前回までは3メガ損保の比較をしました。大手社の新商品や約款改定があると、その他の会社が追従するパターンが常でしたが、独自路線の会社についても調べました。シリーズのタイトルは「人身傷害・今年の約款改定」と銘打ちましたが、2、3年前からの改定も含めますので、「近年の約款改定」と変更します。
 
 前回まで

👉 人身傷害・今年の約款改定 ① ~ 損保ジャパン、交通乗用具・復活の日
 
👉 人身傷害・今年の約款改定 ② ~ 三井住友、交通乗用具やめるってよ
  
👉 人身傷害・今年の約款改定 ③ ~ 交通乗用具・三国志
 
 三井住友さんは交通乗用具の補償範囲を狭め、支払い内容も人身傷害の最大の特徴「実額払い」を「定額払い」にしました。実額払いとは、実際にかかった治療費、休業損害などを実額で支払うものです。一方、定額払いは従来の傷害保険のように、「死亡1000万円、入院1日あたり5000円、通院1日あたり1000円」と契約前に金額が決められたものです。

 三井さんは2年前の改定で、(交通乗用具に限ってですが)定額払いに戻してしまいました。交通乗用具の範囲も、自転車、車イス、ベビ-カー、シニアカーだけに絞って、「自転車・車いす・ベビーカー・シニアカー事故傷害定額払特約」と別にしました。詳しくは、上のリンク 「三井住友、交通乗用具やめるってよ」をご覧下さい。 
 
人身傷害・近年の約款改定 ④ ~ あいおいニッセイ同和さんの場合
 
 あいおいさんの場合ですが、交通乗用具の補償範囲は保っています。しかし、2年前の改定で、(交通乗用具に限ってですが)傷害部分の支払いから、精神的損害(慰謝料)と休業損害を除きました(5条の①)。積極損害としての治療費は、提出する診療報酬明細書や領収書から金額が明確ですから、もちろん支払います。
 
 静かな改定ですが、人身傷害保険のモデルであるアメリカのノーフォルト保険に近いづいた感があります。
 
 もっとも、秋葉事務所では、深刻な問題ではないと解釈しています。なぜなら、大きな金額となるのは、何と言っても後遺障害です。賠償先行の場合、損害総額に傷害部分の慰謝料と休業損害を含めるようです(5条② ⇒ 人身傷害6条(損害の額の決定))。

 5条の②の「ただし~」を理解すると、賠償先行の後に自身の過失分を人身傷害に請求する場合、損害総額に算入も、人身傷害の保険金からは、傷害部分の慰謝料と休業損害をあくまで差っ引くようです。この辺は細かいというか、約款の整合性からでしょうか。

 それでも、求償(人傷先行、後に賠償請求する)の場合では、損害総額に傷害部分の慰謝料や休業損害が含まれていれば、求償額は含めて計算するようです(5条の③)。
 
 普通の人は、ここまで理解が及ばないでしょう。問題意識をもっている研究者、マニアの領域なので気にする必要はありません。しかし、交通事故被害者、ケガによっては数10~100万円単位の損得がかかる問題です。
 
 賠償先行・人傷先行とは? 👉 人身傷害特約 支払い基準の変遷 ⑪ 非難ごうごう「人傷基準差額説」判決
 
 発売以来、人身傷害・最大の矛盾は「請求の順番如何で、保険金が変わってしまう問題」・・すでに、あいおいさんは、「裁判で決まった額なら、賠償先行・人傷先行のどちらであっても、それを損害総額と認める」約款に直しました。支払い内容を5条①でいじったので、5条の②と③はこれに対応させたものです。ややっこしいですね。


 
 人身傷害、支払い内容に変化を加えたタイプが新たに誕生していました。三井住友型、あいおいニッセイ同和型に倣う損保社があるのか・・今後の約款確認作業に、また一つ手間が増えました(目がしょぼしょぼ、面倒です)。
 
 ちなみに、続く6条は、生保の約款でお馴染みの「行方不明規定」です。飛行機や船舶事故で死体が見つからなくても、30日経てば死亡とみなし、死亡保険金を支払います。
 

第5条(交通乗用具に関する交通事故等における保険金の支払いについての特則)

当社は、この特約により、第2条(保険金を支払う場合)(1)③から⑥までに規定する交通事故による普通保険約款人身傷害条項および基本条項の適用については、次のとおりとします。

① 普通保険約款人身傷害条項第6条(損害の額の決定)(1)の規定により算定される損害の額のうち、普通保険約款<別紙>人身傷害条項損害額基準における次の損害に対する額については、人身傷害保険金を支払いません

ア.「第1 傷害による損害 2.休業損害」

イ.「第1 傷害による損害 3.精神的損害」

② 本条①の規定にかかわらず、賠償義務者がある場合で、保険金請求権者が、賠償義務者との間で裁判や示談等により損害賠償額が確定した後に、人身傷害保険金の請求をしたときの人身傷害保険金の額の算出においては、普通保険約款人身傷害条項第6条(損害の額の決定)(1)の規定により算定される額には、本条①のア.およびイ.により算定された金額を含めて算出します。ただし、これにより算出される当社の支払う人身傷害保険金の額は、普通保険約款<別紙>人身傷害条項損害額基準により算定された金額から、本条①のア.およびイ.により算定された金額を差し引いた額を限度とします。

③ 本条①の規定にかかわらず、普通保険約款基本条項第25条(代位)の適用において、「てん補損害額」および同条(5)②の「人身傷害条項第6条(損害の額の決定)(1)①から③までの区分ごとに算定された金額」には、本条①のア.およびイ.により算定された金額を含めるものとします。
 
第6条(航空機・船舶の行方不明または遭難)

被保険者が搭乗している航空機または船舶が行方不明となった場合または遭難した場合は、次のとおりとします。

① 当社は、航空機または船舶が行方不明となった日または遭難した日からその日を含めて30日を経過してもなお被保険者が発見されない場合は、その航空機または船舶が行方不明となった日または遭難した日に、被保険者が交通事故によって死亡したものと推定します。

② 保険契約者または保険金請求権者は、行方不明または遭難発生の状況を遅滞なく当社に通知しなければなりません。

③ 保険契約者または保険金請求権者が、正当な理由がなく本条②の規定に違反した場合、またはその通知について知っている事実を告げなかった場合もしくは事実と異なることを告げた場合は、当社は、それによって当社が被った損害の額を差し引いて人身傷害保険金を支払い