前回のベントン視覚記銘検査につづき、もう一つ解説します。  

レイ複雑図形再生課題 (ROCFT)

  レイ複雑図形検査 Rey-Osterrieth Complex Figure Test (ROCFT) と呼ばれる視覚性記憶検査です。 図形を見ながら描く模写、その直後に図形を見ないで思い出して書く直後再生、30分後に再び図形を見ないで記憶を頼りに再生する遅延再生の3つの検査を行います。記載の有無や歪み、適切な配置ができたかどうか18項目に分けて0.5点~2.0点まで5段階で採点します。 視覚性記憶のみではなく、視覚性認知、視空間構成、遂行能力なども評価できます。 

   いよいよ今週末、都内で研修会です。来月の2日を加え、4日間の集中研修です。私は今月の2日目、「高次脳機能障害の集中講座」を担当します。現在6件の被害者をフォローしていますので、その最新情報を織り交ぜ、実践的な内容にしたいと思います。今週は資料、レジュメに忙殺されています。

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言語に関する障害は平成23年4月の新基準において言及され、「意思疎通能力」の低下として重要視されています。 前回の「言語機能に関する障害」ではSLTAを取り上げました。もう一つ解説します。  

② WAB失語症検査 

 言語機能の総合的な検査(8項目、全38検査)を行います。自発語、復唱、読み、書字について0~10(自発語のみ20)点の得点を計ります。失語症の分類・軽重を明らかにします。  

1、全失語(重度の失語)   2、ブローカ失語(運動性失語、流暢性の喪失)   3、ウェルニッケ失語(感覚性失語、内容の乏しい発言)   4、健忘性失語(言葉のど忘れがひどい)             以上4つの分類、評価をします。

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言語に関する障害は平成23年4月の新基準において言及され、「意思疎通能力」の低下として重要視されています。 前回の「言語機能に関する障害」ではSLTAを取り上げました。もう一つ解説します。  

② WAB失語症検査 

 言語機能の総合的な検査(8項目、全38検査)を行います。自発語、復唱、読み、書字について0~10(自発語のみ20)点の得点を計ります。失語症の分類・軽重を明らかにします。  

1、全失語(重度の失語)   2、ブローカ失語(運動性失語、流暢性の喪失)   3、ウェルニッケ失語(感覚性失語、内容の乏しい発言)   4、健忘性失語(言葉のど忘れがひどい)            以上4つの分類、評価をします。  

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 世界の左半分がない世界?

今朝、神戸の佐井先生から高次脳機能障害の案件について相談がありました。気になる症状に「左目が見えない」がありました。どうやら脳の障害によるもののようです。今回は半空間無視について。    左目が見えない?というより左目に映る映像を認識できない状態です。脳の障害で、頭頂葉や右側頭葉に硬膜下血腫等による圧迫、ダメージを受けた方に多くみられる症状です。もちろん反対に逆の右側が認識できないケースもあります。これは視神経障害による失明とは違います。通常人は眼に映った情報を脳で解析しています。しかし脳の解析システムが故障することよって、映るものが認識できない状況に陥るのです。したがって当人は見えてないことすら自覚しません。

日常の例では、

・ 食卓に並んだいくつかのおかずの皿から右半分しか箸をつけない ・ 廊下を歩く時、片側に寄ってしまい、肩を壁にすりながら歩いてしまう  ・ 家の絵を描かせると片側半分だけしか描かない ・ 片側から話しかけられても反応しない ・ 片側に人が立っていても存在に気づかない

① 行動性無視検査(BIT)

Bitは従来の視空間認知検査法であった「線分抹消課題」や「線分2等分課題」など机上の視覚認知評価6種類からなる「通常検査」と日常生活場面を想定した「行動検査」の2つを行います。  絵や文字の消込や線引きなどいかにも検査的な通常検査に加え、「行動検査」を加えることにより、より詳細に症状を訴えることが可能です。例えば文章の読み書き、時計の認識、物品・硬貨の認識などより生活の困窮点を明らかにできます。

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 平成23年4月の新基準でも触れられていましたテーマです。脳の障害でうまくしゃべれなくなった状態を解説します。 ■ 言語機能に関する検査 

事故以来言葉をスムーズに発っせなくなった、極端にゆっくり話すようになった、こちらの言うことに対する理解が遅く会話が滞りがちになった…これらは一般に失語症となりますが、高次脳機能障害の場合、以下の2種が代表的です。

