嗅覚脱失(きゅうかくだっしつ)
 
 ちなみに漢字を区別すると・・匂い(良いにおい)・臭い(悪いにおい)です。
 

(1)病態

 嗅覚障害は、鼻本体の外傷ではなく、頭蓋的骨折と頭部外傷後の高次脳機能障害、特に、前頭葉の損傷で発症しています。これらは、嗅神経の損傷を原因としたものであり、治療で完治させることができません。
 
 その実例(高次脳機能障害に併発)👉 12級相当:嗅覚障害(20代女性・東京都)
 
 例外的に、追突を受けた外傷性頚部症候群の男性被害者に嗅覚と味覚の脱失を経験しています。頭部外傷がなく、絶望的な思いでしたが、事故受傷直後から自覚症状を訴えており、そのことは、カルテ開示においても確認できました。検査結果でも、嗅覚の脱失を立証でき、嘘ではないと確信し、被害者請求で申請したのです。自賠責・調査事務所は、7カ月を要して、嗅覚の脱失のみを12級相当として認定してくれたのです。
 
 その実例 👉 12級相当:嗅覚障害(60代男性・長野県)
 
 もう一つ 👉 12級相当:嗅覚障害(30代女性・東京都)
 
(2)後遺障害のポイント

Ⅰ.  T&Tオルファクトメータ検査で立証、検査結果は、オルファクトグラムで表示されます。

 バラの香り、焦げた匂い、腐敗臭、甘い香り、糞の臭い、5種類の匂いを嗅がせ、濃淡0~5まで段階で評価します。特に腐敗臭では、検査室に同席していると、強烈に臭ってきますが、嗅覚の脱失では、この強烈な臭いを感じることができません。検査に要する時間は、およそ20分です。
 
 認知域値の平均嗅力損失値で、5.6 以上は、嗅覚脱失で12級相当が認定されています。
 
 2.6~5.5以下は、嗅覚の減退と判断され、14級相当が認定されます。
 
 2.5以下は、非該当となります。
 

T&Tオルファクトメーター検査

 
 数値上、14級が認められた実例 👉 14級相当:嗅覚障害(50代女性・埼玉県)
 
◆ 検査手順

① 検査者は、ニオイ紙の一端を持ち、他端を1cm嗅覚測定用基準臭の中に浸してから、被検者に手渡し、被検者は、基準臭のついたニオイ紙の先端を鼻先約1cmに近付けて臭いを嗅ぎます。


② 臭いを感じた濃度1~5(○)、どんな感じの臭い、分かった濃度で1~5(×)、そして判定不能5~(↓)を判定できるまで、一段、一段、濃度を強くしていきます。

◆ 検査表の見方

検知域値(臭いが分かる)=

認知域値(臭いを区別できる)= ×

スケールアウト、全く臭わない、測定不能=

 これらの3つを記録します。薬品の濃度は8段階、正常値の臭いの濃度は、2~0で、濃度は最高5まで。1段階上がるごとに臭いの濃さは10倍になります。最高濃度の匂いはかなりキツイものです。検査に立ち会った際、服に香りがついて、しばらく臭いました。

 認知域値は検知域値と同じか1段階上のことが多く、3つ以上乖離しているときは、重度の脳中枢障害の可能性が予想されます。
 
◆ 数値の計算方法

 嗅覚障害者が生活上での困窮するのは、臭いがしないこと、臭いが区別できないことです。したがって、判定には認知域値を用います。最高濃度5でも認知不能のときは、それぞれ最高濃度に1を加えて6として計算します。

※ ただし、B焦臭のみ、4が認知できないときは、5を最高として計算します。
 
(A+B+C+D+E)÷5=数値
 
 T&Tオルファクトメータ検査結果は、オルファクトグラムで表示され、発行されています。そこには、○検知域値、×認知域値、↓スケールアウトが表示されているだけで、数値や等級が記載されているのではありません。表の見方、計算方法を知っておかないと等級にたどり着けません。

 秋葉は数年前の弁護士向け研修会にて、この計算の演習を担当しました。非常にウケが良かったと記憶しています。
 
Ⅱ. アリナミンPテスト

 もう一つの、静脈性嗅覚検査と呼ばれる、嗅覚障害の有無を調べる検査です。ニンニク臭を感じるようになる注射液を静脈に注射し、ニンニク臭は鼻孔に達すると甘い匂いになります。この匂いを感じ始めてから消えるまでの時間を測定するもので、注射液が静脈から肺に流れ、それが呼気に排出され、後鼻孔から嗅裂に達して臭いを感じるまでの時間を潜伏時間、臭いの感覚が起きてから消えるまでの時間を持続時間として、その間隔を開始〇秒、消失〇秒として測定します。

 アリナミンPテスト、プルスチルアミンとはニンニクとビタミンB1の化合によりできるもので、市販されているビタミン剤には含まれています。元気になる、元気が持続する薬です。他に、アリナミンFテストがあります。フルスルチアミンというビタミンB1誘導体で、多くのアリナミン剤の主成分です。このフルスルチアミンを使った検査は、ゴマカシ?が可能なのか、自賠責・調査事務所は排除しています。

 ポイントは、アリナミンPテストは、嗅覚がまったくダメになったか、嗅覚を感じるまでの反応が鈍くなったことを解明するにとどまることです。つまり、12級か非該当のどちらかの評価しかできないのです。その点、T&Tオルファクトメータは、臭いの種別と程度を数値化できますので、12級、14級、非該当の評価が可能です。結論として、嗅覚検査でT&Tオルファクトメータ検査を実施すれば、アリナミンテストは補強的な証拠に格下げでしょうか。
 
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