損額の全額を訴訟基準で得るために弁護先生がとっている3策を続けましょう。
2、訴訟するしかない
以下、3パターンで痛い目にあったことがある弁護士さんがとる方法です。最初から依頼者(被害者)に過失が見込まれるなら、損害の全額を訴訟基準で確保するために訴訟をするしかない、という結論になります。
損額の全額を訴訟基準で得るために弁護先生がとっている3策を続けましょう。
以下、3パターンで痛い目にあったことがある弁護士さんがとる方法です。最初から依頼者(被害者)に過失が見込まれるなら、損害の全額を訴訟基準で確保するために訴訟をするしかない、という結論になります。
少し間が空いてしまいました。このシリーズは一回一回とてもエネルギーを使います。できれば主要損保会社10年間の約款をすべて確認したいのですが、それをやったら半年かかってしまいます。とりあえず損Jを中心に、東海他数社を確認しながら進めています。不正確な記述あれば、後戻りしてちょこちょこ修正していこうと思います。
さて、昨日まで主要な問題点を明らかにしました。現在、連携している弁護士の先生方がこの状況でどう対処しているかを紹介します。題して「訴訟基準をゲットするための3策」。
「差額説」判決の根拠となった、代位(求償)の規定、「被保険者または保険金請求権者の権利を害さない範囲内で」を生かし、先に人身傷害にせっせと請求します。とくに高額となる後遺障害の慰謝料と逸失利益を事故相手(賠償社)に請求する前に、人身傷害から確保します。まずは人傷基準とはいえ、自身の過失関係なしで100%を得ることができます。自身の過失が大きければ大きいほど威力を発揮します。
そして、次に相手側に賠償請求します。それが裁判となれば当然、交渉や斡旋機関で解決しようとも賠償金を得て、その内から先に人身傷害特約で得た分を返します。その際、「契約者の権利を害さない範囲で」返せばいいので、以下のように訴訟基準の損害全額1000万円を確保し、それを超える300万円を人傷社に返せば済むことになります。
またしても人身傷害・約款の壁で、矢口さんは全額の補償が得られません。 損保ジャパンでは既に平成21年から、第8条『保険金の計算(3もしくは後段)』でこの規定(以下6条(3))を盛り込んでいました。損保ジャパンは人傷先行後の求償について、裁判となった場合限定で「訴訟基準」で払う事を早くから規定していたようです。 そして、26年7月改定ではこの規定を第8条『保険金の計算』から第6条『損害額の決定(3)』に移転させました。この条項移転によってより積極的に、賠償先行+訴外解決の場合は「人傷基準差額説」と規定したことになります。 また、この条項移転を好意的にとらえれば、「賠償先行でも裁判で決定した総額なら、差額は訴訟基準で払います」となります。
こうして「人傷基準差額説」vs「訴訟基準差額説」の回答、つまり、人傷先行か賠償先行かで支払い保険金に差がでる問題について、「それは請求の前後ではなく、あくまで裁判するか否か次第」としました。ようやく保険会社からの(少なくとも損保ジャパンからの)見解・解決が提示されたと言えます。 このシリーズ、約款の不備を指摘したかったのですが、逆に保険会社の(約款の)周到さに感心させられました。まるで保険会社の掌にあった孫悟空の気分です。
わかり易いように略=( )を加えています (総損害額は当社の基準で計算しますが)それにかかわらず、賠償義務者があり、かつ、賠償義務者が負担すべき法律上の損害賠償責任の額を決定するにあたって、判決または裁判上の和解において、(当社の)規定により決定される損害額を超える損害額が認められた場合に限り、賠償義務者が負担すべき法律上の損害賠償責任の額を決定するにあたって認められた損害額をこの特約における損害額とみなします。 ただし、その基準が社会通念上妥当であると認められる場合に限ります。
これは「TUG損保と後藤弁護士間で裁判になった場合に限って、その総損害額を認めます。」と解します。つまり逆を言えば、総損害額の決定は裁判での和解・判決を除き、人傷社(加護火災)の算定基準で計算することになります。本件はTUG損保と後藤弁護士の交渉による総損害額なので、加護火災はあくまで自社基準でしか払えないと言うのです。しかし、この交渉でまとまった金額は「赤い本」基準で計算された裁判基準の額です。「たら、れば」ですが、裁判をやればほぼ同じ賠償額が予想されます。そもそも「訴訟基準差額説」の「訴訟基準」とは形式(実際に裁判をやった結果)なのか、実質(赤い本等で計算された額)なのか議論があるところですが、少なくとも約款では「形式である」ときっぱり明言しています。