1、運動性失語  左前頭のブローカ領域の損傷。話し言葉の流暢性が失われます。どもりやすい、言いたい事が思うようにでてこないなど、家族は事故後の変化がはっきりわかるはずです。

2、感覚性失語  左側頭に位置するウェルニッケ領域の損傷。流暢性は保つものの言い間違いが多く、発言量の割に内容も乏しくなります。意味不明な言葉、とんちんかんな事ばかり言っている状態もあてはまります。  くも膜下出血で倒れた人が左脳の出血と損傷によって、言葉に障害が残ってしまったケースと似ています。しかし高次脳機能障害は程度の軽重に差があるため、軽い失語症は事故のショックのせい?と周囲も安易にみてしまいます。もっとも右側頭葉のみにダメージを受けた患者さんは、「会話・発言・読み書き」に関して以前と変わらないことも多いようです。

 失語症に絞った専門的な検査がありますので挙げます。 ① 標準失語症検査 (SLTA)

 失語症の有無、重症度、タイプの鑑別を行います。短文やまんがなど26項目についてそれぞれ読ませ、後に説明させます。正答から誤答まで6段階で採点します。リハビリ計画の策定の為に行われることが多く、リハビリ施設では失語症の定番検査です。 続きを読む »

さすがにWaisⅢ(知能検査)、Wms(記憶検査)は掲載できません。表題にあるように検査用紙1枚でできる検査を紹介していきます。詳細を解説するより、検査項目を見た方が理解が早いと思うからです。

立証側の私が主張したいのは

× 「闇雲にマニュアルに沿って検査を実施」

〇 「患者の症状を観察し、必要な検査を想定、症状と検査結果を結び付ける」

これを提唱したいからです。

 2年前、高次脳機能障害の立証を手掛ける、ある弁護士と行政書士に教えを乞いたのですが、両者とも機械的に「検査はこれとこれをやる、以上。」でした。その検査の狙いや内容を質問をしたのですが、交通事故110番のマニュアルに記載されている検査表のコピーを見せてくれただけで、どうもよくわかっていないようです。これでは検査する医師、言語聴覚士と検査目的について共通認識が図れず、運任せ、他力本願の立証作業になってしまいます。  障害に苦しむ被害者本人とご家族のために、血の通ったお手伝いをしたいものです。  

三宅式記銘検査

 ある単語と単語のペアを聞かせ、それを覚えているかをみます。聴覚に特化した記憶検査です。ワーキングメモリー(一時的に言葉や番号を暗記する脳の働き)の状態が明らかになります。  その単語のペアは関連する組みあわせ(有関連追語)とまったく無関連な組み合わせ(無関連対語)、それぞれ10組行います。

<有関連対語> ・・つまり連想ゲームです

 まず「煙草」→「マッチ」といったの関係するペアの単語を聞かせます。その後「煙草」と言ったら「マッチ」と答えられるか3回テストします。他に「家」→「庭」、「汽車」→「電車」 など10組で10点満点です。  障害のない人は3回目まででほぼ正答となります。平均値は 1回目8.5点 – 2回目9.8点 – 3回目10点

<無関連対語> ・・暗記力が問われます

 「入浴」→「財産」、「水泳」→「銀行」、「ガラス」→「神社」・・・関係のない言葉の組み合わせに健常者でも苦戦しそうです。  平均値は 1回目4.5点 - 2回目7.6点 - 3回目8.5点

 障害者は無関連追語で特に点数が悪くなります。1回目から3回目まで点数が上がらない、つまり短期記憶(ワーキングメモリー含む)、学習能力の低下を表します。   

<有関係対語試験>

1回目

2回目

3回目

時間

答え

時間

答え

時間

答え

煙草 – マッチ

空 – ...

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 高次脳機能障害のチェックとしてお馴染み、ミニメンタルステーツ(MMSE)を取り上げます。

 長谷川式と同じく受傷初期に行う、見当識、記銘の簡易検査の位置づけです。これも健常者であれば30点満点となります。脳外科医や言語聴覚士から「長谷川式よりMMSEの方が使いやすい」と聞きます。  

<被害者の家族からよく聞く質問>

.長谷川式もMMSEも30点満点なのですが、提出すべきでしょうか?

