どうしても取り上げなくてはいけない記事、判決です。
 
 ニュース報道はこちら 👉 https://www.youtube.com/watch?v=-8aUxuCaEn8
  
 「逸失利益の算定に、既往症(分)を差し引く」・・・後遺障害の確定に関して、この概念は避けて通れません。自賠責保険の場合、事故で負った障害に事故前から存在した障害を差し引く計算=「加重障害」でお馴染みなのです。法律論では、賠償金から差し引く「素因減額」で括られます。

 実は今月、この問題に取り組んでいた大阪の読売テレビから取材を受けたばかりでした(放送は3月上旬予定)。質問内容のポイントは、逸失利益の算定に関する保険会社の計算式、保険会社側の問題、あるいは保険会社・担当者の本音を探るものでした。被害者側にとっては、「元々の障害があるので、その分○%を差し引いた100%の人間ではない」と言われる訳ですから、納得し難いものです。

 死亡と後遺症、その双方に逸失利益減額の考え方があります。後遺症の場合、それが同じ部位、例えば元々、腕が曲がらない障害(10級)があって、同じくその腕を新たに交通事故でケガをし、障害が加算された場合なら、現存障害8級-既存障害10級=後遺障害保険金となります。この減額計算なら、ある程度理解できると思います。しかしながら、死亡の場合、「元々障害者なのだから、将来の賃金も安いはず、元々の障害分を死亡賠償(保険)金から差し引いて計算します」・・遺族の憤慨は当然かと思います。
 
 まずは、以下のNHKニュース(web)からの引用をお読み下さい。
  
5年前、大阪・生野区で聴覚に障害のある女の子が交通事故で亡くなり、遺族が賠償を求めた裁判で、27日、大阪地方裁判所は3700万円余りの損害賠償を運転手側に命じました。

女の子が将来得られるはずだった収入について、労働者全体の平均賃金をもとに算出するよう求めた遺族の訴えを認めず、その8割余りをもとに算出しました。
 
5年前の平成30年、大阪・生野区でショベルカーが歩道に突っ込み、近くの聴覚支援学校に通う井出安優香さん(当時11歳)が亡くなり、遺族は運転手と勤務先の会社に対して損害賠償を求める裁判を起こしています。

安優香さんが将来得られるはずだった収入にあたる「逸失利益」について、被告の運転手側が労働者全体の平均賃金のおよそ6割にとどまる聴覚障害者の平均賃金で算出すべきだと主張した一方、遺族側は障害を前提にせず、労働者全体の平均賃金で算出するよう求めていました。

27日の判決で、大阪地方裁判所の武田瑞佳 裁判長は「年齢に応じた学力を身につけて将来さまざまな就労可能性があった」などとした一方で、「労働能力が制限されうる程度の障害があったこと自体は否定できない」としました。

そのうえで、安優香さんが将来得られるはずだった収入について、労働者全体の平均賃金の85%をもとに算出する判断を示しました。

そして運転手と会社にあわせておよそ3770万円の賠償の支払いを命じました。
 
【両親“差別認める判決”】

判決のあと、井出安優香さんの両親は弁護士とともに会見を開き、差別を容認する内容だと批判しました。

母親のさつ美さんは「娘は努力を重ねて頑張って11年間生きてきましたが、それは無駄だったのでしょうか。聴覚障害者というだけで社会に受け入れてもらえないのでしょうか」と涙ながらに話しました。

父親の努さんは「結局、裁判所は差別を認めたんだなというがっかりした気持ちです。なぜ娘の努力を否定されなければいけないのか。悔しくてたまらないです」と話していました。

控訴するかどうかについて、会見に同席した弁護士は、今後、検討したいと述べました。
 
【専門家“偏見抜き判断を”】

民法の専門家で障害者の損害賠償についても詳しい立命館大学の吉村良一名誉教授は、判決について「社会の変化や安優香さんの頑張りについて肯定的な評価はあるものの、障害があれば労働能力が低いという決めつけになっている」と指摘しました。

今回の訴訟について、吉村名誉教授は、過去の判例に比べても、より積極的に健常者と変わらない賃金で算定すべきケースだったと言います。

そのうえで「社会の障害者雇用の制度の変化やIT技術によるコミュニケーションツールの進歩を判決に反映させる流れがあった中で、もう一歩進めていいケースだったと思う。裁判所は、障害者が置かれている状況を理解し、偏見を抜きに社会がどうあるべきだという判断をすべきだ」と述べました。
 
【障害者の「逸失利益」の判例】

障害者の「逸失利益」をめぐって、過去にはゼロと判断されることもありました。

しかし、障害者を支える技術が進歩したことや、企業に義務づけられている障害者の雇用率が引き上げられたことなどから、裁判所の判断も変わりつつあります。

4年前の東京地方裁判所の判決では、事故で死亡した重い知的障害のある少年について、特定の分野での優れた能力を評価し、障害のない少年と同じ水準の「逸失利益」が認められました。

一方、おととしの広島高等裁判所の判決では、事故による障害で介護が必要になった全盲の女性について、労働者全体の平均賃金の8割が妥当だと判断され、健常者と同じ水準までは認められませんでした。

障害者の働く場が広がる中、時代にあった判断をすべきだという声が社会的に高まっています。
 
※この記事を27日に掲載した際、おととしの広島高等裁判所の判決について「事故で死亡した全盲の女性」とお伝えしましたが、この女性は亡くなっておらず、正しくは「事故による障害で介護が必要になった全盲の女性」でした。
 
 明日は逸失利益と本件の経緯を分析したいと思います。
 
 つづく ⇒ 聴覚障害の女児死亡事故 逸失利益は85%3700万円余判決 ② 自賠責保険から分析すると