股関節中心性脱臼(こかんせつちゅうしんせいだっきゅう)
 
(1)病態

 先に説明した股関節後方脱臼骨折は、dashboard injuryを原因とすることが多いのですが、中心性脱臼は、転子部の強打、つまり、側方からの外力が加わることで発症しています。

 交通事故では、自転車・バイクVS自動車の衝突で、自転車・バイクの運転者に多発しています。
 
(2)症状

 鼠径部の激痛、腫れ、歩行困難
 
(3)治療

 関節包が破れることは少ないのですが、臼蓋底骨折により、大腿転子部は陥没します。大腿骨の遠位部を力点とし、10数kgの重りで4週間の直達牽引を行います。

 
 これにより、大腿骨を臼蓋底から引っ張りだし、臼蓋底骨折部が自然に癒合するのを待つのです。長くても、4~6週間でリハビリテーションに移行できます。

 外傷性股関節脱臼には、後方脱臼、中心性脱臼以外にも、前方脱臼があります。前方脱臼では、関節包前面を損傷し、大腿骨頭骨折や大腿骨頭靱帯断裂、大腿動脈損傷、大腿神経損傷を合併することが多く、重症例ですが、滅多に発生することはありません。
 
(4)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 脱臼骨折ですから重症例なのですが、ボールのように丸い大腿骨頭が、お椀状の受け皿である寛骨臼蓋底をピンポイントで突き破ったものです。直達牽引により、臼蓋底骨折部の骨癒合が良好に得られれば、骨頭壊死の可能性も低く、予後は良好で、完治し、後遺障害を残すことはありません。
 
Ⅱ. 骨頭壊死の可能性は低いとしても、近い将来の変形性股関節症や骨化性筋炎は予想されます。3DCT、MRIで骨癒合を立証して、それらに備えなければなりません。
 
Ⅲ. やはり、ダラダラ漫然リハビリを続けると、機能障害や神経症状は否定されることになります。6カ月を迎えれば、症状固定を決断しなければなりません。

 脱臼が整復されて、可動域制限も変形も短縮も残らなかった場合でも、痛みや不具合がきれいすっきり消える・・そのような事は少ないはずです。その場合、おなじみの14級9号「局部に神経症状を残すもの」を、しっかり確保して下さい。
 
 後方脱臼ですが、問題なく整復の例 👉 14級9号:股関節脱臼(20代女性・埼玉県)
 
(5)交通事故110番の経験則

 ご子息よりメール相談がなされました。72歳の父親が、自転車VS自動車の出合い頭衝突で、右股関節臼蓋骨折と診断されました。ところが高齢であり、手術はできないとのことで、現在、入院中であるが、このままでは寝たきりになるのではないかと心配しているとのことです。

 内容に不明なところがあり、入院先が京都で、評価の高い治療先でもあったので、訪問しました。入院中の被害者は、右大腿部の直達牽引を受けていました。主治医に確認したところ、右股関節の中心性脱臼であり、直達牽引で、保存的に臼蓋底骨折部の骨癒合を経過観察しており、あと2週間の牽引で、リハビリを開始するとのことでした。股関節中心性脱臼の一般的な治療が実施されており、これで寝たきりはあり得ません。

 その後、リハビリが続けられましたが、大腿骨転子部はやや陥没しており、すでに、変形性股関節症の初期段階でした。変形性股関節症が進行するのを防止する観点から、杖使用による歩行が許可され、症状固定となりました。等級は、変形性股関節症が認められ、股関節の機能障害として10級11号が認定されました。
 
 次回 ⇒ 外傷性骨化性筋炎