A.9級の認定者でも共に満点のケ-スがあります。認知障害、記憶障害が軽度の場合、満点かそれに近い点数になります。それでも等級が認められたのはその他の障害、失語、遂行能力、社会適合性での障害が顕著だったからです。 ちなみに5級より重い被害者は30点満点とはならないはずです。  

.これから検査をします。WAISⅢ(知能検査)、WMS(記憶検査)が予定されていますが、長谷川式やMMSEが予定に入っていません。「その2つの検査は必ずやって下さい」と相談した行政書士から聞きました。必要でしょうか?

A.WAISやWMSの検査をするのであれば、今更、長谷川式やMMSEを行う必要はありません。同様の検査項目があり、総合検査であるWAIS、WMSを実施すれば十分な検査結果が得られるからです。   長谷川式、MMSEは受傷初期において実施済みのケースをよく見ます。しかしあくまで診断上必要な検査に留まりますので、認知、記銘、記憶の評価データとしては不十分です。障害等級の審査にはWAIS、WMS他の検査が必要となります。  「交通事故後遺障害獲得マニュアル」(交通事故110番)を棒読みしている法律関係者に質問のような誤解が見受けられるようです。  

            ミニメンタルステーツテスト(MMSE)

設問 質問内容 回答 続きを読む »

 数ある神経心理学検査ですが、知能検査のWaisや記憶検査のWms-R、リバーミード行動記憶検査はそれだけで一冊の解説本が必要です。しかし簡単な質問シートで実施される検査もいくつかあります。

 現在、高次脳機能障害マニュアルの鋭意執筆中ですが、その作業の傍ら、いくつか紹介していこうと思います。

 まずは見当識のチェックとして、受傷初期に実施される検査、長谷川式簡易痴呆スケールを。

 この質問シートにそって質問→回答を行います。健常者なら当然30点満点です。およそ15分で終わります。

 改定 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

氏 名           年 令    (男・女)      年  月  日生

 

質 問 内 容

配点

お年はいくつですか?(2年までの誤差は正解)

0 1

今日は何年の何日ですか?何曜日ですか? (年、月、日、曜日が正解でそれぞれ1点ずつ)

0 1 0 1 0 1 0 1

私たちがいまいる所はどこですか? (自発的にできれば2点、5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?のなかから正しい選択をすれば1点)

0 1 2

これから言う3つの言葉を言ってみて下さい。あとでまた聞きますのでよく覚えておいて下さい。 (以下の系列のいずれか1つで、採用した系列に○印をつけておく) 1:a)桜 b)猫 c)電車   2:a)梅 b)犬 c)自動車

0 1 0 1 0 1

100から7を順番に引いて下さい。 (100-7は?、それからまた7をひくと?と質問する。最初の答えが不正解の場合、打ち切る。それぞれ1点。)

0 1 0 1

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 年をまたぎました本シリーズも最終回です。じっくり分析を進めてきましたが、今改定が現状の認定状況に大きな影響を与えることはないと思います。それでも前進した部分もあり、認定基準の細部に血が通ったきた印象を受けます。それはいくつか明確な判定基準や調査姿勢を打ち出してきたこと、そして最後に取り上げる、「障害の周知についての努力義務」でしょうか。報告書原文を抜粋します。

【関係各方面への周知】

(1)被害者(一般)への周知

 現在損保料率機構が作成している被害者(一般)向けのリーフレットは、保険請求にあたっての諸手続き、高次脳機能障害審査会制度などを記載しており、周知に当たっての一定の効果があると考えられる。被害者(一般)向けのリーフレットについては、今後も各保険会社の受付窓口や損保料率機構自賠責損害調査事務所に備え付けるだけでなく、口弁連交通事故相談センターなどの各種請求相談窓口にも漏れなく備え付けることが必要である。  また、口弁連交通事故相談センターが行っている高次脳機能障害相談の窓口に対しても積極的に協力するなどして周知への努力を続けるべきである。  さらに、当委員会の検討において、軽症頭部外傷を原因とする高次脳機能障害の被害者が審査の対象から漏れている可能性についての指摘もあったことから、その点についても一層の注意喚起を行っていくことが適当である。

