高次脳機能障害の立証における困難の一つに、”客観的データで判定できない症状”があります。とくに、若年層の高学歴者で学校成績が事故前後に差がなく、WaisのIQも高く、他の神経心理学検査の数値も標準以上のケースです。これら学力や検査数値に反映しない微妙な症状は、私達の立証作業上、困ります。また、数値に表れない障害の代表に、情動障害や性格変化、易疲労性が挙げられます。

 一方、本人の努力で障害のハンデを埋めている、ど根性被害者も経験しています。情動障害を抑えるために、精神が高ぶりそうになった場合は、その場を離れて深呼吸するよう指導を受け、それを守っている被害者さんがおりました。また、本例に同じく、記憶力の低下に対処するために以前の3倍の時間をかけて勉強、大学を好成績で卒業した被害者さんも忘れられません。いずれも、その障害が誰から見てもわかるような、明らかなものではありませんでした。いつも以上に、家族の観察を精密に聞き取り、集積する必要があります。まず、症状の訴えが第一歩であることには変わりありません。山本が徹底的に密着、認定まで漕ぎ着けました。

 
 きっと、私よりこの依頼者さま(7級)の方がIQ高いぞ(泣)
 

7級4号:高次脳機能障害(20代女性・神奈川県)

【事案】

自転車信号のない横断歩道を走行中、右方から自動車が衝突、受傷した。救急搬送され、開頭術を実施、一命をとりとめた。診断名は急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、脳挫傷。

【問題点】

依頼者は受傷当時学生で、復学後留学し、優秀な成績で卒業も果たしてした。そして、事故から3年近くが経過していた。外見上、まったく問題ないようにみえることから、受任した弁護士も障害の残存に懐疑的、秋葉への相談となった。

改めて、ご家族同席で綿密に聞き取ると、ご家族からは日々の日常でおかしいところがあるとのこと。これより、高次脳機能障害の追求が始まった。
元々のIQも高い?

【立証】ポイント

主治医はわずかに高次脳機能障害を認めていたが、もともと、基礎学力が高く、偏差値も非常に高かった。「作動記憶」が全体に比して若干低い程度で、神経心理学検査の点数も軒並み高かった。神経心理学検査のみでは高次脳機能障害の立証は限界と判断し、ご家族(母親や兄弟)から本人の日常生活上の問題点を聴取、綿密な打合せを何度も繰り返した。

その結果、勉強はかなりできるが集中力が従前より低下したため、勉強時間と量がかなり増えてしまったこと、また、得意だった家事全般が苦手になったこと、事故前と後で性格変化からか、いい加減になったこと、そのせいで友人から指摘が絶えないこと等を把握した。これらの内容を、特に、神経心理学検査で判別が難しい、性格の変化等を詳細に日常生活状況報告書にまとめて被害者請求をした。

その努力は実り、訴える症状について自賠責が最大限に評価、客観的なデータが乏しいながらも7級4号が認定された。