなって、血液が失われるのを防ぎます。

 こうした、自分の体で「痛み」を直そうとするものは「有用な痛み」です。これは、体を守るための応急処置といえます。しかし何日も、何か月も、何年も、続く慢性的な「痛み」となると話は変わります。

 もう警告の役目はとっくに終わっているのに、スイッチの切れた警報器のようにいつまでも続く慢性の疼痛は「痛み」そのものが病気です。これによって体力が失われ、ケガの回復を遅らせ、辛い状態が続きます。   ■ 神経を「ブロック」するとは?

 先に述べた通り、神経ブロックは皮膚の外から注射針を刺し、麻酔液を注入することです。つまり、脊髄から分かれる末端神経を麻酔液によって麻痺させ、抹消神経節から脊髄に渡る神経伝達を遮断します。これによって「無用な痛み」の伝導路を断ち切るのです。   ■ 星状神経はどこにある?

 先日の被害者さんは、「あれって喉から刺すんですね・・」と言っていました。頚部=うなじ、と思う方も多いです。頚部の交感神経節は上から、上頚神経節、中頚神経節、椎骨動脈神経節、そして星状神経節の4つです。星状神経節は長さ約3cm、幅1cm、厚さ0.5cmで、最新の研究で第一胸椎の横にあることがわかりました。(古い本では第7頸椎の横と記載されていますがこれは間違いです。)つまり首の付け根、鎖骨のすぐ上のあたりでしょうか。

(第7頸椎)の下がT1(第一胸椎)です

    次回 ⇒ 自律神経  

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■ 神経ブロックとは

 神経、またはそのそばに注射をして、神経の働きを一時的、あるいは永久的に休ませて、病気を治す治療法のことです。局所麻酔薬を使用し、一時的に神経を休ませることで、自己治癒力を高めます。麻酔薬はキシロカインが主で、カルボカイン、マーカイン、アナペイン、ステロイド剤があります。副作用を伴うステロイドは敬遠されています。

 「痛み」が発生すると、自律神経のひとつ「交感神経」が緊張していまい、毛細血管は収縮して血行が悪くなってきます。ところが、これは痛みを治すためには困ったことで、血行を良くしないと痛み物質が滞り、炎症は治りにくく、痛みはどんどん強くなってしまいます。そして、自律神経失調症をまねいてしまう原因ともなります。

 神経ブロック療法には、血行を良くする働きがありますので、この痛みの悪循環を断ち切ることができ、治癒を促進するのです。

                                      ■ 星状神経節ブロック

 目下、ペインクリニックで注目の神経ブロックです。喉にある交感神経を一時的にゆるめ、ヒトが本来持っている自己治癒力を高める治療法です。自律神経、ホルモン分泌、免疫力、抵抗力のバランスを整えますので色々な症状や病気に有効です。

 喉には星状神経節といって、脳・顔面・頭部・頚部・上肢・心臓・肺などに交感神経の細い線維を送っている交感神経の「中継所」のようなところがあります。この神経のターミナルに局所麻酔薬を注射し、交感神経の働きを一時的に遮断するのが「星状神経ブロック療法」です。この療法をすると、局所麻酔薬が効いている間、脳を初めとする支配領域の血行がよくなり、機能低下していた様々な器官が機能回復するのを助けます。そのため、痛みや様々な症状が楽になってくるのです。

 星状神経節ブロック療法の特徴は、繰り返していくと脳の視床下部の機能が改善され、自律神経、ホルモン分泌、免疫力(抵抗力)のバランスが整い、自己治癒力が高まってくることにあります。そしてその改善した自己治癒力により、さまざまな病気に適応できます。

 また、副作用がないことも「星状神経節ブロック療法」の特徴です。老若男女を問わず、妊娠中の女性でも、大丈夫です。ただ時々、ブロック注射のあと、声がかすれる、ものを飲みこみづらい、注射した部位が痛い、腕があがらない、といった症状がみられることがあります。これらは、一時的なものですから心配はいりません。1~3時間でもとにもどります。稀に、キシロカインにアレルギー反応を起こす人もいるので、注意が必要です。    星状神経節ブロックを詳しく ⇒ 神経ブロック 2

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 昨日の筋電図に続いて神経伝導速度検査を。筋電図ができないときに実施します。既に筋電図検査を行っている場合は必要性は薄れます。    ■ 神経伝導速度検査とは

 末梢神経を皮膚上で電気刺激し、誘発された電位を記録し、伝導速度、振幅などを測定するものです。これによって末梢神経疾患、脊髄疾患の診断、病態の把握に活用できます。運動神経刺激によって筋肉で誘発される波形を検査する運動神経伝導検査と、感覚神経自体の電位の波形を検査する感覚神経伝導検査とに大別されます。

 刺激をすることで神経や筋肉の反応が得られ、得られた反応を用いて伝わる速さを測定したり、波形の分析を行います。検査中ピリッ、ピリッと感じます。正常の場合にはある程度の決まった速さで伝わる興奮の速さが遅くなるか、もしくは反応が出ないなどの所見が認められます。障害がある場合には、障害の部位や障害の程度、障害の範囲を判断することができます。   ■ 上肢、下肢の場合