(2)医療機関への周知

 脳外傷による高次脳機能障害を評価するうえでぱ、診療医作成の経過診断書および後遺障害診断書の記載内容が極めて重要である。特に、初診時の被害者の状態(意識障害の有無・程度・持続期間等)、各種検査結果、被害者の現在の症状などについて、診療医から提供される医療情報が不可欠である。今後、関係各方面の協力を得ながら、現在損保料率機構が作成している後遺障害診断書の記載方法などをわかりやすく解説した医療機関向けの解説書を改訂・配布することが必要である。

(3)医師への啓発

 脳外傷による高次脳機能障害は、社会的な認知が高まりつつあるが、依然「見すごされやすい」障害である。仮に診療医がこれを見落とした場合は、医証を中心に検討を行う現行の保険実務では、被害者救済に一定の限界があるといわざるを得ない。  このような場合も含めて、診療医が高次脳機能障害の診断と評価を適切に行なうことが、被害者救済を充実させることにつながる。とりわけ、軽症頭部外傷を原因とする高次脳機能障害を的確に認定していくためには、医師が初診時の患者の状態を正確に記録することが極めて重要であり、診療録の記載の充実を求める必要がある。  そのため、後遺障害診断書を記載する現場の診療医に向けた啓発活動を継続(軽症頭部外傷による高次脳機能障害発症の可能性についての注意喚起および意識障害に関する必須情報の記載を含む。)することが必要である。この目的で、医療機関向けの解説書等の整備を図るとともに、各種学会・講習会等の場で高次脳機能障害の後遺障害等級認定に関する情報提供を行うなど、広く啓発活動を行っていくことが望まれる。

【おわりに】一今後の取組みと継続的な見直しー

 当委員会では、自賠責保険として脳外傷による高次脳機能障害について、画像機器の技術革新などによる診断技術の現状の確認を行うとともに、現状の認定システムを再点検することで、より一層的確な認定が行えるよう論議し種々の提言を行った。今後、今回の提言を活かした実効性ある取組みが必要と考える。  なお、今回の提言を踏まえた取組みが行われることにより、当面の問題は整理できるものと考えられるが、損保料率機構は今後とも定期的に検証作業を行い、必要に応じて適宜認定システムを見直し、被害者保護を一層充実させなければならないと考える。 以上    <解説>

 要約すると、以下4つの課題です。

1、保険会社の努力を期待 2、医療機関への情報提供 3、医師への呼びかけ 4、継続的な見直し

 1の保険会社への期待は望めないように思います。高次脳機能障害の認定はつまり、営利企業である保険会社の利益に反するからです。(でも担当者個人の正義感にはいつも期待しています。)  2、3の医療機関と医師ですが、病院経営者の姿勢や医師の人柄に負うところが大きいと思います。毎度、立証側の我々は身に染みています。

 障害の立証=「人に頼らず、自らの学習・努力が欠かせない」という基本は変わりません。

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MTBIについて力説してしまいました。あと、2つのテーマを取り上げます。  障害の把握について細かな配慮を指摘しています。  

【小児、高齢者の留意点】

 一般に成人では、急速な急性期の症状回復が進んだあとは、目立った回復が見られなくなることが多い。したがって、受傷後1年以上を経てから症状固定の後遺障害診断書が作成されることが妥当である。 しかし、小児の場合は、暦年齢によって、受傷後1年を経過した時期でも、後遺障害等級の判定が困難なことがある。後遺障害等級が1~2級の重度障害であれば、判定は比較 的容易であるが、3級より軽度である場合、幼稚園、学校での生活への適応困難の程度を的確に判断するには、適切な時期まで経過観察が必要になる場合が多い。  小児が成長したときにどの程度の適応困難を示すかについては、脳損傷の重症度だけでなく、脳の成長と精神機能の発達とによる影響が大きい。ところが小児事例で受傷から1年以内であっても後遺障害の審査請求が提出される事案が散見される。これは事故に伴って起きたさまざまな事柄に早期の決着をつけたいと希望する親の意向も反映されることが一因と考える。障害を負った小児は、こうした判断を自力で行うことができない。したがって親の判断に基づいて障害認定が進められることになるが、障害を負った小児が正当な社会的補償を得るために、医学的に充分な考察に基づく障害固定時期の判断について、より広く理解されるべきである。すなわち、学校などにおける集団生活への適応困難の有無を知ってからであれば、成人後の自立した社会生活や就労能力をより正確に判断できる可能性がある。  したがって、適切な経過観察期間、例えば、乳児の場合は幼稚園などで集団生活を開始する時期まで、幼児では就学期まで、後遺障害等級認定を待つ考え方も尊重されるべきである。 また、高齢者の場合は、障害認定後しばらく時間が経過してから認知能力や身体能力のさらなる低下に対して、再審査請求がなされる場合がある。このような場合、当該脳外傷以外に疾病などの原因がないか、加齢による認知障害の進行が原因でないかなどを、慎重に検討することが必要になる。

