ACL 前十字靱帯損傷(ぜんじゅうじじんたいそんしょう)

(膝の靭帯 英語表記)
 
 前十字靭帯  = ACL (Anterior Cruciate Ligament)
 
 後十字靭帯  = PCL (Posterior Cruciate Ligament)
 
 内側側副靭帯 = MCL (Medial Collateral Ligament) 
 
 外側側副靭帯 = LCL  (Lateral Collateral Ligament)
  
 Anteriorは「前の」、Posteriorは「後ろの」という意味です。

 Cruciateは「十字の」と言う意です。

 Medialは「内側」で、Lateralは「外側」です。

 Collateralは「相並ぶ」という意味。そして、Ligamentは「靭帯」です。
 
(1)病態

 膝は太ももとすねの骨をつなぐ関節で、膝には内側側副靭帯、外側側副靭帯、前十字靭帯、後十字靭帯の4つの靭帯が存在します。

 内・外側側副靭帯は上下の骨が、横方向、左右にズレすのを、前・後十字靭帯は前後にズレるのを防止しています。前十字靭帯は、大腿骨の外側と脛骨の内側を結び、脛骨が前にズレないように引きつけています。その目的から、前十字靭帯は、膝関節の安定性を保つ上では1番重要な靭帯となります。

 膝を伸ばしているとき、この靭帯は、張っている状態です。交通事故では、膝を伸ばして踏ん張っているときに、膝を捻ると前十字靭帯損傷が起きています。
 
(2)症状

 バイクを運転中の事故に多く発生、ほとんどは、断裂で、なにかが切れたような、ブチッという音を感じたと、多くの被害者から聞いています。関節内は大量に出血し、パンパンに腫れ上がります。

※ 逆に、受傷時にブチッや腫れが無い場合、陳旧性の損傷の疑いとなります。事故後のMRIを観て、「靭帯損傷!」、「靭帯(不全・深層)断裂!」との診断でびっくりですが、経年性で靭帯が痛んでいたのかもしれません。
 
(3)診断と治療

 前十字靭帯損傷は、lachman(ラックマン)テスト、前方引き出しテストで診断を行います。靭帯が断裂していれば、当然、膝がぐらつくのですが、そのぐらつきの有無や、特性を、このテストで確認します。医師は症状によって、以下3つの徒手テストを行います。

(徒手検査) 
〇 ラックマンテスト
 膝を30度くらいに曲げた状態で、大腿骨と脛骨を前後に動かすことで、靭帯が機能しているか確認します。ACLが緩んでいるとグラグラします。(下図イラスト)

〇 前方引き出しテスト
 膝を90度くらいに曲げた状態から、脛を前方に引っ張り、靭帯の緊張があるか確認します。ACLが伸びていると、脛が前にでます。個人的に秋葉はラックマンより、靭帯の異常が探り易いと思っています。

〇 ピボットシフトテスト
 膝をひねって伸ばした状態から徐々に曲げていき、不安定さを確かめます。ACLのみではない、複合靭帯損傷の患者さんに対して、専門医は「回旋動揺性」を確認したようです。

 そして、靭帯の他にも半月板や軟骨など他の組織の状況なども確かめるためMRI検査を行います。自賠責保険の認定は、毎度、画像が絶対条件です。

 前十字靭帯断裂のときは、脛骨が異常に前方に引き出されます。lachmanテストで大まかな診断がつきますが、損傷の程度を知るために単純XP撮影、CTスキャン、関節造影、MRIなどが実施され、MRIがとても有効です。動揺関節の立証には、ストレスXP撮影が必要です。

 

 𦙾骨を前方に引き出し、ストレスをかけてXP撮影を行います。断裂があるときは、脛骨が前方に引き出されて写ります。後遺障害診断書には、およその計測値ではありますが、「○mmの前方引き出しを認める」と記載をお願いしなければなりません。

※ 医師によっては、「計測値の起点がはっきりしない」と、「〇mm」と数値を計測・記載するのを忌避します。

 受傷直後は、膝を固定し患部を氷水でアイシングします。アイシングは膝全体に3~4日間続けます。一度断裂した前十字靭帯は自然につながることはありません。軽症例に対しては、大腿四頭筋やハムストリング筋などを強化する、保存的治療が行われます。

 前方引き出しテストで、すねが太腿より前に異常に引き出される状態では、膝崩れを頻発し、やがて半月板損傷を引き起こします。

 したがって、靭帯の再建術が行われています。靭帯の再腱術は、受傷後1カ月程度の安静と可動域訓練の後に半腱様筋腱、薄筋腱、膝蓋腱の中央3分の1を採取して前十字靭帯を繋ぎ再建します。再腱後は8~12カ月のリハビリが必要となります。

 その他では、痛みや腫れが引いた受傷4~6週間後に、関節鏡下において被害者本人の靭帯で靭帯再建術が行われています。


 
 ストレスXP撮影で10㎜以上の動揺性が認められるときは、手術の対象となりますが、極めて高度な技術を必要とします。靱帯再建術となったときは、膝関節外来が設置されており、膝の専門医のいる医大系の総合病院を選択することになります。この分野には術式の選択、技術の差があります。病院・医師選びは慎重さが求められます。実際、セカンドオピニオンから、手術のやり直しとなったケースもありました。
 
 つづく ⇒ 後遺障害