(1)病態

 乗車中の交通事故で、膝がダッシュボードに打ちつけられ、発症することが多く、dashboard injuryと呼ばれています。

 運転席や助手席で膝を曲げた状態のまま、ダッシュボードに膝を打ちつけ、大腿骨が関節包を突き破り後方に押し上げられて発症します。
 

 股関節脱臼に伴い、寛骨臼=大腿骨頭が収まっている部分の骨折も、多く見られます。全体の70%は、後方脱臼となっています。
 
(2)症状

 鼠径部の激痛、腫れ、股関節の異常可動性、内側に異常に曲がる状態となり、後方に大腿骨が押し上げられ、大腿骨は、短縮化しています。
 
(3)治療

 単純XP撮影で、大腿骨頭が、寛骨臼から外れているのが確認できます。

 後方脱臼では、麻酔下で、外れた大腿骨頭を寛骨臼にはめ込みます。脱臼に骨折を合併しているときは、スクリューにより、骨折している寛骨臼が固定されます。

 骨折を合併しているときは、骨折片が坐骨神経を圧迫し、坐骨神経麻痺を引き起こすことがあります。大腿骨頭は、3本の血管により栄養を送り込まれていますが、脱臼によりこの血管を損傷すると大腿骨頭に栄養や酸素が供給されなくなり、大腿骨頭が壊死に至ります。

 股関節脱臼を24時間以内に整復しないと、この大腿骨頭壊死が高率で発生するといわれています。大腿骨頭壊死となれば、大腿骨頭部を切断しそこに人工骨頭を埋め込むことになります。これを大腿骨頭置換術と呼びます。寛骨臼蓋の損傷の大きいものは、骨頭だけに止まらず、人工関節の埋め込みとなります。

 

◆人工関節埋め込み術

 これを防止するには、いかに早く整復固定をするかにかかっているのです。骨折を伴わないときは、受傷から12時間以内、骨折のあるものでも24時間以内に整復を実施すれば予後は良好と言われています。股関節の後方脱臼・骨折は数多く経験していますが、整復が良好なら深刻な障害は回避できます。人工骨頭や人工関節の置換に至ったものは、やはり骨粗鬆症の方や高齢者に多いようです。

 人工関節の術式について、佐藤の解説 👉 人工股関節置換術について
   
 つづく ⇒ 股関節後方脱臼・骨折Ⅱ 後遺障害のポイント