<解説>  簡単に言いますと、「乳幼児が脳損傷を受けた場合、ある程度成長しないと障害の具合がわからない」ということです。  今年も赤ちゃんが頭部にケガをし、障害の可能性のある案件の相談が一件ありまあした。仕事としての受任にはならなかったのですが、数年にわたる家族の観察と専門医の見守りが必要なケースです。  まず、家族とくに母親が子の成長日記をつけて、つぶさに成長と障害の有無、程度を記録していく必要があります。その間、適時専門医による神経心理学検査を続け、知能、認知、記憶などを成長に沿って把握します。最後に就学時を迎えた後、社会性、適合性など性格に関わる観察を加えます。このように就学期までの観察・検査を総合評価しなければ、正確な障害の判断ができません。  神経心理学検査では、一般成人と区別した知能検査があります。   ① WPPSI(ウィプシイ)、WISC-Ⅲ(ウィスク) 

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 そしてMTBI裁判の決着は? MTBI編は最終回です。

③ 東京 高裁は、事故直後に強い意識障害がなくても脳外傷は生じうるとした。

 この点について加害者側は、”事故後にきちんと事故状況の説明をしているし、ましてや自分で車を運転して帰っているのだから、意識障害はないだろう”と主張したが、高裁は”だからといって脳外傷が生じていないとはいえない”と判断している。

 しかしながら、脳外傷の有無に関する東京高裁判決の論理展開は、「提出された診断・検査結果の内容と被害者側医師意見書を考えると器質性の脳幹損傷が起こった」というのみであり、他方、加害者側から出てきた意見書については単純に「採用できない」と否定するだけであって、脳外傷の判断における医学的意見の採否の理由は十分に説明されておらず、また、被害者に発生した神経症状や所見(被害者側が主張するもの)についても、どう評価すべきかの検討が十分ではないと思われえる。

(解説)  本判旨では証拠不十分(画像所見なし)でも実際の症状、治療経過、医師の診断によって脳損傷が推定できるとし、「事故直後、症状がなかった」から脳障害はないと主張する被告の反論を採用しなかった、に留めてています。したがってなんらMTBIの障害性に断定的な結論を出していません。

 原告は上告すると聞いています。最高裁で決着がつくのか?再逆転判決(やはり障害はない)となるのか?・・・注目が続きます。

以前MTBIの相談者が事務所にいらっしゃいました。その方はなんでも赤信号なのにぼーっとしてたため、道路を横断し始め、一歩踏みだしたところ、かするように通り過ぎる自動車と太ももが接触、よろけて転倒しました。そして直後、接触に気づかない自動車を怒鳴りながら走って追いかけて停車させたそうです。そして数日後、めまい、頭痛、内臓疾患、その他あらゆる不調、が起こり、MTBI患者であると…。こんな軽い衝撃で、なおかつこの元気でそのような重篤な障害となるのか?周囲からそう見られて困っているようです。

 実はMTBIを訴える患者はこのように軽いとケガと思われるケースが多数なのです。血を流して倒れていた、意識不明となった、であれば脳損傷の可能性が推察されます。しかし軽い捻挫、軽い追突によるむち打ちで脳障害を訴える場合、当然外傷性について疑いが生じます。画像上、脳損傷の所見がないのに治療が長期化する・・・その患者の中には既往症が原因である者、詐病者、心身症患者が含まれると指摘されています。

 MTBIは「言ったもん勝ち」、「心身症患者が自身をMTBIと思い込む」・・・このような懸念を常にはらんだ症状名なのです。

  (結論)

1、脳外傷の画像所見がなくても脳損傷はありうるのか?

2、意識障害がなくても脳損傷はありうるのか?

