それではもう一例、明らかに5cmを超えていた。実測6.5cm、そして何より目立つ。それでも線の細さから、形成手術でそれなりに消すことが可能だからでしょうか。
醜状痕の男女差別廃止を経て、労災は等級を見直しました。5cmは「著しい醜状」から「相当程度の醜状」に、つまり、9級11号の2(自賠責では9級16号)となっています。自賠責の基準もそれに従って改定したようです。 ⇒ 労災の線状痕の新基準
9級16号:顔面線状痕(40代男性・東京都)
【事案】
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それではもう一例、明らかに5cmを超えていた。実測6.5cm、そして何より目立つ。それでも線の細さから、形成手術でそれなりに消すことが可能だからでしょうか。
醜状痕の男女差別廃止を経て、労災は等級を見直しました。5cmは「著しい醜状」から「相当程度の醜状」に、つまり、9級11号の2(自賠責では9級16号)となっています。自賠責の基準もそれに従って改定したようです。 ⇒ 労災の線状痕の新基準
【事案】
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旧基準から新基準に改定された顔面部の醜状痕ですが、顔面線状痕の場合、労災の基準上はキズの長さで区分されています。しかし、”目立つか否か”も前提基準です。
3cm 以上の線状痕 →12級
5cm 以上の線状痕 → 7級
となると、新設の9級16号の基準は? 非公表のため、長らく謎でした。ここ数年の認定結果から予想通りと言うか、線状痕の7級(5cm以上)はほとんどが9級評価の結果となっています。 7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの
9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの
★「著しい=5cm以上」→「相当程度=5cm以上」に降格したようです。今シリーズの最後に労災の『障害認定必携』の改定された部分をまとめます。
⇒ 労災の線状痕の新基準

【事案】
前回述べた3つの靭帯が骨化していく病気について、簡易にではありますがまとめました。
これらの病気のうち、特に後縦靭帯骨化症と黄色靭帯骨化症は、せき髄を圧迫する病気であり、これらを患っている方が交通事故に遭われた場合、ムチウチ等の症状と同様、ないしはそれ以上に辛い症状がでることがあります。
※ 前縦靭帯骨化症の場合、せき髄を圧迫しないので前述したように症状が出ることはあまりありませんが、後縦靭帯骨化症が併発しているケースが多いです。
しかし、一部症状がムチウチの症状と酷似しているため、事故によるものか、病気によるものかの区別ができない場合が多くあります。また、調査事務所もムチウチの後遺症(後遺障害)については症状が信用できるかどうかでみております。MRI画像上で後縦靭帯骨化症等が判明すれば、「既往症あり」として、等級を認めないケースもあります。
それでは、交通事故に遭われた場合、完全に等級が認められないのでしょうか。
結論として、事故前から症状があり、症状が交通事故後によりひどくなった場合に、既存障害を前提として等級を認めてもらうように申請をする場合があります。
例えば、まず交通事故以前に後縦靭帯骨化症を診察されていれば、その時の症状と交通事故後の症状とを比較し、前者が14級9号レベルの症状であった場合で、かつ後者の症状が12級13号レベルの症状であった場合、12級13号を現存障害とし、14級9号を既存障害として認められることがあります。これは自賠独自の「加重」の計算で、
現存障害(12級の224万円)- 既存傷害(14級の75万円)=149万円の保険金支払い となります。
裁判上でもこの計算方式が踏襲されることが多くなります。したがって、この差分を前提に裁判基準へと計算し直し、弁護士は相手方保険会社に対して請求する傾向です。
