MCL 内側々副靱帯損傷(ないそくそくふくじんたいそんしょう)

(1)病態

 少々乱暴ですが、靭帯とは、膝を締め付けているベルトであると理解して下さい。膝の左右の内・外側々副靭帯と、前後の十字靭帯というベルトで膝を強固に固定しているのです。

 このベルトが伸びきったり、部分断裂したり、全部が断裂すると、当然に、膝はガクビキ状態、膝崩れを発症、これを医学では、動揺関節と呼んでいるのです。

 MCLは浅層、深層、後斜靱帯の3層構造となっており、長さ10cm、幅3cmの範囲で膝関節内側部の大腿骨内上顆から脛骨内側部にかけて走行しています。MCL損傷は、靭帯損傷の中でも最も多発する症例で、交通事故では、膝の外側から大きな衝撃が加えられたときに生じます。

 側副靭帯は、内側と外側にあるのですが、交通事故でも、スキー・サッカー・相撲でも、圧倒的に内側々副靭帯の損傷です。限界を超えて膝が外側に押し出されると、また外側に向けて捻ると、このMCLが断裂するのです。
 
(2)症状

 膝関節内は出血し、ポンポンに腫れ、強烈に痛く、ある被害者は、受傷直後は、アクセルを踏むことすらできなかったと話していました。

 逆に、腫れや歩けない程の激痛がなく、自転車をこいで家に帰った、そのまま運転して会社に行ったなど、事故での損傷を自ら否定することになります。後で画像で損傷が見つかった!としても、陳旧性の損傷が濃厚です。陳旧性とは古傷、あるいは経年性の靭帯の変性です。
 
(3)診断と治療

 診断では、膝の内側靭帯が断裂しているので、膝をまっすぐに伸ばした状態で、脛骨を外側に反らす外反動揺性テストを行うと、膝がぐにゃと横に曲がります。普通、膝関節は横に曲がりません。

 損傷のレベルを知るために、単純XP、CTスキャン、関節造影、MRIなどの検査が実施されます。靭帯損傷の検査、一昔前はエコーでしたが、近年、3.0テスラに高精度化したMRIが有効です。
 

 
 動揺性の立証は、やはり、ストレスXPテストによります。脛骨を外側に押し出し、ストレスをかけた状態でXP撮影を行います。断裂があるときは、脛骨が外側に押し出されて写ります。


 
 2015年初場所、常幸龍は、佐田の海戦でMCLを損傷し、休場しました。それでも、4日間の休場で、14日目から登場、5勝6敗4休の成績でした。サッカー選手でも、2週間以内にピッチに戻ってきます。MCLだけの損傷であれば、痛みやぐらつきも少なく、直ちに手術に至ることはありません。手術をすれば、アスリートにとって、一年を棒に振ることになります。

 保存的に膝の外反を避けつつ、運動療法を開始し、筋力訓練を行います。アスリートでない被害者であれば、靭帯の機能が完全に回復するには、3カ月を要します。単独損傷が多いのですが、ACL、PCL損傷や、内側半月板損傷を合併することもあります。ACL、MCLと内側半月板を合併すると、Unhappy Trias、不幸の3徴候と呼ばれています。単独損傷では、初期に適切な固定を実施すれば安定しますが、ACL損傷を合併しているときは、緩みやすくなります。MCLが緩むことにより、その後に半月板損傷に進行することが多いのです。
 
(4)後遺障害のポイント

 膝部の靱帯損傷では、以下の3つのグレードに分類されています。
 
 Grade I 靭帯繊維に軽度の損傷のあるもの、
 
 Grade II 機能に影響を与える程度に損傷はあるが、一部の繊維に連続性が残っているもの、
 
 Grade III 靭帯の完全断裂により高度の不安定性を有するもの、
  
 Grade I は、支持機構の部分的な損傷であり、いわゆる膝関節の捻挫と呼ばれる程度のものです。いずれの靭帯であっても、GradeⅠ、Ⅱは保存療法により、改善が得られています。
 