 これら2つの追求はいまだ解決されたわけではありません。画像所見・意識障害がなければ脳損傷はない、これが原則です。今回の高裁判決も極めて限定的な、被害者救済的な、判断をしたのだと思います。今後類似裁判が続くとしても認められるケースが頻発するとは思えないのです。

 やはり脳神経外科の新しい医学的検証、新しい臨床診断、新しい画像検査法、これらがなければ話は進みません。医学的な論拠がなければ弁護士も苦しい戦いが続きます。また、仮に整形外科医や歯科医など専門外の医師がこれらの研究を発表しても、労災や自賠責保険の認定基準を揺るがす力はありません。

 私たち立証側行政書士は常に言い続けています。

 「医証がすべて」。この言葉に帰結します。

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シリーズ再開します。

 新システムの検討委員会においても念入りにMTBIを定義し、結論しています。しかし昨年9月のMTBI裁判について触れないわけにはいかなかったのでしょう。以下抜粋、解説を加えます。  

【D委員、E委員による意見発表】

 明確な意識障害や画像所見のない場合に後遺障害9級(ただし30%の素因減額を適用)を認定した裁判例(東京高裁平成22年9月9日判決。平成22年(ネ)第1818号事件、同第2408号事件)にづいて、報告がなされた。

① 本件 事案について、一審の東京地裁は事故で脳外傷が生じたことを否定して後遺障害14級を認定したが、東京高裁はこれを認め後遺障害9級を認定したうえで、損害賠償額の算定において「心的要因の寄与」を理由として30%の素因減額を行っている。

(解説)  つまり、画像上明らかではないが、なんらかの脳外傷があったのだろう、と推論をもって障害の存在を認めています。しかしこの認め方も灰色で、心因性の影響も捨てきれず、損害額の70%だけを認めました。  これを「MTBIの障害認定に風穴が空いた!」と歓喜するか、「原因不明ではあるが現状の障害の重篤度を考慮した結果であって、MTBI自体の障害認定はしていない」と受け止めるかは各々の判断です。

  ② 東京 高裁は因果関係の判断にあたり、最高裁昭和50年10月24日判決(ルンバール事件判決)を引用している。同最高裁判決は、因果関係を判断するうえで”自然科学的な証明まで求めなくて良い”ことを述べたものである。東京高裁が因果関係の判断に関する最高裁判決を引用した上で判断した点と、損害額の算定において「心的要因の寄与」を理由とする素因減額(最高裁昭和63年4月21日判決参照)を行っている点とを考え合わせれば、東京高裁は、脳に器質的損傷が発生したか否かという点、被害者の訴える症状の全てが脳の器質的損傷によるものか否かという点の双方について、悩みながら判断したという印象を受ける。   (解説)  自然科学的な証明=画像所見と置き換えるなら、これは画期的な判断です。しかし引用した最高裁判例は35年前のルンバール事件で、これは医療過誤、医療事故における医師の治療行為の正当性が争われたものです。ここからの引用は苦し紛れ、強引さを否めないと思います。    「医学的な判断をする=裁判官の苦悩」は毎度のことなのです。

お医者さんがわからないものを判断しなければならないのですから。

 明日につづく  

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続いてMTBIについて、今委員会における専門医の意見を見てみましょう。

【片山医師の意見陳述】

 片山医師は脳神経外科学が専門である。当委員会の検討対象となっている、1回限りの軽症頭部外傷により遷延する重篤な症状あるいは障害が発生することがあるかという点について説明を行った。

課題1:一度だけのMTBIにより、遷延(3か月以上)する重篤(社会生活が困難)な症状あるいは障害が発生することがあるか?

a.受傷直後から数日ないし数週間までは、頭痛やめまいなどの愁訴や、記憶障害および注意障害、不安および抑うつなどの症状が持続することがある。

b.これらの症状は、受傷後しばらく脳の機能的障害および器質的障害の影響を受けるために起きると考えられる。

c.