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靭帯が骨化していってしまう病気として、ここでは①後縦靭帯骨化症、②前縦靭帯骨化症、③黄色靭帯骨化症をあげていきたいと思います。
これらの具体的な原因については不明といわれており、これらのうち①後縦靭帯骨化症、③黄色靭帯骨化症は、国の特定疾患(難病)に指定されております。
しかしながら他方で、要因として肥満や糖尿病等の生活習慣病や遺伝的要因があげられています。 ① 後縦靭帯骨化症について
後縦靭帯骨化症とは、椎体の後面についている靭帯が骨化(骨に変性する)する病気です。
この骨化した靭帯が脊髄や神経根を圧迫すると、手足の痺れ、首・背中・腰の痛みが生じ、最悪、運動障害も生じる可能性があります。また、排尿障害も起きる場合もあります。
症状が重い方は、靭帯を圧迫している骨を削る除圧術、除圧後に骨移植やプレート・スクリューで固定する固定術等の手術を行う必要があります。
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交通事故で腰椎や胸椎を圧迫骨折したという相談を過去に何度か受けたことがあります。交通事故による骨折の場合、MRI画像(特に受傷直後に撮影されたもの)で水分反応がでます。水分反応が強いという事は、その骨折は新鮮骨折といえます。
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接骨院・整骨院は柔道整復師の資格者で営業しています。もう、20年も前から健保や自賠責への不正請求はもちろん、過剰な施術費の請求で保険会社から嫌われています。
優れた手技を持ち、多くの患者を救っている先生も存在する中、大変残念に思っています。
もちろん、医師・病院でも不心得者がおります。しかし、健保扱い停止や逮捕される柔道整復師の数は医師の比ではありません。つまり、どうしようもない位、不正者・犯罪者が多すぎるのです。
一昨年から危惧していた通り、不正な接骨院・整骨院で施術を受けたばかりに、とばっちりを食っている被害者さんの相談が増えてきました。代表的な例は以下の通り、
1、通っている院が、保険金詐欺で逮捕されて ⇒ 保険会社の一括払いがストップ
2、通っている院が、健保から調査が入って ⇒ 健保の使用がストップに
3、通っている院の不正が発覚して ⇒ 審査中の後遺障害が「非該当」となった?
4、弁護士・行政書士に紹介された院に通った ⇒ 後遺障害が「非該当」となった? 1と2は犯罪に巻き込まれたので、不運としか言いようがありません。ただし、通院日の水増しなど、「知らなかった」では済まされず、患者もグル=共犯とされる可能性はあります。保険金詐欺は重罪です。
3と4は後遺障害の審査上の判断なので、一概に院のせいとは言えませんが、明確な所見のない、むち打ち14級などは症状の「信用性」が認定のポイントです。今まで多くのむち打ち14級の案件を見てきましたが、おかしな病院・接骨院等に通っていた被害者さんは、明確な骨折や重傷事案を除き、等級審査上、圧倒的に不利に感じています。
最近、目に付くのは4、のパターンです。これは弁護士・行政書士と接骨院等が提携・顧問など、商売上の繋がりが拡大したことと無縁ではありません。提携によって法律家と院が相互に患者の紹介を行っています。これ自体は何の問題もないのですが、後遺障害等級の審査上、接骨院等での施術では、症状の深刻度は低く判断されます。自賠責調査事務所はもちろん、保険会社はあくまで医師の診断、治療実績を重んじます。やはり、症状が長引いている被害者さんは、医師の診断の下で治療・リハビリを進めた方が安全なのです。
また、接骨院・整骨院では診断書が書けませんので、提携先の院を紹介しつつも、整形外科の受診も月1、2回はキープさせる方法があります。これで、後遺症の審査に備えることができて安心?なのでしょうが・・これも自賠責はお見通し、ある調査事務所の担当者はブログで「アリバイ作りの診察」と断言、やはり、悪い印象を持っているようです。
