(4)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 踵骨骨折では、骨折部の疼痛が後遺障害の対象となります。症状としては、歩行時の痛み、坂道や凸凹道の歩行や長時間の立位が困難なこと、高所での作業が不可能であることが代表的です。この状態が2年以上続くこともあり、症状固定の決断に頭を悩ますことがあります。

 事務職であれば、問題を残しませんが、営業職や現業職では就労復帰が遅れることになります。当面の配置転換が可能であれば、この問題はクリアーできますが、全員がそうではありません。こんな状況でも、骨癒合が完了した時点で、症状固定とすべきと考えています。XP、CTで骨折後の骨癒合状況を立証し、なんとか、12級13号を獲得する方向です。
 
① これ以外には、ベーラー角度の減少による外傷性偏平足があるかどうか?


 ベーラー角は、20~40°が正常ですが、健側と比較して問題提起をしています。これもONISのソフトで、秋葉事務所では、たちどころに計測できます。
 
② 距踵関節面に、僅かでも変形が認められるかどうか?
 
③ MRIで、内外果の周囲の腱や靱帯、軟部組織に瘢痕性癒着が認められるかどうか?
 
 これらのチェックも怠りません。配置転換もなく、就労復帰が遅れていたとしても、受傷から2年以上、休業損害を払い続ける相手の損保は、1社もありません。治療の打ち切り、示談解決が督促されることになります。どうせ打ち切られるのであれば、予想される休業損害を含めた示談交渉をすればいいのです。

 さすがに、被害者の言い分を損保が丸呑みすることはありませんが、有能な弁護士なら、慰謝料の増額交渉で、これを実現しています。
 
Ⅱ. もう1つ、踵骨の骨折部にズディック骨萎縮が認められ、灼熱痛を訴え、車椅子状態で、就労復帰の見通しが、どうにも立たないことがあります。これは単なる疼痛ではなく、複合性局所疼痛症候群のCRPSタイプⅡ(旧称:カウザルギー)です。これを丹念に立証して、後遺障害等級を獲得しなければなりません。
 
 詳しくは 👉 CRPSについて 概論と近況 
 
Ⅲ. 踵骨の粉砕骨折、後距踵関節に骨折線がおよんでいる重症例では、歩行時の疼痛にとどまらず、足関節に大きな可動域制限を残します。

 普通は、足関節の背屈と底屈の計測で立証は終了しますが、場合によっては、内返し、外返し、回内、回外まで行います。通常、自賠責保険での可動域制限は背屈・底屈で判定されます。それらが正常であれば、機能障害の等級はつきません。ただし、踵骨の変形によっては、背屈・底屈が正常でも、内返し、外返し、回内、回外が悪化する可能性があるのです。判定外とは言え、せめて12級13号の認定に漕ぎつける要素にはなります。また、訴訟で、足首の「内返し、外返し、回内、回外の制限」による機能障害を立証、逸失利益の増額に寄与させます。障害の立証とは、「自賠責保険(の判定が)すべてではない!」と、思っています。
 
 まさに、その立証例 👉 12級13号:踵骨開放骨折(50代男性・東京都)
 
 さらに、CTの3D撮影で、べーラー角の計測による縦アーチの崩壊、距踵関節面の変形、MRIで、内外果の周囲の腱や靱帯、軟部組織の瘢痕性癒着を緻密に立証し、上位等級に結びつけています。

 歩行時に足底板の装用を必要としているかも、等級獲得ではキーポイントです。


 
Ⅳ. 以上のような後遺障害が残らない場合でも、かかとの痛みは、辛く、長く、続くものです。
 
 その場合、症状の一貫性があれば、14級9号をつけてもらいます。自賠責はわかってくれます。
 
 ちょっと甘い認定 👉 14級9号:踵骨骨折?(40代男性・埼玉県)
 
◆ 交通事故110番 宮尾氏の経験則

 第12胸椎圧迫骨折や腓骨筋腱損傷を合併した例があります。胸腰椎の圧迫骨折は、縦方向に衝撃が加えられたことによるもので、不思議ではありません。腓骨筋腱の走行路の転位を修正することは、手術段階で可能ですが、見落とされています。このように考えると、手術では、専門医を選択しなければなりません。救急搬送では、被害者に治療先の選択権はありません。これは、家族が考えることになります。
 
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