・・保険会社がいくら約款を明確化しても、やはり納得がいきません。後藤弁護士は交渉ながら裁判基準を勝ち取った素晴らしい成果をあげたにもかかわらず、裁判で決まった額ではないが故に、人身傷害の全額補償が受けられない。こんな理不尽が交通事故賠償の現場では多発しているのです。私はこれが人身傷害における最多発の矛盾問題、人傷基準ハザードと思っています。
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【事案】
自動車運転中、交差点を右折しようとしたところ、信号無視の自動車に側面衝突されたもの。
【問題点】
既に非該当となっていた。
後方からの追突ではないため、受傷態様が弱いと思われた。
【立証のポイント】
物損の見積もりを添付し、また事故状況を細かく作成し、死角からの衝突であることを立証した。それに加え、症状固定後の通院実績を明らかにして症状の一貫性を補足、またMRIを撮影する。
14級9号が認定される。
(平成26年11月)★ チーム110担当
【事案】
バイク運転中に自動車と接触し頭から転倒したもの。
【問題点】
相談時に既に事前認定で非該当となっていた。
治療の連続性が保たれていなかった。
後遺障害診断書等、医証の記載も不十分であった。
【立証のポイント】
認定は非常に厳しいと思われたが、受傷態様を分析してこれなら可能性はある、と考え異議申立を受任。まずは医師面談行い、諸検査を追加依頼し、後遺障害診断書にその検査結果を追記していただく。
また、MRI画像を放射線科医に鑑定依頼、鑑定書を作成する。それらを添付し、異議申立を行う。難しいと思われたが、14級9号が認定された。
(平成26年11月)★ チーム110担当
人身傷害特約は「安心の実額補償」「夢の全額補償」との宣伝で輸入された保険自由化の目玉商品です。
「実額補償」とは、契約時に決められた死亡で1000万円、入院1日10000円、の定額ではなく、実際の治療費や休業補償、逸失利益や慰謝料の相当額が計算されて払われることです。「全額補償」とは自分に過失があって、相手から全額の補償が受けられなくても、差し引かれた過失分を人身傷害が払ってくれることです。そりゃ、代理店時代に初めてこの保険の説明を聞いた時は「いい保険が出たものだなぁ~」と感じ入っていました。
しかし、「実額」とは言ってもあくまで保険会社の基準で計算されること、そしてそれは裁判などで用いられる基準に比べて著しく低いことが、後に様々な問題・矛盾をもたらしました。その結果、宣伝とは異なり「全額」の補償が受けられないことが起きるのです。
いよいよシリーズも最終局面に突入です。矢口さん&後藤弁護士と加護火災、最後のバトルです。(何度も言いますが、登場する個人・組織名は架空です)
人身傷害特約は自分の過失分も出る保険なのに何故?
矢口さんは自動車で走行中、交差点で出合頭の衝突事故でケガをしました。腕を骨折し、半年後、後遺障害12級の認定を受けました。そして弁護士の後藤先生に交渉を依頼しました。続きを読む »
裁判官は「人身傷害は傷害保険」、こう定義してしまったね・・。そんな簡単な結論ではないからこのシリーズが10回を超えているのですが・・。
また、裁判官は「平成10年以降、保険の自由化により各社約款が多様化しているのだから、算定基準もいろいろ・・裁判基準に拘束される筋のものではない」と言うけれど、それはまったくの建前論です。現在、どの会社も十把一絡げに同じだった対人賠償基準の旧約款を人身傷害の算定基準に流用しています。各社、その支払い金額の計算に大差はありません。大差があるのは、いわゆる「赤い本」などの裁判基準と比べてなのです。問題の本質は(各社、大差ない)保険会社基準と(絶大な差がある)裁判基準のダブルスタンダードです。そして、人身傷害は支払い金額を「契約前に保険金を約束した傷害保険」なのか、それとも「損害の実額を支払う、つぐないの保険」なのか? これが人身傷害誕生以来負ってきた、宿命的テーマのはずです。何か履き違えている印象が拭えません。
判旨の通り、確かに保険会社は約款に書かれていることを守ればよいでしょう。まったくの正論です。しかし、裁判官は正論ながら現実とかけ離れた解釈を示しています。
まず、被害者(ここでは保険契約者)が※賠償先行か人傷先行かの損得を簡単に判断できるわけないですよね。