これは、医療機関と柔道整復の「並行受診」と言い、骨折等の患者を診る場合、医師と院が正しい連携治療を結んでいれば、問題ありません。しかし、自賠社や任意社は、法律家が絡んだ連携関係を、それを誇示した派手なホームページからほぼ把握しています。
数年前であれば、この「並行受診」でも、それなりに神経学的所見があれば、なんとか14級9号は認められていました。しかし、むち打ち患者の多くは神経学的所見に乏しいものです。したがって、「並行受診」は大変不利な印象を持っています。最近の相談者さんで、「○○弁護士に紹介された整骨院に通い、等級は大丈夫と言われたのですが・・非該当になりました(泣)」がちらほら出始めました。非常に残念です。病院でリハビリをしていたら、認定されたであろう被害者さん達だからです。医師に後遺障害診断書を書いて頂くための、「アリバイ作りの診察」は、もう通用していないのです。
すると、この交通事故専門、被害者救済を謳っている弁護士は、大変罪な事をしていることになります。
商売上の安易な提携・顧問関係を院と結んでいる法律家さんは、未だ、この事実を直視できていないのでしょうか。道徳心を持った、そして、手技としての技術が高い院との連携であれば、当然に被害者さんの為になります。しかし、各県で毎月複数の院が処分を受けている今、かなり危険な連携と言わざるを得ません。だからこそ、心ある法律家は医療者との距離をしっかりと保っています。
今後も問題の噴出が続き、法律家と接骨院・整骨院の連携ブームは、被害者の怨嗟の声を残して、いずれ収束すると思います。
以前、大結節骨折について触れました。その際、触れた棘上筋についてまとめたいと思います。
棘上筋とは、肩の腱板の一部で、肩の上下運動のメインとなる筋肉です。棘上筋が断裂した場合、肩の外転運動の可動域に影響がでる可能性があります。棘上筋の断裂は、完全に断裂している場合だけではなく、部分的に断裂している場合もあります。完全断裂の場合、縫合手術を行う場合があります。部分的な断裂の場合であれば、手術ではなく、三角巾で外固定し、安静にする方法がとられる場合があります。
肩の可動域制限が後遺症(後遺障害)として残存するか否かは、断裂具合によります。完全に断裂していれば肩をあげる筋肉が損傷しているので、主に外転運動での可動域制限が生じます。一方で部分的な断裂の場合、程度によっては可動域制限が生じないこともあります。その場合には、14級9号、12級13号のいずれかが認定される可能性があります。
以上から、治療方針にしても後遺症(後遺障害)手続きにしても、いずれにしても画像を撮る必要があります。
棘上筋は筋肉ですので、レントゲン画像上でははっきり写りませんが、MRI画像であれば棘上筋が写ります。これで断裂具合を確認できます。なお、前回の大結節骨折でも述べましたが、棘上筋に衝撃を受けて、そのバネのような筋肉に引っ張られることで介達外力タイプの大結節骨折をしていることがあります。骨折により骨片が残り、痛みが続いているかもしれませんので、(3D)CTも撮る必要がある場合もあります。
しかし、医者の中には、レントゲンのみで棘上筋等の腱板損傷を診断する場合があります。ある医者によると、肩峰と骨頭の間が通常より狭くなっていることを指摘して腱板(棘上筋)損傷を勘で診断?する場合があります。しかし、腱板等を専門的に診察している医者はMRIを撮った上で慎重に診断していました。
我々は医者がMRIを撮らずに棘上筋損傷を診断した場合には気を付けるようにしています。当然ですが、「勘の診断名」など自賠責は認めてくれません。ちなみに、今までお会いした専門性を持ったお医者様は様々な検査をした上で慎重に診察しております。
教訓じみていますが、昨年の実績から学習しましょう。こちらをご覧になった被害者さん、特にむち打ち、頚椎捻挫、腰椎捻挫の皆さんは、是非とも事例から対処を検討して下さい。 交通事故の相談で上位にくるもので、「相手保険会社が治療費の打ち切りを迫ってきています!」があります。
