「肩関節が半分以下しか挙がらなくなった」=10級10号のつもりが、なぜか14級!に・・・分析してみましょう。関節可動域制限の神髄へ接近します。
 

段落

本 文

解 説


自賠法施行令別表第二第14級9号に該当するものと判断します。  結果は最初に書かれます。

左肩腱板損傷に伴う左肩関節の機能障害につきましては、  診断書に書かれた医師の診断名を抜粋しています。そして関節可動域制限の数値に対して審査の目が向けられました。

提出の画像上、棘上筋に高信号が認められますが、後遺障害診断書に記載されているような高度の可動域制限を生じるものと捉え難く、  画像所見は「腱板損傷の疑い」「わずかに部分損傷」程度の判断でしょうか。診断書に書かれた判断は絶対的なものではありません。あくまで審査側が判断をします。
 そして紋切型文章の一つ、「そのような高度の可動域制限を生じるものと捉え難く、」・・・関節可動域の数値は絶対的なバロメーターでありません。「この程度の損傷で、そこまで曲がらなくなるわけはない」との見方をします。

 しかしながら、疼痛や治療状況等も勘案すれば、将来においても回復が困難と見込まれる障害と捉えられることから、  わずかな損傷でも痛みだけは長引くであろうと、微妙な腱板損傷を器質的損傷による疼痛の残存として認めてくれました。
 このような曖昧な判断には14級9号を当てはめます。

 「局部に神経症状を残すもの」として別表第二第14級9号に該当するものと判断いたします。

 
 このように、関節可動域制限の数値はβさんのアドバイスの通り、「骨折や靭帯・軟骨損傷の部位・程度、そして骨折後の癒合具合の良し悪しや変形・転位の有無、靭帯損傷の回復具合から判断されます。それらの前提から、矛盾のない、納得できる可動域制限なら認めてくれる」のです。
 
 ちなみに、数mm程度の不全損傷・部分断裂でも「靱帯断裂」と診断する医師も多く、診断名だけでは損傷の程度を測れません。これは正確に言うと「不全断裂」です。そして多くの場合、不全断裂や僅かの損傷では保存療法として手術は回避します。それでも、疼痛コントロール(主に投薬と注射)と適切な理学療法を続けていれば、多くの場合、深刻な可動域制限は回復していきます。でなければ、深刻な断裂を再建する為、とっくに手術適用になっているはずです。

 アスリートの場合は(他の太い筋肉で靭帯を庇っているので)あまり参考になりませんが、サッカー選手の膝の靭帯をMRI検査すれば、試合後は高輝度所見だらけ、僅かな損傷ならアイシングだけで1週間後には試合をしています。手術をすれば、そのシーズンを棒に振りますので。

 したがって、わずかな損傷所見から「半分も曲がらなくなった事」など信用されないのです。リハビリ不足か、大げさであると判断されてしまうのです。残念ながら、これは常識的な判定かと思います。
 
 本件は、後遺障害を少しかじった法律家が陥りやすい罠でもあります。計測の数値を鵜呑みにするのではなく、受傷部位と損傷具合、診断名とその経過、さらに、受傷から症状固定時までの画像をよく見て判断する必要があります。「そもそも、関節可動域制限の計測値は(必ずしも)信用されていない?」ことに留意すべきです。計測方法や計り手による誤差、リハビリ直後かどうかでも変わりまから。中には、「曲がらない演技」をする被害者もいると思われていることでしょう。だからこそ、画像所見の有無とその損傷程度で判断されているのです。
 
 もちろん、α先生のMRI検査で器質的損傷を明らかにする作業は基本に忠実、決して間違ってはいません。おかげで非該当のところ、14級は獲得できたのですから。それでも、被害者さんに「10級の期待を持たせてしまった事」は反省です。これでは被害者さんが迷ってしまい、解決が長引きそうです。