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 「 MTBIについて掘り下げたい」・・・

MTBIって言葉をご存知でしょうか?これは Mild traumatic brain injury=軽傷頭部外傷 の略語です。

 外傷性のない、もしくは希薄な頭部の受傷により、脳障害を残すものとしておおむね認識されています。高次脳機能障害は「脳の器質的損傷」が前提である以上、高次脳機能障害とは認めれていません。したがって高次脳機能障害が疑われる障害を残しながら脳外傷がない為、MTBIと位置づけられる患者が少なからず存在します。

 当然自賠責や労災の基準に満たないこれらMTBI患者は障害認定されません。昨年9月訴訟で障害を認めた?との判決がでましたが、判旨を読むとそうも言えないようです。高次脳機能障害に携わる者にとって、まさに奥歯に刺さったとげです。

 今回の委員会でもMTBIの定義と扱いについて相当のボリュームを割いています。この新システム検討の過程をなぞりながらMTBIについて正面切って意見展開したいと思います。    まずはWHOにおけるMTBIの定義についておさらいしましょう。  

【WHOにおけるMTBIの診断基準】  (WHO 共同特別専門委員会のMTBIの診断基準)                   

MTBIは、物理的外力による力学的エネルギーが頭部に作用した結果起こる急性脳外傷である。

  臨床診断のための運用上の基準は以下を含む:

(i)以下の一つか、それ以上:混乱や失見当識、30分あるいはそれ以下の意識喪失、24時間以下の外傷後健忘期間、そして、あるいは一過性の神経学的異常、たとえば局所神経徴候、けいれん、手術を要しない頭蓋内病変

(ii)外傷後30分の時点あるいはそれ以上経過している場合は急患室到着の時点で、グラスゴー昏睡尺度得点は13-15上記のMTBI所見は、薬物・酒・内服薬、他の外傷とか他の外傷治療(たとえば全身の系統的外傷、顔面外傷、挿管など)、他の問題(たとえば心理的外傷、言語の障壁、併存する医学的問題)あるいは穿通性脳外傷などによって起きたものであってはならない。  

(解説)  この定義が出発点です。WHOではこの臨床診断において高次脳機能障害とは区別しています。  いわゆる脳震盪 < MTBI < 高次脳機能障害 のような位置づけでしょうか。  ではこの定義、区別をもってして完全に臨床判断できるのか?委員会では慎重に意見を重ねています。

 明日に続きます。 

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委員会における確認事項から。 「脳機能の客観的把握」・・・つまり神経心理学検査について。

 高次脳機能障害の提出書類の中で、

日常生活報告書・・・・ご家族の観察を報告します。つまり患者側の申告と評価です。

神経心理学検査・・・・医師による客観的な判断のもとになる数値。

 この位置づけを理解して下さい。患者側の訴える日常生活での変化、困窮点が客観的な検査と一致してはじめてその障害が顕在化されたといえます。

 私が把握しいている検査を一覧表にしました。今委員会のレポートで触れられた検査名を赤字にしています。

検査名

結果

①スケール(HDS-R)

  長谷川式簡易知能評価       

各30点

HDS-R 20以下  

MMSE 23以下 

それぞれ認知症の疑い

② ミニ・メンタルステーツ

(MMSE)

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<井田医師の意見陳述>を続けます。

④ 拡散テンソル画像は脳内の神経線維に沿った水分子の拡散の動きを見ることによって神経線維の状態を推定しようとするものであり、病変の位置が特定できている場合には脳機能と病変の関係を見ることについて有益である。ただし、形態学的に異常がない微細な脳損傷の有無を拡散テンソルだけで判断することはできない。

      

(解説) ビジュアル的に裁判受けします。それがためにテンソール検査を求めて病院回りしたこともあります。しかし本意見でも断定されている通り、以前からも調査事務所では重視していない画像です。

⑦ fMRIは指を動かすなどの課題に対して脳の中枢が賦活化されて、相対的にデオキシヘモグロビン量が変動することにより、賦活化された脳をMRIで画像化するというものである。脳機能を科学的に見るという面では良い方法であるが、現時点では微細な脳機能の低下に対してはまだ使える段階にはない。

⑧ ...