まだ痛みがあり、治療を継続したいのに、何たる横暴!、一気に保険会社とケンカモードに突入です。しかし、ここで争っても益はありません。保険会社の担当者は、治療費の支払いをいつでも勝手に終わりにできます。さらに、弁護士を入れて、「これ以上、治療費が欲しくば、裁判所で待ってます」と、より強硬になるだけです。残念ながら、いつだって払う方が強いに決まっています。
ここで被害者の運命は分かれます。相談会に参加されたクールな被害者さんは、治療費打ち切りに対して「あぁ、そうですか」と健保や労災で治療を継続します。そして、しかるべき時期に症状固定、後遺障害等級を獲ってから、保険会社と交渉を再開します。結果として、しっかり賠償金を確保します。 「ケンカは等級を獲ってから!」が鉄則です。
本例は、治療費打切を渡りに舟と、労災に切り替え、14級を獲ってから弁護士の交渉に切替えました。もちろん、赤本満額の賠償金を勝ち取ります。
【事案】
高速道路を走行中、渋滞の為、停車していたところ、後方から自動車が追突してきた。さらに、追突してきた自動車の運転手はアクセルとブレーキを間違えたらしく、2度もぶつかってきた。事故直後から頚部・腰部痛・手の痺れの神経症状に悩まされる。
【問題点】
とくに腰痛はひどく、仕事は休業が長期に。しかし、業務中の事故であったにもかかわらず、労災を請求していなかった。毎度のことだが、「労災か相手保険か」の2択ではない。両方に請求を上げる必要がある。
...
いきなり何のことやらわからないタイトルですが、何を意味するか?
これに即答できた方は後遺障害のプロ、認定でしょう。
答えは上肢の醜状痕の範囲です。
下図の赤塗りの部分がそれぞれの範囲です。
労災基準 自賠責基準 裁判
続きを読む » 現在の骨折整復は観血的手術にて、プレート、スクリュー、Kワイヤー固定を行うことによって、変形治癒を少なくしています。
これは以前にも述べましたが、とくに、長官骨(腕や脚の長い骨)の骨折では破裂骨折、開放骨折などの重度骨折でない限り、まっすぐくっつくはずです。しかし、50年以上前の整形外科では、現在に劣る治療環境からとにかく骨をくっつけることが優先され、日常生活に深刻な問題を残さない「変形」「転位」など軽く見られていたようです。

その様子は数十年間に骨折した経験のある、お年寄りの被害者さんのレントゲンにしばしば見られます。当時は石膏で外固定するか、添え木で固定して骨をくっつけていたのでしょう。今の労災・自賠の基準では、ほとんど後遺障害等級がつきそうです。
【事案】
自転車後部座席に同乗中、その自動車がセンターラインオーバーして対抗自動車に正面衝突。ほぼ100:0の事故。運転手は死亡、同乗者もそれぞれ骨折等ケガを負った。中でも本件の被害者は4本の手足すべて骨折した。
【問題点】
高齢のために骨癒合に時間がかかった。可動域は回復傾向であるものの、右肘の変形が気になった。幼少の頃、腕を骨折したそうで、当時の医療環境と処置ではこの変形は仕方ないと言える。この変形の影響を本件事故と区別・排除する必要があった。
【立証ポイント】
高齢者とはいえ、できるだけ早期の固定を目指し、受傷1年で症状固定とした。しっかり可動域計測に立ち会い、幼少時の骨折による尺骨の変形ついて医師と相談した。これを既往症として区別、機能障害:12級6号を確保した。左上腕については、幸い機能障害等残らず回復した。
今年も顔面のケガの受任が多くありました。出発点は頬骨骨折、眼窩底骨折、下顎骨骨折が診断名となっていますが、後に痛みやしびれの残存を三叉神経障害として判断する場合や視覚・嗅覚・味覚の障害、歯牙欠損、そして醜状痕などが認定の対象となります。
後遺障害全体からは少数例ですが、秋葉事務所では毎年多くの依頼をいただいています。
【事案】
被害者は歩行者で道路を横断中、左方よりの自動車に跳ねられ受傷。右足首(距骨)、顔面(頬骨)を骨折した。
【問題点】
