角膜穿孔外傷(かくまくせんこうがいしょう)
 

 
(1)病態

 交通事故では、バイクの運転者が転倒した際に、眼に対する強い打撲や、ガラスやプラスティック片、金属片などが、目に突き刺さることで発症しています。自動車事故であっても、横転、崖下落下などでは、フロントガラスや眼鏡の破損により、発生するようです。交通事故ではまだ未経験ですが、草刈り作業中の石・鉄片飛来での事故例を聞いています。

 飛来異物、裂傷などにより、眼球に穿孔創=孔が開いた外傷を角膜穿孔外傷といいます。眼球に穿孔を生じると水晶体や硝子体、網膜、脈絡膜などの眼内組織が損傷し、重い合併症を生じることがあります。
 
(2)症状

 受傷直後から、眼の疼痛、角膜損傷、前房・硝子体出血、硝子体混濁、低眼圧などを原因とした急激な視力障害の症状が現れます。
 
(3)治療

 穿孔外傷では、全て、神経眼科の専門医による治療が必要となります。点眼麻酔後に、静かに開眼させると、角膜あるいは強膜に穿孔創が認められます。周囲には出血が認められ、大裂傷では虹彩や硝子体などの眼内組織が創にはみ出しています。虹彩や脈絡膜が眼外に飛び出したときは、黒褐色の組織が創口に付着しているのが見られます。先端が鋭いモノが、眼に突き刺さる、また金属の破片が欠けて眼の中に飛び込むと、角膜を突き抜けて眼の奥に深く突き刺さることもあります。

 解説していても、眼が痛くなる悲惨な例ですが、交通事故は不可逆的損傷であり、あり得るのです。眼内異物が疑われたときは、異物を発見する必要から、超音波検査、XP、CTなどの画像診断が実施されています。また眼内組織の損傷レベルを知るために、細隙灯顕微鏡検査(※)、眼底検査などの一般的な眼科検査以外に、超音波検査、ERG検査なども行われています。
 
※ 細隙灯顕微鏡検査(さいげきとうけんびきょうけんさ)👉 眼球破裂 ① を参照下さい


 
(4)後遺障害のポイント

 本件では、眼球の障害による視力の低下が後遺障害となります。視力障害では、頭部外傷による視神経損傷と、眼球の外傷を原因とするものに大別できるのですが、本件では、眼球の外傷を原因とする視力障害となります。
 
Ⅰ. 視力低下の立証

 視力は、万国式試視力表で検査します。等級表で説明する視力とは、裸眼視力ではなく、矯正視力のことです。矯正視力とは、眼鏡、コンタクトレンズ、眼内レンズ等の装用で得られた視力のことですが、角膜損傷などにより、眼鏡による矯正が不可能で、コンタクトレンズに限り矯正ができるときは、裸眼視力で後遺障害等級が認定されています。

 失明とは、①眼球を失ったもの、②明暗を区別できないもの、③ようやく明暗を区別できるもので、矯正された視力で0.01未満をいいます。

 両眼の視力障害は、等級表の両眼の項目で認定します。1眼ごとに等級を決めて併合は行いません、この点、注意が必要ですが、例外もあります。

 1眼の視力が0.6、他眼の視力が0.02の場合は両眼の視力障害として捉えれば9級1号となりますが、1眼の視力障害とすれば、8級1号に該当します。このケースでは8級1号を認定されています。
 
手動弁と指数弁
 
 イラストは手動弁と指数弁を表示しています。手動弁とは、被害者の眼前で手を上下左右に動かし、動きの方向を弁別できる能力をいいます。指数弁とは、被害者に指の数を答えさせ、距離によって視力を表します。1m/指数弁=視力0.02、50cm/指数弁=視力0.01に相当します。暗室において被害者の眼前で照明を点滅、明暗を弁別させる光覚弁(明暗弁)がありますが、いずれも失明の検査となります。
 
Ⅱ. 視神経損傷と、眼球の外傷の立証
 
① 前眼部・中間透光体・眼底部の検査

 眼の直接の外傷による視力障害は、前眼部・中間透光体・眼底部の検査で立証します。前眼部と中間透光体の異常は、細隙灯顕微鏡検査で調べ、器質的損傷を立証します。眼底部の異常は、眼底カメラで検査します。

 視力検査は先ず、眼鏡屋さんにも置いてあるオートレフで裸眼の正確な状態を検査します。例えば、水晶体に外傷性の異常があれば、エラーで表示されるのです。その後、万国式試視力検査で裸眼視力と矯正視力を計測します。
 

オートレフオートレフ

 

 前眼部・中間透光体・眼底部に器質的損傷が認められるとき、つまり、眼に対する直接の外傷は、先の検査結果を添付すれば後遺障害診断は完了します。
 
② これらで明らかな異常所見が認められないときは?電気生理学的検査、ERG(electroretinogram)を受けることになります。

  ERG、電気生理学的検査・・・視力の低下を立証する検査として、ERG、電気生理学的検査があります。ERGは、網膜電位と訳すのですが、網膜に光刺激を与えたときに現れる網膜の活動電位をグラフにして記録したもので、被害者が意識的にごまかすことができません。
 

ERGERG

 
 自賠責は常に詐盲者(見えるのに見えないと装う、恐らく保険金詐欺が目的)を警戒しています。その点、ごまかしの利かないERGが信頼されます。もっとも、脳外傷や眼窩底骨折、眼球破裂の重傷ともなれば、その疑いは低くなりますから、オートレフによる視力検査でも信用されるようです。弊所の認定実績からそう思います。
 
 その例 👉 8級1号:視力障害(50代男性・長野県)
 
 ・・本件は脳外傷の重傷ですから、ベーシックな視力検査のみで視力低下が信用されました。
 

 

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