(4)後遺障害のポイント

 外傷性網膜剥離の予後は、オペを受けたときでも、芳しくありません。特に、剥離が大きく、中心におよんでいるときは、オペが成功しても、高い確率で、視力の低下、視野欠損、飛蚊症や光視症、モノが歪んで見える変視症を残すことが予想されます。
 
Ⅰ.視力の低下  (眼の後遺障害の立証、その視力低下の基本の流れ)

 眼の直接の外傷による視力障害は、前眼部・中間透光体・眼底部の検査で立証します。

 前眼部と中間透光体の異常は、細隙灯顕微鏡検査で調べます。眼底部の異常は、眼底カメラで検査します。

 視力検査は先ず、オートレフで裸眼の正確な状態を検査します。例えば、水晶体に外傷性の異常があれば、エラーで表示されるのです。

 その後、万国式試視力検査で裸眼視力と矯正視力を計測します。前眼部・中間透光体・眼底部に器質的損傷が認められるとき、つまり、眼の直接の外傷は、先の検査結果を添付すれば後遺障害診断は完了します。
 
Ⅱ.視野の欠損、変視

 眼で見た情報は、網膜から大脳の視中枢に伝達されるのですが、右目で捉えた実像と、左眼で捉えた実像は、左右の視神経は、実は、途中で半交差しています。

 これにより、左右の目で感知された情報を脳内で合体させ、モノを立体的に見ることができるのです。この視覚伝達路に損傷を受けると、視力や視野に異常が出現することになります。

 受傷後、見ようとする部分が見えにくい、目前や周りが見え難い自覚症状から、気付くことが多いのですが、視野とは、眼前の1点を見つめているときに、同時に見ることのできる外界の広さのことで、半盲症、視野狭窄、視野変状について後遺障害等級の認定が行われています。

 上図は、日本人の正常な視野の平均値を説明しています。8方向の角度の正常値は合計で560°となります。この合計値が60%以下、つまり336°以下となったときは、視野狭窄と認められます。

 視野狭窄の後遺障害等級は以下の通り。


 

ゴールドマン視野計

 
 いずれも、ゴールドマン視野計検査により、立証します。そして、正常視野の60%以下になったものを視野狭窄といいます。

 網膜剥離が原因ではありませんが、以下はゴールドマン視野系検査にて立証した2例です。
 
 視野狭窄の実例 👉 9級3号:視野狭窄(40代男性・東京都)
 
 視野狭窄の実例 👉 13級3号:視野障害(20代男性・福井県)

 
Ⅲ.半盲症を残すとき

 視覚伝達路が視神経交叉、またはその後方で損傷すると、注視点を境に、両眼の視野の左半分や右半分を欠損し、両眼視野の4分の1を欠損するものも半盲症といいます。
 
※ 同名半盲

① 右側半盲 両眼の、それぞれ右側の視野が欠損します。

② 左側半盲 両眼の、それぞれ左側の視野が欠損します。

 
 
※ 異名半盲

① 耳側半盲 両眼の、それぞれ耳側、右眼は右、左眼は左が欠損します。

② 鼻側半盲 両眼の、それぞれ鼻側、右眼は左、左眼は右が欠損します。
 
※ 水平半盲

 視野の上半分、または下半分が欠損します。
 
 半盲は、高次脳機能障害など脳の障害から併発しています。とくに右側頭葉~頭頂葉のダメージから同名左半盲が多く、弊所でもいくつか経験しています。同じ眼の障害ではありますが、脳由来の障害ですので原因が異なります。その解説と典型例は「高次脳機能障害」で取り上げたいと思います。
 
 
Ⅳ.視野変状を残すもの

 視野変状には、半盲症、視野の欠損、視野狭窄、および暗点が含まれていますが、半盲症と視野狭窄については、等級表に定められています。ここでは、視野欠損と暗点について解説します。

 視野欠損とは不規則な欠損を、暗点とは盲点以外の視野にできる島状の欠損をいいます。後遺障害の対象は盲点以外の絶対暗点となります。暗点とは、視野の中で部分的に見えないスポットのことです。中心より耳側15°にある青い丸は、暗点=マリオット盲点で、誰にでもある、見えないスポットです。目の奥、網膜にある視神経乳頭部分が、視野検査を行うとマリオット盲点として検出されます。視神経乳頭は、網膜に写った像を脳に伝えるための視神経が束になって眼から脳へと向かう入り口であり、そこには、視細胞が存在していません。

 マリオット盲点=絶対暗点は、一番強い光も感知できない部分です。日常生活では、左右の眼が補い合い、片目で見るときでも、脳が補正するので、マリオット盲点を感じることはありません。暗点は、全く見えない絶対暗点と、不鮮明に見える比較暗点に分けられますが、比較暗点は、後遺障害の認定対象ではありません。

 管状視野、螺旋状視野等の機能的視野障害は、医学的に証明できないこと、回復困難な障害ではないところから、後遺障害として評価されません。

 ここでいう暗点とは、絶対暗点=マリオット盲点以外で、外傷により欠損を生じたものです。

 視野の中心に現れる暗点を中心暗点、盲点と中心暗点が連結したものを盲点中心暗点、注視点の付近にある暗点を副中心暗点といい、円形や類円の形をしています。中心部と周辺部の視野が残っていて、その中間に輪状の視野欠損がみられるものを輪状暗点といい、いずれも、網膜の出血、脈絡網膜炎、中心性漿液性脈絡網膜症などで出現するものです。

 

フリッカー検査フリッカー検査

 ゴールドマン視野計の他に、フリッカー検査があります。フリッカー検査は、視神経障害の診断に有効な力を発揮します。

 フリッカー検査の正常値は40~50c/sです。検査値が26~34c/sであれば、再検査が必要となります。前後3回の検査を受け、数値の最も低いものを記載します。

 25c/s以下であれば著しい低下となり視野狭窄で後遺障害の認定対象となります。
 

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