足は整形外科、顔面は形成外科、そして、噛み合わせに不安を残すため口腔外科と3科を受診した。各科の医師はそれぞれ後遺症に対する認識が違うため、後遺障害診断書を科ごと3枚に分けた。
頬骨は癒合状態よく、陥没(変形・転移)を追うことに。
神経系統の障害は諸々の症状を包括的に判断します。例えば脳損傷となり、記憶障害が9級程度、めまいが12級程度、排尿障害が11級程度・・これらを併合せず、ひっくるめて総合判断で7級とするような・・。これは自賠責が労災認定基準の「神経系統の障害を労働能力の喪失程度から判定する」ことを基にしているからです。
さて、本件盛りだくさんの障害を明らかにしましたが、高次脳機能障害まで立証し切れませんでした。まず、自覚症状(高次脳の場合、家族の観察)がどの程度なのかが出発点です。初回の本人面談で私は高次脳を予断しました。しかし、続く家族の観察から障害の表出が乏しく、最後まで疑問のままでした。つまり、本件は予断をはずしたようです。こうして高次脳未満は「高次脳崩れ」の12級13号確保が目標になります。 本件、提出書類から状態を見極めた自賠責・高次脳審査会の慧眼には恐れ入りました。
【事案】
自転車で直進走行中、前走バイクが急転回し、衝突したもの。頬骨骨折により、顔面に神経性疼痛、嗅覚・味覚の異常も生じた。また、脳挫傷があり頭痛やめまいに悩まされる。その他、歯を数本折った。 リハビリ後も完全回復とならず、現場の仕事から内勤に転任を余儀なくされていた。
【問題点】
相談会で高次脳機能障害の精査を必要と感じた。早速、主治医に面談し各種検査を行ったが、家族からの観察に比して整合性のある結果とならかった。果たして脳障害はあるのか?迷いの中、作業が進んだ。
高次脳機能障害で一くくりにできれば良いのだが・・・高次脳が否定された場合、はっきりと数値に出る検査のない頭痛、めまい・ふらつき、顔面の痛み、これらを神経系統の障害としてまとめる作業となる。
【立証ポイント】
味覚・嗅覚はおなじみの検査を実施するのみ。歯については既存障害歯と事故で欠損した歯を分けて把握する必要がある。歯科医と打合せし、XP画像を預かり、専用診断書に記載頂く。
結果、味覚喪失で12級相当、嗅覚減退で14級相当とした。歯については事故前からの障害歯と新たに折れた歯を合計、現存障害として13級5号(本件の場合、併合ルールの優位により加重障害とならず)。
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近時の臨床結果を踏まえ、あえて、テンソルを再評価してみましょう。 拡散テンソル画像とは
近年、脳疾患に対する画像診断技術は著名な進化を遂げており、中でもMRIの拡散強調画像を応用した拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging :DTI)が注目されている。DTIとは生体内水分子の拡散の大きさや異方性を画像化したものであり、従来の撮像法と比較して脳白質の構造変化を鋭敏にとらえることができる画像診断法である。主なパラメータとしてはfractional anisotropy(FA)が用いられており、さまざまな脳白質病変の評価に応用されている。またDTIにはfiber-tractographyという神経線維の走行方向を描出できる技法もあり、臨床や研究で多く利用されるようになってきている。
びまん性軸索損傷に対する拡散テンソル画像の有用性
高次脳機能障害や運動機能障害を有するにもかかわらず、従来の画像診断では異常所見を認めないDAI症例に対し、DTIで評価を行った自験例をいくつか紹介する。
