交通事故の解決には、弁護士の賠償交渉に留まらず、色々な作業があることを示しました。また、すべての弁護士が宣伝文句通りに助けてくれない現実も説明しました。
 
 それでは、弁護士がやってくれないのなら、誰がやってくれるのでしょう?
 
 最近、めっきり少なくなった交通事故・行政書士、一時の流行は過ぎ去った感があります。10年前は交通事故を積極的に受任する弁護士は少なく、保険会社の顧問・協力弁護士が細々と保険会社から紹介を受けている程度、まして、ネット広告を出す弁護士は(広告規制の為ですが)皆無でした。もちろん、交通事故被害者からの相談・依頼はありますが、交通事故はあくまで死亡や重度障害のレベルでの受任であって、むち打ちなどの軽傷は謝絶が普通でした。

 このような環境下、隙間産業的に勃興したのが交通事故・行政書士でした。ビジネスとしての狙いは良いのですが、避けられないのは”業際問題”です。行政書士は代理権もなく、弁護士に比べてできる事が制限されています。それを示す表があります。

弁護士 行政書士

 書類作成

△(保険会社に対する請求書を作成。なお裁判所に提出する書類の作成は不可)

 示談交渉

×

 調停

×

 訴訟

×

 
 この表は、交通事故・弁護士向けに販売されているHPのコンテンツです(HPの内容を自作せず、雛形を買っている先生のHPに同じように掲載されていますのでよく目に付きます)。それはさておき、まったくもって記載の通り、弁護士と行政書士を比べては話になりません。そもそも資格・専権業務が違うのですから当たり前です。ただし、私達の整理した表は、もっと細かく交通事故の作業を整理しています。それが、下の図です。
 

3、行政書士ができる業務の範囲


 このとおり、交通事故業務はもっと広範に渡り、先の表は、上図の4 賠償交渉 の部分だけ、弁護士・行政書士の双方を比較しているに過ぎません。弁護士側からの発想ですから、賠償交渉にのみ着眼するのはやむを得ないとして、昨日の2 治療 ~3 症状固定・等級認定の作業をやらない弁護士先生などは、交通事故案件は4 賠償交渉で十分と考えているのでしょう。

 行政書士でも上図の赤部分での活躍は期待できます。(自賠責保険の請求代理については、「資格上できない」という判例あり)

 表のとおり、弁護士先生の及ばないところに被害者救済業が存在するのです。では、これを行政書士が担うべきなのか? 実はここでも論点が生じます。図の2 治療 ~3 症状固定・等級認定の業務で、行政書士の代書権が発揮される場面は、各種申請書や保険請求書の代書だけです。実は、被害者を助けるもっとも大きな作業は、”保険手続き”と”医療調査”です。自動車保険(任意保険、自賠責保険、政府の保障事業)の高度な知識、公的保険(健保、労災、身体障害者手帳、精神障害者手帳、介護認定、障害年金、NASVA)の実務・・これらの横断的知識と、実務に長けた行政書士など存在するのでしょうか? 被害者さんは少なからず、ここに助けを求めているのです。

 さらに、自賠責保険が規定する1~14級まで140種の後遺障害・35系列の傷病名とその立証方法を熟知し、地域の専門医・検査先等、医療情報を把握、そこに被害者さんを誘致でき、後遺症を正確に後遺障害認定に結びつける・・一連の後遺障害の立証作業は、それ程簡単ではありません。これらのサポートこそ、交通事故解決の要諦なのです。被害者さんにとって事故直後の時点では潜在的かもしれませんが、いずれこの窮地に行き着きます。

 ところが、この作業には、基本的に「保険」・「医療」の二大知識と、各種手続きにおける豊富な経験、そして、医療ネットワーク形成が必要です。実は行政書士の試験や実務にもまったく関係のない分野なのです。したがって、単に行政書士であるだけで「交通事故の専門家」を名乗る事自体、噴飯ものですし、そもそも、調査業務は行政書士の資格など端から必要ないのです。

 能力も知識も経験もないのですから、頭の黒い行政書士は非弁行為、つまり、4  賠償交渉に手を染め、安易にお金を得る方に流れます。結果として、交通事故・行政書士は弁護士から徹底的に嫌悪されました。この非弁書士達は、本来、士業同士で協力して被害者救済にあたるべきを、なんと対立関係にしてしまったのです。「書類を作成しただけですよ」・・いくら詭弁を弄してもこれは「賠償交渉」、違法行為です。何より、資格上万全である弁護士が担う方が依頼者の利益に叶います。


 これだけ多くの弁護士が交通事故に参入、かつて見向きもしなかったむち打ちですら受任する世の中です。もう、行政書士の隙間は狭くなるばかり、わずかに生存している書士は、図の3部分である後遺障害・自賠責保険の手続きに活路を見出すしかありません。中には弁護士事務所を上回る知見・経験則をもっている書士も存在しますが、それは、全国に数人程度と思います。
 
 いずれにしても、交通事故・行政書士は、一瞬の幻影になってしまいました。
 
  まぼろし~ 
 
 あぁ、誰も頼れない・・・被害者さんの窮状は続きます。
 
 つづく