(1)病態

 アキレス腱断裂とは、アキレス腱=踵骨腱が断裂することです。アキレス腱は、体の中でもっとも大きな腱で、ヒトが立ち上がる、歩くときに使用しています。

 交通事故では、歩行中、突然、車が突っ込んできて、それを避けようとした際に、ヒラメ筋が急激に収縮すること、車の衝突を受けた際の、直接の外力によって、アキレス腱を断裂することがあります。

 スポーツ・武道では、球技全般に起きますが、何と言っても剣道が多いようです。秋葉の学生時代、3例みています。
 
(2)症状

 アキレス腱の部位の激痛、歩けない、足をつくと、たちまち転倒する、つま先立ちができない、階段の上り下りができない、などです。足関節がぶらぶら状態の完全断裂では、縫合が急がれます。
 
(3)診断と治療

トムセンテスト
断裂直後は、下腿後面のかかとのすぐ上の部分赤○に凹が認められます。

 
 診察台で腹ばいになり、膝を屈曲した状態でふくらはぎをつかむと、通常、足は天井に向かって底屈するのですが、アキレス腱が断裂していると、足は元の位置のままでピクリともしません。超音波やMRI検査であれば、断裂した腱を正しく把握することができます。

 治療は、保存と手術の2つですが、保存療法が中心になりつつあります。従来の保存療法では、8週間のギプス固定を行い、その後にリハビリを始めるとされていました。しかし、これでは、治療期間が長く、筋力低下や腱の癒着が生じ、再断裂の可能性が高まることが指摘され、現在では、2週間の保存療法で、リハビリを開始する早期運動療法が主流となっています。

 アキレス腱断裂では、保存療法で早期リハビリに対応している治療先を受診しなければなりません。アキレス腱断裂からの保存療法を実施している代表的な病院は、杏林大学付属病院です。林 光俊先生は、全日本男子バレーボールのチームのドクターで、アキレス腱保存療法の権威です。

名称 杏林大学医学部附属病院 整形外科
所在地 東京都三鷹市新川6-20-2  医師 スポーツ外来 林 光俊 医師
 
(4)後遺障害のポイント

Ⅰ. これまでは、アキレス腱断裂の95%が手術によるアキレス腱の端々縫合術でした。現在では、保存療法と早期リハビリで、オペと遜色のない治療効果を上げています。それなら、なにも痛い目をしてオペを受けることもありません。

 ただし、保存療法の泣きどころは、早期、受傷から5日以内の固定が必要なことです。足を正しい角度で固定し、アキレス腱の再生を促す治療方法ですが、アキレス腱は、5日を経過すると腱の硬化が始まり、正しい角度で足を固定することが困難で、癒着する可能性が予想されるのです。
 
Ⅱ. 若年者であれば、後遺障害を残すことなく治癒するのが一般的です。高齢者では、アキレス腱部の痛みや足関節に運動制限を残すことが予想されます。ただし、運動制限≒可動域制限はリハビリで回復させることが前提です。すると、痛み・不具合の一貫性から認定されても、14級9号が限界となります。
 
◆ 交通事故110番の経験則

 右アキレス腱断裂の主婦、57歳が、無料相談会に参加されました。4カ月前、犬を連れて自宅近くを散歩中、後方から小学生の自転車に追突され、前方につんのめったそうです。

 「かかとを後ろから蹴っ飛ばされた?」 「倒れる瞬間、耳元でバチッという音が聞こえた?」

 こんな印象ですが、右下腿に激痛が走り、立つことも、歩くこともできなくなり、その場でうずくまってしまい、救急車で整形外科に搬送され、右アキレス腱断裂と診断されたとのことです。

 

 自転車には、個人賠償責任保険が付保されており、対人対応がなされています。相談の主婦は、山歩きが趣味であり、治療先の勧めもあって、縫合術を選択しました。局所麻酔下で、皮膚を5cmほど切開し、直視下にアキレス腱を縫合するものです。

 術後は、2週間のギプス固定、抜糸後は、硬性短下肢装具を使用して歩行が可能となりました。術後2カ月半頃からリハビリが続けられています。4カ月時点の症状は、断裂部の痛みと、足関節の運動制限ですが、他動値で、背屈15°底屈が35°ですから、ギリギリ4分の3以下です。あと2カ月のリハビリで、4分の3以上に改善すると予想しています。したがって、堅実に14級9号の認定を抑えることになります。

 4分の3以下のままなら12級7号になるか? ・・簡単ではありません。アキレス腱断裂以外の損傷が重なれば可能性ありとみています。
 
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