① MRI上明らかな異常を認めないが高次脳機能障害を有するDAI患者11名と、年齢をマッチングした健常者16名との比較、対象者すべてのDTI脳画像を標準化し、DAI群と健常群に分けてFA値の比較を行った。DAI群では、従来のMRIでは異常を認めないにもかかわらず、脳内の非常に多くの部位に散在性にFA値低下部位を認めた。これはDAIによる神経損傷を描出している所見と考えられる。 ② 23歳、男性:19歳時に交通事故で頭部外傷を受傷。記憶障害、注意障害、遂行機能障害等の高次脳機能障害を認めるがMRIで明らかな異常所見を認めない。しかしfiber-tractographyでは同年代の健常者と比較して能梁繊維、脳弓線維の描出不良所見を認める。これはDAIによる神経損傷を描出している所見と考えられ、高次脳機能障害の原因と考えられる。 ③ 37歳、女性:35歳時に階段から転落して頭部外傷を受傷。受傷時は記憶障害、注意障害等の高次脳機能障害を呈したが、リハビリテーションにより改善し、現在は高校の英語教師として復職している。しかし左不全片麻痺を認め、歩行のためには杖と短下肢装具が必要な状態である。MRIでは左片麻痺の原因となるような所見は認められない。しかしfiber-tractographyでは同年代の健常者と比較して錐体路の描出不良所見を認める。これはDAIによる神経損傷を描出している所見と考えられ、左片麻痺の原因と考えられる。
② 23歳の例
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今更ですが、高次脳機能障害認定の3要件は、
1.画像所見 2.意識障害 3.診断名 です。 特に画像所見はCT、MRIで描出されていることが条件です。診断名が脳挫傷、硬膜下血腫、硬膜外血腫、くも膜下血腫、脳内血腫 等、局在性の損傷であれば、受傷部がCT、MRIで明確に描出されるでしょう。
しかし、脳障害が疑われる患者すべてにその損傷が視認できるとは限りません。例えば、びまん性軸索損傷(DAI:deffuse axonal injury)のように、脳の神経線維の断裂は損傷が微細で、MRIでも描出が難しくなることがあります。その場合、多くのDAI患者は意識障害が伴いますので、意識障害にて脳障害を推定することになります。しかし、意識障害がない、もしくは軽度の場合、やはり画像所見を追求する必要があります。
まずは、画像所見のおさらいをします。 【井田医師の意見陳述】 現在の画像診断の主役はCT、MRIであるが、画像診断において重要なことは、適切な時期にきちんとした検査が行われるということである。(中略) 拡散テンソル画像は脳内の神経線維に沿った水分子の拡散の動きを見ることによって神経線維の状態を推定しようとするものであり、病変の位置が特定できている場合には脳機能と病変の関係を見ることについて有益である。ただし、形態学的に異常がない微細な脳損傷の有無を拡散テンソルだけで判断することはできない。
過去記事から ⇒ 23年3月「高次脳機能障害認定システムの充実」から井田医師の意見
高次脳機能障害の依頼者様とは長い時間、二人三脚のお付き合いが続きます。最終的には弁護士による交渉や裁判で事故が解決します。これで一応業務は終了しますが、障害者手帳や福祉関係の手続きで何かとお付き合いが途切れません。当然、受傷から数年間の症状を見守り続けることになります。症状がやや好転する患者、増悪する患者。
一般的に脳外傷による障害は一定期間を経ると「不可逆的」、つまり、改善はなくなります。したがって、安定期後のリハビリは”障害に対処する術をマスターする”ことを目標とします。先日の日誌で取り上げた、”記憶障害の患者がメモ帳を携帯する”手段が代表的です。また、脳の不思議に触れることですが、組織が壊れて活動しなくなった機能が違う部分で動き出す?「脳の代償活動」が起きることもあります。
左図のように脳は大きく4つの部位に分かれ、それぞれ働きが分担されています。
くも膜下出血で左脳がやられ、失語となった患者が訓練を続けた結果、再び話すことが出来るようになった例が少なからずみられます。その患者さんの脳をスペクト(脳血流検査)で観ると、右脳含め、複数の箇所が活発になっています。これは言語野が複数箇所に散らばっていることを示し、男性より圧倒的に女性にみられる傾向です。