※人傷先行=先に人身傷害保険を受取り、次に裁判で賠償金を請求 賠償先行=先に裁判で賠償金を取り、次に自身の過失分を人身傷害保険に請求
裁判官の言う「選択の自由」は大抵、保険会社有利に運ばれるのが現実です。金融庁の監督下だからと言って、馬鹿正直に損保が「人傷先行が得です」と契約者にアドバイスなどしません。逆に表立って契約者が不利になるような発言・誘導もしません。では、人傷先行か賠償先行か、選択の場面となったら人傷社の担当者はどうするでしょうか?まず、静観を決め込みます。なぜなら過失割合が契約者20:相手80のような事故であれば、通常、相手の保険会社が一括対応(治療費や休業損害の支払い)をしています。そして治療終了後、何の疑いもなくそのまま賠償交渉に進むのが普通だからです。 保険会社は裁判官が期待するような、優しくお人好しの組織ではないのです。営利を求める一民間企業が数百万円~数千万円の支払いが増える方法を親切に教えてくれるわけないでしょ?そんな担当者は人事異動で地方の子会社に飛ばされます。それが民間企業の限界、保険会社を責めることはできません。・・判旨は無垢で純真な理想郷を前提としたものです。
さらに、「人傷先行が大多数じゃね?」の判旨。自身の過失が50%を超えるような事故なら、相手保険会社は賠償の対応をしてくれないことが多いので、その場合は人身傷害を先に請求することになるでしょう。しかし本件のように自身の過失が5~30%程度でも、先に人身傷害を請求するのが大多数か?・・そんなわけないでしょう。裁判官は「発売以来 普及が進んだこと、求償の裁判がやたら多いこと」から単なる推測で「みんな先に人身傷害に請求している」と思ったようです。しかし、事実はこのシリーズを読めば解る通り、求償に関する裁判は人身傷害の約款に問題があるからで、決して人身傷害への先行請求が大多数となったわけではないです。
平成24年6月7日高裁で「人傷基準差額説」判決が出ました。先に賠償金をもらって、差し引かれた自分の過失分を後で自身契約の人身傷害特約に請求した場合、その計算は「訴訟基準」の総額か、「人傷基準」の総額かの判断が下されました。
わかり易くするために、例によって矢口さんと加護火災に登場してもらいましょう。
「人傷基準差額説」だと以下の通り、全額はもらえません自動車保険料率の自由化以降は、各社の約款に違いがあって当然です。しかし、この人身傷害の支払い基準の差について、保険契約の際に契約者が理解・選択することはほぼ不可能と思います。パンフレットからは到底読み取れない補償の差があることは、やはり消費者保護の観点から望ましいことではありません。
「差額説」vs「絶対説」の裁判が続く中、平成23年6月、北海道の消費者団体がこの問題について、「訴訟基準差額説」or「人傷基準差額説」のどちらで支払うのか損保各社に質問状を送りました。回答は以下の通りです(簡略化しました)。「絶対説」が退けられることは、各社、覚悟していたと思いますが、「訴訟基準」か「人傷基準」かは不明確で、これを約款に反映させる過渡期にこの質問・回答を行いました。人身傷害約款の不整備、もしくは改定中の損保に対し、会社の見解・方針を聞き出す画期的な活動だったと思います。
※特定非営利活動法人 消費者支援ネット北海道様から、引用・掲載のご許可を頂きました。
会社名
賠償義務者への 訴訟が先行した場合
人身傷害保険の 支払が先行した場合
改訂時期
回答
回答
あいニッセ同和H22.10.1
またしても学説の対立です。人身傷害を先に請求し、後に賠償金を受け取る場合の求償のルールについては「差額説」で決着しました。しかし、先に賠償金を取得した後から人身傷害を請求した場合、以下、どちらの基準かによって損得が生じてしまうのです。 自社基準の損害総額から矢口さんの過失分(人身傷害保険金)の算定をすることを「人傷基準差額説」と呼びます。相手との裁判で決まった賠償金総額を認め、その額から矢口さんの過失分(人身傷害保険金)を算定するのが「訴訟基準差額説」です。
たくさんのアクセスありがとうございます。連休中も頑張って良かった。もっとも熱心にこのシリーズをフォローしているのは同業者さんか弁護士さんと思いますが・・。
では、「差額説」に決着しても、なお残る問題について進めましょう。おなじみの実例を使います。(登場人物、組織名はもちろん架空です)
人身傷害特約は自分の過失分も出る保険なのに何故?
