肋骨多発骨折の重症例 外傷性・血胸(けっきょう)、血気胸(けっききょう)

(1)病態

 胸腔内の内圧は外気圧より低くなっており、外傷により外から空気が入り込む、あるいは血液が貯留すると肺は虚脱、縮小し、強い呼吸障害を起こします。血胸は胸膜腔に血液が貯留した状態で、外傷の他、大動脈解離、胸部大動脈瘤の切迫破裂など、医原性の出血などでおこります。

 血液が貯留すると血胸、空気が入り込むのが気胸、2つが合併していれば血気胸と呼ばれます。交通事故では、骨折した肋骨が胸膜を突き破り、血気胸を発症することが一般的です。
 
(2)症状

 胸部痛、呼吸困難、チアノーゼ、顔面蒼白、頻脈、四肢冷汗などの症状で大騒ぎになりますが・・
 
(3)治療

 胸腔穿刺で空気を排除、腹腔ドレナージで血液を排出、胸壁創を縫合閉鎖すれば治療は完了します。大量血胸時には開胸術が必要となります。
 
(4)後遺障害のポイント

 血胸、血気胸共に、上記の処置でおよそ完治するものです。呼吸器の障害などは稀です。弊所でも認定実績がありません。
 
Ⅰ. 血気胸と同時に多発肋骨骨折があれば、肋骨の変形が、裸体で確認できるかがポイントです。確認できたときは、体幹骨・肋骨の変形で12級5号が認定されます。

 変形が確認できないときでも、骨折部に痛みを残していれば、症状の一貫性から14級9号、骨折部の変形を3DCTで立証することにより、12級13号を目指します。
 
 これらは、前回の肋骨骨折を参照して下さい 👉 体幹骨の後遺障害 ⑭ 肋骨骨折
 
Ⅱ. 血気胸の治療後に肺が萎縮し、呼吸障害を残したときは後遺障害の対象となります。立証方法は以下の通りですが、外傷性血胸・血気胸で呼吸障害を残すことは、ほとんどありません。
 
① 動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果


 動脈血に含まれる酸素の圧力を動脈血酸素分圧、動脈血に含まれる炭酸ガスの圧力を動脈血炭酸ガス分圧と言い、呼吸機能の低下により、上記のレベルを示し、常時介護の必要なものは1級、随時介護が必要なものは2級、それ以外のものは3級が認定されます。
 
② スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度

◆ スパイロメトリー検査

 スパイロメーターを用いて呼吸気量を計測する検査のこで、呼吸の呼気量と吸気量を測定し、呼吸の能力を判定しています。学校で肺活量を計ったことがあると思います。
 
※ %肺活量   実測肺活量÷予測肺活量×100=%肺活量

 上記の計算式で算出されるもので、肺の弾力性の減弱などにより、換気量の減少を示す指標であり、正常値は80%以上です。
 
※1秒率

 肺活量を測定するときに、最初の1秒間に全体の何%を呼出するかの値です。肺の弾力性や気道の閉塞の程度を示し、弾力性がよく、閉塞がないと値は大きくなります。
 

 
③ 運動負荷試験の結果

 運動負荷試験には、トレッドミル(↓ 写真左)、エアロバイク(右)による漸増運動負荷試験、6分・10分間歩行試験、シャトルウォーキングテストなどの時間内歩行試験、50m歩行試験などがあります。

  

 自賠責保険は、運動負荷試験の結果について、以下①~⑤、5つの事項について主治医に文書照会を実施した上で、呼吸器科を専門とする顧問医から意見を求めて、呼吸障害の等級について、高度⇒中程度⇒軽度の3つに分類し、等級を認定しています。
 
① 実施した運動負荷試験の内容
 
② 運動負荷試験の結果
 
③ 呼吸機能障害があると考える根拠
 
④ 運動負荷試験が適正に行われたことを示す根拠
 
⑤ その他参考となる事項
 
 ①と②の結果を比較して②の数値が高いときは、②の結果で障害等級を認定しています。
 
 ① ②の数値では後遺障害の基準に該当しないときでも、③の基準を満たせば、認定されています。
 
● 呼吸障害の程度
 
高度 ⇒ 呼吸困難のため、連続しておおむね100m以上歩けないもの
 
中程度 ⇒ 呼吸困難のため、平地でさえ健常者と同様には歩けないが、自分のペースでなら、1km程度の歩行が可能であるもの
 
軽度 ⇒ 呼吸困難のため、健常者と同様には階段の昇降ができないもの
 
 肺挫傷など、呼吸器の障害は、「臓器の障害」で詳しく説明したいと思います。
 
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