さて、私が担当した高次脳機能障害者の皆様はその後、症状はどうなったのか? 非常に気になることです。追跡調査をするまでもなく、追加の手続き等の相談で情報が入ってきます。
おおむね、本人、家族ともに障害に慣れた成果でしょうか。日常の困窮点は対処法を工夫することでカバーできるようになっています。軽度の患者は理解ある職場で活躍しています。また、重い方は障害者雇用や福祉制度の活用でなんとか頑張っているようです。
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本日の病院同行は、脳外傷で意識が回復しない被害者さまです。眼球運動はややあるものの、動くこと、話すこと、表情を表すことがまったくできません。意思疎通不能、完全介護状態です。最近は使われていない言葉ですが、植物人間の状態になります。

事故受傷からもうすぐ3ヶ月、急性期治療はもはや成すすべもなく・・現時点の所見を主治医にご家族と共に伺いました。主治医は「意識が戻るなど、少しでも改善する可能性は0ではないが、ほぼ例がない」と断言しました。それでも家族は「はい、そうですか」と簡単に受け入れることはできません。「なんとか・・わずかでも・・可能性があれば・・どんなことでもします・・お父さんの意識を戻すことはできませんか」何度も何度も医師に食い下がります。医師はその言葉を一つ一つ丁寧に受け止めますが、やはり答えは限りなくNOなのです。家族の顔に疲労と絶望が入り混じった陰が差します。
映画「レナードの朝」のような奇跡が起きればよいのですが、奇跡はあくまで奇跡です。最近ではミハエル・シューマッハが覚醒した例(脳損傷による昏睡状態からおよそ5ヶ月で覚醒した)が有名です。
続いて、私は転院の打合せ、必要な診断書、その他必要な事務について医師や事務方に働きかけて現場の調整を図りました。家族だけでこの難局を乗り切るのは相当にヘビィです。
そして、帰りに被害者さんへ直接、挨拶をしました。ご家族と共に大声でしっかりと話しかけます。聞こえているかどうかはわかりません。しかし、漫画のブラックジャックで、”植物状態の患者の心が生きていて、実は周囲の会話をすべて理解していた”話がありました。私はそれがどうしても頭から離れないのです。
「お父さん、秋葉と申します。色々とお手伝いさせていただいています。長いお付き合いとなりますが、今度ともよろしくお願いします!」 さらに、
「もし、聞こえていたらまばたきを2回して下さい!」
すると、なんとなくまぶたが動いたような(!!!)偶然かもしれません、しかし、それだけでも家族にとっては希望です。これからもこのような声がけをご家族は続けていくと思います。
(追補) 勉強のため随行した今月入所の新人(補助者)にはよいOJT、いえ、人生経験になったと思います。言葉は要りません、これがMC(メディカルコーディネーター)の仕事なのです。
高次脳機能障害の症例でもっとも頻発するは「記銘力の低下」です。これは一般に「短期記憶障害」に分類されます。記憶障害の中でも、昔の記憶を失う「記憶喪失」ではなく、”新しいことが覚えられない”ことを指します。
リハビリ病院では高次脳機能障害に関わる専門家、例えば言語聴覚士さんは「忘れることを防ぐためにメモ帳に記録する癖をつけて下さい」と指導します。これは、障害を改善すること目指すのではなく、障害に対処することを目標とした思考です。
こうして多くの高次脳機能障害の患者は腰にメモ帳をぶら下げることになるのです。最近はスマホで代用できますが、やはり、忘れないうちにスピーディーに記録するにはシンプルなメモ帳スタイルが勝ります。
メモ帳はもちろんどれでもいいのですが、人気はフランス製、RHODIA(ロディア)とのことです。これが今、障害者の中でヒット商品となり、全国的に品薄らしいのです。
今春のドラマ「アイムホーム」で木村拓哉さんが使用した事が発端です。もはやメモ帳を必要とするすべての障害者必携の人気アイテムだそうです。