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 前回、「高次脳機能障害認定システム」の改正前後を比べました。先に結論をもってきた形です。この「高次脳機能障害認定システムの充実」は現行システムの問題点について、専門家の委員会による合計9回の論議がもとになっています。そこから改正の骨子となった、医師の意見を具体的に取り上げていきます。    それでは前回の予告通り、「画像」について。最も重要な立証資料であることはかわりませんが、ではどの画像検査が必須なのか?臨床の医師も損害立証による画像はどれを要求しているか知りあぐねています。また立証する立場において、全国の弁護士も取りあえず撮ってあるものだけ提出し、あまたの行政書士も交通事故110番のマニュアル本を参考に進めるしか手段がありません。  必要な画像検査とは何か?読み取ってみましょう。

 井田医師の意見に対して解説を加えていきます。  

【井田医師の意見陳述】 

井田医師は画像診断学が専門である。当委員会の検討対象となっている、軽症頭部外傷後の後遺障害が器質性のものであるか否かについて、最新の画像診断技術によりどこまで判断が可能なのかについて、実際の画像を参考に説明を行った。   ① 現在の画像診断の主役はCT、MRIであるが、画像診断において重要なことは、適切な時期にきちんとした検査が行われるということである。    (解説)  どんな脳神経外科でも受傷直後にCTもしくはMRIで脳損傷を観察するはずです。そこで医師に「脳は異常ありません」と言われると家族は一安心です。しかしその後も意識障害や記憶障害が続くようなら、続けてこれらの検査を依頼すべきです。  高次脳機能障害をよく知らない医師に出くわしたばかりにそのまま画像所見なしとなってしまったケースを経験しています。  この時期の画像所見が症状固定、後遺障害認定までこの先ずっと付きまといます。

  硬膜下血腫、受傷1週間後。血腫に押された脳の様子がわかります。  

② 今後、微細な外傷の診断にあたっては、MRIの撮像法である拡散強調画像(diffusion-weighted imaging : DWI)および磁化率強調画像(Susceptibility- weighted imaging : SWI)が有用となると考えられる。   ③ DWIを用いることにより、続きを読む »

 本改定について、まず高次脳機能障害の入り口=認定基準から入ります。もっとも注目すべきところだからです。

旧基準をおさらいします。  ・・・青字に注目

【高次脳機能障害が問題となる事案】 (旧基準)   ① 診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘症あるいは軽度意識障害(JCS2桁~1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いた症例   ② 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例   ③ 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する具体的な症状     (注)あるいは失調性歩行、痙性片麻庫など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認め      られる症例、さらには知能検査など各種神経心理学的検査が施行されている症例     (注)具体的症状として、以下のようなものが挙げられる。      記憶・記銘力障害、失見当識、知能低下、判断力低下、注意力低下、性格変化、易怒性、      感情易変、多弁、攻撃性、暴言・暴力、幼稚性、病的嫉妬、被害妄想、意欲低下   ④ 頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3か月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認される症例   ⑤ その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例

<解説>

この既存の5項目は以下、簡便に3要件とまとめています。

① 脳の外傷となる診断名

② 意識不明が6時間継続、もしくは軽度の意識不明、健忘症が1週間継続

③ 画像(CT、MRI)で脳の損傷が認められる

詳しくは「高次脳機能障害の認定で3つの関門」を参照して下さい。

     → 高次脳機能障害の立証 11 ~入口に3つの関門

 この要件にあたらなければ、審査せず門前払いです。特に意識障害と画像について、高次脳機能障害をよく知らない医師が診てしまった故にアウトとなったケースを経験しています。

<この要件ではねられた実例>

① Aさん  受傷時に脳挫傷が明らかではなく、脳震盪とされた。    最初に書かれた診断名が1年~後の後遺障害の申請時までずっと付きまといます。   ② Bさん  受傷時の意識の記録がいい加減。    受傷時意識不明であったのに、そのように書かれていない。健忘状態が数日続いたのに、意識清明になったのは1日と記載されている。   ③ Cさん  受傷時に頭蓋骨の骨折や脳内出血がなく安心されてしまった。    MRIで少なくとも3か月後まで適時検査を続け、丁寧に画像を診ていくべきでした。脳外傷を示す脳室拡大、脳萎縮、点状出血などの病変部が遅れて出現するケースもあります。

  では新システムではどう修正されたのでしょうか? ・・・赤字に注目

【高次脳機能障害審査の対象とする事案】 (改定案)   A.後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められるが高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っている)場合    全件高次脳機能障害に関する調査を実施の上で、自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。   B. 後進障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められない(診療医が高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っていない)場合    以下の①~⑤の条件のいずれかに該当する事案(上記A.に該当する事案は除く)は、高次脳機能障害(または脳の器質的損傷)の診断が行われていないとしても、見落とされいる可能性が高いため、慎重に調査を行う。   具体的には、続きを読む »

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