 Grade III では、保存療法で改善が得られることはなく、早期の靱帯再建術が必要ですが、専門医以外では、この対応にもたついて後遺障害を残すことが圧倒的に多いのです。

 ストレスXP撮影は、不安定性を定量的に立証する上で、絶対に必要なものです。自賠責保険における動揺関節の等級認定でも、ストレスXPが絶対条件です。これは、放射線科の医師と技師にお願いすることですが、健・患側の差を比較するときは、放射線の照射方向が重要で、正確な正面、あるいは側面のXP画像で比較評価をしなければ、誤った判定となるので、この点、注意が必要です。

 MRIは、靭帯や半月板の診断には欠かすことはできない検査であり、それぞれの靭帯の走行に沿った断面での撮影により、靭帯損傷の評価を正しくすることができます。特に、前十字靭帯損傷では、靭帯陰影の消失だけではなく、その走行が脛骨関節面となす角度に注意する必要があります。
 
 後遺障害の対象は、膝がグラグラとなる動揺関節と、損傷部の痛み≒神経症状です。
 
Ⅰ. MCLの単独損傷で、Grade Iであれば、多くの場合、後遺障害を残すことはありません。わずかな損傷や画像所見は微妙、陳旧性だが事故以来の症状、これらは、受傷機転(どのように膝を痛めたのか)と症状の一貫性から、14級9号の余地を残します。
 
 そのような例 👉 14級9号:内側側副靭帯損傷(30代女性・埼玉県)
  
Ⅱ. Grade IIになると、ストレスXP撮影で軽度の動揺性を立証、損傷そのものはMRIで明らかにすると、12級7号が認定される可能性があります。動揺性はないが、損傷が明らかなものは、理論上、神経症状(痛み等)で12級13号の判定となります。まだ、13号はみたことがありません。
 
 基本通りの立証例 👉 12級7号:内側側副靱帯損傷(30代男性・東京都)
 
Ⅲ. Grade IIIで、保存療法で漫然治療となり、陳旧性となったものは、やや深刻な左右の動揺性が認められます。やはり、ストレスXP撮影とMRIで丹念に立証する必要がありますが、動揺性で10級11号が認定される可能性があります。恐らく装具は、ソラスターブレースのような、関節をがっちり固定する硬性装具が常時欠かせないはずです。

 もっとも、その状態では日常生活に深刻な支障がありますから、靭帯再建術で一定の改善を図るはずです。すると、12級7号に下がるか、医師が神の手なら、14級9号まで下がります(下がることは良いことです)。
 
※ 動揺関節の機能障害と運動痛の神経症状は、併合の対象ではなく、いずれか上位の等級が認定されています。認定上、痛みや不具合は「機能障害の等級に含む」としています。
 

 
◆「事故直後から膝に痛みがあり、当初は膝関節の捻挫と診断されていたのですが、4カ月を経過してMRIの撮影を受けたところ、MCL靱帯に炎症反応があり、MCL靱帯損傷と診断されました。後遺障害は認められるでしょうか?」、このようなご相談が後を絶ちません。
 
 「事故直後、救急車で病院に搬送されましたか?」と、逆に質問しています。「いいえ、自分の車を運転して会社に行きました。」・・・先に述べたように、事故での損傷か疑われます。つまり、後遺障害の認定は困難です。画像上MCL損傷があっても、事故直後は激しい痛みで、普通は歩いたり車を運転することなどできません。これが中高年ですと、なおさら陳旧性の靱帯損傷と判断されるからです。

 同じことは、肩腱板の損傷でも言えます。MRIで所見が発見され、色めき立つのは分かるのですが、後遺障害となると、そんなに簡単なものではありません。事故による新鮮な損傷か、陳旧性か、審査側がじっくり検討するからです。
 
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