このドラマの主人公は脳外傷(いえ、心因性かな?最終回で治るそうです)による高次脳機能障害とのことです。しかし、症状は高次脳では珍しい逆行性健忘≒記憶喪失を伴っています。また、ドラマを観ていた依頼者さんによると、相貌失認が象徴的に描写されていたようです。
相貌失認(そうぼうしつにん)…顔を覚えるのが苦手のレベルでは済まない症状は「相貌失認」と言われています。これは脳障害による「失認」の一種です。相貌失認では人の区別だけではなく、「笑っているのか、怒っているのか」など表情を読み取る観察力も失われることがあります。
医師が記載した診断書がすべてではありません。認知障害や記憶障害、注意・遂行能力障害は専門医の観察と神経心理学検査である程度、診断、数値化ができます。つまり、客観的な医証を揃えることが可能です。しかし、厄介なのは性格変化です。当然ですが医師はケガをする前の被害者の性格を知らないからです。
高次脳機能障害の患者で易怒性を発露するケースを多く経験しています。怒るようなことでもないことに激怒する、いったんキレると収まりがつかない、突然キレる、暴言、物に当たる、興奮して奇行を行う、人見知りが極端・・このような症状を示します。家族は事故前後の変化に戸惑い、または精神的に追いつめられていきます。実際、被害者が暴れだして警察を呼ぶような騒ぎに発展したり、対処する家族がノイローゼ気味になるなど、非常に危険な状況に陥るのです。これら家族の苦痛は医師や周囲の人にはなかなか伝わりません。
多少の記憶障害、注意障害は事務処理能力の低下にとどまりますが、実は易怒性を含む、性格変化、情動障害が家族にとって一番深刻な障害なのです。高次脳機能障害の症状でもっとも大きな障害とさえ思います。これを立証する検査がまったくないわけではありませんが、家族の記載する「日常生活状況報告書」が重要な判断材料になります。そして、このA3二枚の書類だけでは到底書ききれない、家族の観察、エピソードを別紙に克明にまとめる必要があります。この作業が等級判定に非常に重要になるのです。家族と何度も何度も修正を重ね、完成させます。また、医師に診断書を記載していただく前にも家族の観察としてある程度まとめたものを示すようにしています。これは易怒性の立証にもっとも重要なプロセスです。お医者さんは24時間患者を診ているわけではないからです。まして診察や検査の時は割と大人しく、易怒性を発揮しない患者もいます。
家族・医師と連携し、この易怒性をしっかり立証した被害者で3級の認定へ導いたケースがあります。逆に最近の相談例では易怒性が評価されず、わずかな記憶・注意障害で9級の認定となった被害者さんがおりました。家族はもちろん、私も悔しくてならないのです。
昨日の記事から専門用語を解説します。それと専門医から最新の治療情報を。
※1 デブリ洗浄=デブリードマン、デブリードメント、略してデブリと呼ばれます。感染、壊死組織は 正常な肉芽組織の成長の妨げとなるため、は創傷外科治癒において最初の処置です。 開放骨折の場合、傷口を洗うような生ぬるいものではありません。骨折面のゴミや骨片を洗浄・除去するにとどまらず、骨と骨髄をゴリゴリ削り取ります。感染症のリスクを低くするため、なるべく多めに組織を除去する必要があるのです。したがって骨の癒合・再生は遅くなります。
※2 イリザロフ法=1951年、ロシアの医師ガブリル・イリザロフが初めて実施しました。人工的に骨を切り、創外固定器(通称、イリザロフ)をつけます。 そして、外から1日1mmぐらいのペースで骨の隙間を広げていきます。その間、骨の自然治癒力により隙間が修復され伸びていくわけです。最近ではケガ(下肢の短縮障害)だけではなく身長を伸ばす手術としても知られています。原始的な方法ですが脚を伸ばすには最も効果があります。

★ 最新知識
本日、専門医の面談にて、感染症の監視のためのPET検査があり、これが有用であることを聞きました。開放骨折では感染症を防ぐことが基本中の基本です。PET検査は一般にガン検査に用いられますが、この専用PET検査はまだ一般的には流布していないようです。