矢口さんは自動車で走行中、交差点で出合頭の衝突事故でケガをしました。腕を骨折し、半年後、後遺障害12級の認定を受けました。そして弁護士の後藤先生に交渉を依頼しました。続きを読む »
【事案】
バイクで交差点を直進中に、対向右折車と衝突したもの。
【問題点】
意識障害の所見が、非常に不十分な所見であった。
画像所見で、びまん性の損傷が明らかにできなかった。
【立証のポイント】
早急に医師面談を行い、意識障害について被害者家族も同行のもと、再調査・分析を行い、意識障害の所見についてより実情に沿った内容で再作成いただいた。ここが、本件の立証のキモである。
また、画像所見を精査するため、放射線科医に読影・分析を依頼し、その所見を得た。
その後は懇意にさせていただいている治療先で十分な神経心理学検査を行っていただき、万全の状態で被害者請求を行う。5級2号が認定された。
(平成26年10月) ★ チーム110担当
【事案】
国道を徒歩で横断中に、自動車にはねられたもの。
【問題点】
治療先が神経心理学検査を拒否。その他、近隣の医療機関を当たるも、年齢を理由に拒絶される。
【立証のポイント】
仕方ないので、介護タクシーにて大阪の治療先までお越しいただき、神経心理学検査を行う。
また、新たにT2スターでMRIを撮り、脳萎縮について主治医の診断を取り付ける。
2級が認定されるかと思われたが、1級1号が認定された。
(平成26年5月) ★ チーム110担当
【事案】
国道を徒歩で横断中に、自動車にはねられたもの。
【問題点】
線状痕の濃淡がポイントとなる。薄いものは長さに含めない、という独自の解釈をする主治医による計測に対して、どう対処すべきか。
【立証のポイント】
そこにあるものは長さに含めて診断する、という別の医師による計測による後遺障害診断で申請をする。
調査事務所の面談では、弁護士に立会いをお願いした。
無事に9級16号が認定される。
(平成26年5月)
【事案】
自動車運転中、信号無視の居眠り運転の対向車に出会い頭衝突をされた。
【問題点】
以前、すでに頸椎で14級9号の認定を受けていた。
治療先の選定で苦慮されておられた。
【立証のポイント】
まず、以前の事故の認定時の資料をとりつけ、分析。どのような症状で等級が認定されたのかを精査する。
その結果、以前の事故では「頸部痛」で認定がなされていたことをつきとめる。
そのため、今回は実際にある症状のうち、「神経症状(痺れ)」の症状で等級認定の可能性を探る方針を固める。MRI撮影とその分析、また主治医との面談で症状の推移について、認識を共有させておいた。
申請の結果、14級9号が認定される。痺れの症状に対しての等級であるので、頸椎捻挫ではあるが今回も自賠責から無事に入金された。
(平成26年10月)
【事案】
バイクで交差点を直進中に、対向右折車と衝突したもの。
【問題点】
症状固定のタイミングについて。
母指の場合、用廃か否かは1/2以下の可動域制限が起きなければならない。正確な可動域測定が勝負となる。
【立証のポイント】
可動域について、医師に計測のやり直しを依頼。正確な可動域測定のため、立会いを行う。
正しく可動域が計測された結果、10級7号が認定された。
(平成26年10月)
【事案】
バイクで交差点を直進中に、対向右折車と衝突したもの。
【問題点】
抜釘時期、症状固定時期の選定について。
主治医がリハビリについてまったく興味を示さない。
【立証のポイント】
診断書作成・等級申請に際し、主治医と綿密に打ち合わせ。そのうえでMRI画像の精査を行う。
無事に12級7号が認定される。
(平成26年10月)
【事案】
バイクで交差点を直進中に、対向右折車と衝突したもの。
← 頸部は青の部分
【問題点】
抜釘時期、症状固定時期の選定について。
主治医がリハビリについてまったく興味を示さない。
【立証のポイント】
丁寧なリハビリを継続、そしてしかるべき時期に症状固定、正確な可動域計測を見守る。
骨折の形状から、関節面にまで損傷が及んでいるのかをMRIも含めて精査。
12級7号が認定される。
(平成26年10月)
【事案】
幹線道路を徒歩で横断中に、直進者にはねられたもの。
【問題点】
過失が高い事案であった。
画像所見が曖昧であった。
症状固定のタイミングについて。検討する必要があった。
【立証のポイント】
新たな画像所見を得るべく、3DCT、MRIの依頼を行い、その画像について主治医と面談し、所見の確認を行った。
再手術の可能性等を医師と確認しながら、適切な症状固定時期について検討、決定した。
症状固定時には可動域測定に立会い、間違いのない測定がなされているか確認をさせていただいた。
偽関節が認定され、12級8号が認定された。
(平成26年9月)
【事案】
自動車運転中に、後方より来た車に追突されたもの。
【問題点】
受傷態様が非常に大きな事故であり、何とか12級が認定されないかと方策を考える。そのためには、MRI画像の分析と検査所見の集積による、丁寧な立証が必要であるとの結論に。
【立証のポイント】
MRI撮影後、放射線科医に鑑定を依頼する。ヘルニアの有無を精査、顕著なヘルニアの圧迫所見を得ることに成功する。その後、ジャクソン、スパーリング、腱反射はもちろん、筋委縮検査等で神経学的所見を集積させていく。
症状固定時には医師面談を行い、後遺障害診断書にこれまでのすべての所見を落とし込んでいただくように依頼。計画通り、12級13号が認定された。
(平成26年9月)