世に言う、3メガ損保(※)。東京海上日動、三井住友、損保ジャパン。
 
※ 3メガとは○○ホールディングスなどグループ企業(持ち株会社)の呼び方です。正しくは大手3社とよぶべきでしょうか。
 

 
 国内社20数社から抜きんでた規模を誇る3つの巨大金融カンパニー、その補償内容については、常に他社が追従する傾向と思います。長らく全社同一補償・同一掛金であった戦後の護送船団方式は、1996年金融ビックバンより、各社、自由な掛金、自由な補償が可能となりました。それでも、会社ごとに大きな変化はなく、おおむね横並びは続いているようです。
 
 横並びの補償であっても、ゆっくりとですが各社、約款に独自色をだしています。約款上の支払い条件などは、少々マニアック、契約する前に比較はしないでしょう。ただし、補償範囲はパンフレットで容易に比較できます。その象徴的なものとして、人身傷害保険の「交通乗用具」が挙げられます。
 
 それでは、令和4年1月1日の改定、3メガ損保の変化を比較してみましょう。魏(東海日動)・呉(損保ジャパン)・蜀(三井住友)3国鼎立は崩れたのか、消費者(契約者)は厳しく見ていくべきと思います。あと、乗合代理店さん(複数の保険会社を取り扱う)もね。
 

 御覧の通り、最大勢力の東海日動さん、三井住友さんは、損保ジャパンに後れを取った格好です。交通乗用具の補償だけで補償内容の優劣を比べるべきではありませんが、こと人身傷害保険では、東京海上日動さんの劣位が目立ちます。補償範囲と保険金算定の2点をみますと・・
 
1、補償範囲~交通乗用具
 
 前述の通り、交通乗用具まで補償されません。平成23年に廃止、現在もそれを貫いています。
 
2、保険金の算定
 
 保険金は自社基準を1st(原則)とし、裁判での判決・和解ならその金額を認める・・平成24年2月の最高裁判決を受けた約款は他社と変わりません。しかし、先に賠償交渉・裁判で決着した過失割合が20:80として、その20%を後に自身契約の人身傷害に請求すると・・担当者はしれっとこう言います。
 
 「自社基準で計算しますので、20%全額は払えません(0円もある)。」 
 
 対して、「最高裁判決で契約者の権利を害さない・・とあるではないですか!」と反論しても、
 
 「それは、人身傷害を先に請求した後の求償の規定ですので、先に賠償金を受け取った本件の場合、そのような約款の規定はありません(あしからず)」となるのです。 多くの弁護士先生、この約款を突きつけられて諦めてしまいます。
 
 これは、”相手への賠償請求と人身傷害への保険請求の順番で、被害者(契約者)が受取る保険金額が変わってしまう”矛盾です。先の判決でも宮川判示は以下、補足意見を示しました。
 
 「字義どおり解釈して適用すると、保険金を賠償金より先に受領した場合と後に受領した場合とで異なることは不合理である。」
 
 東海日動さん、補足意見ごときに従う気がないのでしょうか。損J、あいおいさん他損保のいくつかは、これを受けた約款改定をしています。つまり、「請求の前後に関係なく、裁判で決まった損害額ならその金額から保険金額を算定する」としています。
 
 そうではない東海日動さんへの対抗策として、人身傷害への請求は「人傷先行 ※1 」が原則となります。あるいは、賠償先行の場合は「約款の不作為」を主張、人身傷害への請求を”裁判基準で”強引に請求しています。
 
※1 人傷先行とは 👉 人身傷害特約 支払い基準の変遷 ⑭ 訴訟基準をゲットするための3策(1)
 
 1、2、いずれも、人身傷害を国内で初めて発売した老舗、東海日動さんの頑固さが目立ちます。最も洗練されたリーディングカンパニーでありながら、人身傷害保険だけは堅物なのです。
 
 ただし、東海日動さんの名誉の為に付け加えますと、実際の人身傷害への保険金請求交渉では、「話せばわかる」会社こそ東海日動さんです。連携弁護士の報告からも、「約款はガチガチだが、交渉次第で担当者が裁判基準を認める」ことが多いのです。これは、人身傷害の性質と約款の問題点を理解している弁護士なら、話に応じる姿勢なのだと思います。担当者の質が「良く練られている」のです。一方、交通事故事件に不慣れ、勉強不足の弁護士先生は、約款を盾にいいようにやられている(※2)ようです。
 
※2 やられている問題 👉 ときに「人身傷害保険への請求が交通事故解決の最大の山場」となる ① 全額回収ならず
 
 一方、中小損保の担当者は、そもそも人身傷害の問題点を理解していないのか、担当ごとに解釈が変わり、頓珍漢な回答が目立ちます。共済や通販では、まったく理解が追い付かないのか、請求毎に社内会議をしているようです。ある担当者は、「秋葉さんのホームページを観て、ようやくわかった」と言っていました。初めてこの問題に直面した弁護士先生にも、一連の記事を観てもらうようにしています。
 
 最後に、交通乗用具の有無について、主要各社を確認しました(令和4年1月1日~)。
 
○ 交通乗用具、対象外の会社
 
 東京海上日動
 楽天損保
 セコム損害
 セゾン火災
 ソニー損保
 イーデザイン
 共栄火災
 JA
 大同火災
 アクサ損保
 SBI損保
 チューリッヒ
 三井ダイレクト
 
○ 交通乗用具を堅持・復活した会社 
(交通乗用具特約等、特約をフルセットする必要があります)
 
 日新火災
 全労災
 あいおいニッセイ同和
 AIG損保
 損保ジャパン 
 

○ 交通乗用具の範囲を狭めた会社

 
 三井住友
 
 交通乗用具を復活させた損保ジャパン、補償範囲を狭めた三井住友、奇しくもこの2社に動きがありました。そして、変わらない青グループ・・・中小損保はどこに追従するのでしょうか。赤グループに入るのか、あるいは三井住友さんに準えて補償証範囲を限定+支払い保険金の定額化とする緑グループが形成されるのか・・3国(3社)の動向から目が離せません。
 

 秋葉の約款チェックは続くことになります。 来年の研修に備えて、全社比較表を直しておきますね。
 
 つづきは 👉 人身傷害・近年の約款改定 ④ ~ 支払い内容をいじった2社