 皮膚の上に電極を貼り,神経に体表から刺激を加えます。腕では通常正中神経か尺骨神経でそれぞれ運動神経線維と感覚神経線維を調べ、足では後脛骨神経で運動神経線維、腓腹神経で感覚神経線維、腓骨神経で運動と感覚神経線維を調べます。

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 昨日は「腓骨神経麻痺」の疑いのある被害者さんと主治医面談でした。足首が完全に動かないわけではないのですが、背屈(足首を上にそらす)が不能なので「不全麻痺」が正確な表現でしょうか。しかしその可動域の制限だけでは後遺障害の認定は得られません。それを裏付ける検査数値と確定診断が必要です。そこで主治医先生にタイトルの検査依頼となるわけです。

 中には「なんで治療が終わったのに検査するの?必要ないよ」、「保険請求のため?それは医者の仕事じゃないよ(・・めんどうだなぁ)」という対応の医師もいます。ましてや、「むち打ち」ごときでは、通常、医師の協力は得られません。

 医師の言う事もごもっともと思いますが、後遺障害を残した患者にとっては切実な問題なのです。毎度苦労させられますが、昨日の医師は検査の必要性に御理解をいただき、誠実に対応して頂けました。本当にありがたいです。     では針筋電図について・・・   ■ 筋電図とは

 筋線維が興奮する際に生じる電気活動を記録することで、末梢神経や筋肉の疾患の有無を調べる検査です。筋電図検査といった場合には,筋肉の活動状態を調べる針筋電図と筋肉・末梢神経の機能や神経筋接合部を検査することができる誘発筋電図の両者を含める場合もあります。   ■ 脊髄損傷に対しては

 脊髄にある前角細胞と呼ばれる運動神経以下の運動神経と筋肉の異常を検出するために行われます。これらの部位に疾患がある場合には,その障害がある部位や,疾患の重症度などを評価することもあります。異常を示す筋肉が限局している場合には,その分布により末梢神経が原因か脊髄が原因かなどをある程度推定することができます。   ■ 顔面神経麻痺に対しては

 表面筋電図検査は四肢や顔面などに不随意に起こる運動が見られる場合に時として有用です。この検査の利点は、針電極や電気刺激を用いないので、疼痛を伴わないことです。                                       

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脊髄シリーズ、今日で終了です。神経の後遺障害はとても深い領域です。私のわずかな経験では語り尽くすことはできません。より経験を積んで学習を深めていきたいと思います。

 最後に画像以外での判定、診断について昨日の見学から報告です。この患者さんの症状は脊髄損傷を示していますが、画像所見では判然としません。既に受診した2~3名の医師も「う~ん・・・」状態でした。このような不確定な状態で漫然と治療を続けていても不安です。ついにその分野の第一人者たる専門医の診断を仰ぎました。  

<検査と診断>

 頚部神経症状か脊髄損傷か・・・上肢、下肢のしびれ、めまい、ふらつき、不眠等、神経症状の原因をまず判定しなければ治療方針も定まりません。

 この専門医師はしばらく患者の話を黙って聞いています。そしていくつか質問を行い、以下の検査、数項目をはじめました。 

1、首の左右の神経根圧迫の様子をみる

 まずはジャクソンテスト、スパーリングテストと呼ばれる検査です。医師が頭を上から垂直に押すジャクソン、首を左右に傾けて押すスパーリング、その結果で左右の神経根圧迫のサイン(指先にビリビリと痺れが走る)を観察します。  昨日の医師の場合、「首を左に傾けて下さい」、「次は右」、「指先まで痺れがきますか?」。それだけです。患者にまったく触れません。                 

                  

2、腱反射

 ゴムハンマーで膝などをコンッと叩く奴です。 上腕二頭筋と腕橈骨筋を叩きました。 神経根圧迫の場合、反射は「低下」、「消失」といった、無反応にちかい反応を示します。脊髄損傷の場合は「亢進」です。亢進とは異常反応のことで、ピクッと筋肉が緊張します。                 3、病的反射  (トレムナー、 ホフマン、ワテンベルク )

 ・ホフマン ・・・ 手の平を上に向け、中指を曲げて手のひら側にピンッと弾きます。  ・トレムナー ...

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<後遺障害>

寝たきりとなり介護の必要なものから、上肢・下肢にしびれが残存するもの、痛みや可動域制限の残るもの等、症状・軽重の幅が広くなります。系統的には神経系統の障害に属します。

等級 内容 喪失率 自賠金額 1級1号 (別表Ⅰ) 神経系統の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 100% 4000万円 2級1号 (別表Ⅰ) 神経系統の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 100% 3000万円 3級3号 神経系統の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 100% 2219万円 5級2号 神経系統の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 79% 1574万円 7級4号 神経系統の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 56% 1051万円 9級10号 神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 35% 616万円

   ムチ打ちで診断書に「脊髄不全損傷」と書かれても、画像所見が乏しいと12級13号、14級9号で判断されます。両上肢や下肢にしびれが残存する、排尿排便障害が残る、これらは脊髄損傷の症状ですが、「局部に神経症状を残すもの」で括られます。後にも先にも画像所見が決め手です。

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